第23話「Mission――星空に誓う約束」
テントの近くで待機するイリーナは、外から聞こえてくる音に耳を傾けていた。
バサバサという鳥たちの鳴き声や、虫が羽ばたく音など自然の音しか聞こえてこない。
彼女は周囲に耳を澄ませながら、星空を見上げていた。
夜空の星々を見ているうちに、母との思い出の場所であり経矢といつか絶対にもう一度行くと約束した、ポケーションの町外れにある湖のことを思い出していたのだ。
「パパ……いつかキョウヤと一緒に帰るからね。ママ……あたしたちの旅を、見守っていてください」
彼女は静かに目を閉じて、故郷の父と亡き母に思いを馳せていた。
お風呂から上がった経矢は、テントの近くに立ち、夜空を見上げるイリーナを見つめる。
彼女の金色に光る長く美しい髪が、月の光と焚火に照らされてキラキラと輝いている。
(やっぱり、夜空の下で見ると普段よりも大人っぽく見えるな……)
ぼんやりと彼女に見とれていると、イリーナはその視線に気づいたようだった。
「あ、キョウヤ! お風呂上がりの牛乳をどうぞ!」
パッと明るい笑顔に変わると、経矢の元に近づき彼の手を引いて焚火の近くに座らせた。
彼女の手はひんやりとしていて、まだ火照っている自らの手に重ねられた経矢にとっては、とても心地の良いものだった。
「ありがとう、いただきます」
イリーナから受け取った牛乳をグビグビと飲み干すと、経矢は星空を見上げた。
「なぁイリーナ。俺の旅はさ。本来は自分がいなくなった後の世界の歴史を調べて、そのあとはこれからの自分の目的を探す旅になるはずだったんだ……」
言葉を区切った経矢の頭の中に浮かんだのは、500年前に死んだはずのルーベンたちの姿だった。
イリーナもまた、経矢の沈黙に、彼が今何を思い、何を考えているのか感じ取っていた。
「けど……。あの連中が生きていた以上、俺には連中の企みを阻止する義務がある。アイツらは……死霊術師アクアのレリクスを探していた……。絶対に良くないことを企んでいるはずだ。この世界のためにも、必ず阻止しないと……!」
拳を握り、強い眼差しで空を見つめる経矢。
その決意に満ちた様子に、イリーナは少々圧倒させる。
それと同時に胸に浮かんだことがあった。
だから、彼女は尋ねる。
「キョウヤ……あのルーベンっていう魔術師たちがキョウヤのことを狙ってるのはわかったし、お姉さんの仇であることもわかった。……けど、この世界のためにって言うのは、1人で背負いすぎじゃないかな?」
イリーナの言葉を受け、彼は一度視線を落とした後、隣に座る彼女を見る。
「たしかにそうだけど……。アイツらやその仲間の企みが成功してしまったら、500年前に死んでいった仲間たちが報われない」
そう語る瞳はどこか悲しげだったが、やはりそれよりも力強さがあった。
「俺は500年前の生き残りだ……。転生した先でも絶望して、もう世界に愛想が尽きそうになっていたけど……。イリーナやスミスさんたちと出会って、希望が持てたんだ。だから、かつて仲間たちが守ろうとしたこの世界を……イリーナたちが平和に暮らしていけるように……守りたいんだ」
経矢の言葉に、イリーナは一言では言い表せない感情が心の奥から湧き上がってくるのを感じた。
500年前も、強い復讐の念を抱えつつも、彼は世界のために戦い続けていたのだろう。
「キョウヤ……」
今の彼女には、名前を呟くだけで精一杯だった。
「大切な人たちを奪った連中を許さない、そしてもう大切な人たちが傷付かない世界にしたい。それが俺のかつての願いだった。……今の俺は、大切な人たちが笑って暮らせる世界を守りたいと思ってる。この力で……」
経矢はそう言うと、空に向かって右手を伸ばしてギュッと力強く握った。
そしてイリーナに優しい笑顔を向ける。
「昔も今も変わらない。大切な人を……その人たちが生きる場所を守ること……。それが俺の
と決意に満ちた言葉を、イリーナに告げるのだった。
Mission……使命という言葉に、経矢の彼自身に対する強制のようなものを感じてしまうイリーナだったが、それでも彼の強い想いは伝わってきた。
「大切な人たちを守ることが使命……かぁ」
経矢のまっすぐな瞳に見つめられたイリーナは、自然と自分の胸に手を置いた。
「1人じゃないからね、キョウヤ。あたしだってキョウヤが笑って暮らせる世界にしたいもん。あたしもキョウヤの仲間だから!」
イリーナは経矢に笑顔を向けながら言うと、自分の手をそっと彼の右拳の上に重ねた。
「イリーナ……。あぁ、そうだな。俺たちは仲間、そして相棒だ」
経矢は彼女の手の上に、さらに自分の左手を重ねる。
「旅が終わったら、コーダの町にまた行こうな。スミスさんにもお礼を伝えないと」
「うん、約束!」
経矢の言葉にイリーナは大きくうなずいた。
彼女の発した約束という言葉を受け、経矢は微笑みながら星を指差した。
不思議そうに首を傾げるイリーナに経矢は言った。
「ポケーションの町の近くにある湖、夜に行くと月や星が反射して綺麗だから行こうね、って前に約束したろ?」
彼の言葉に、胸に温かいものを感じるイリーナ。
ちょうど先ほど、自分も星を見て思い出していたことだったからだ。
何よりたった一度交わしただけの小さな約束を、彼が覚えていてくれたことが嬉しかったのだ。
「覚えててくれたんだ……うれしい」
イリーナは目を細め、声を震わせる。
経矢は彼女の頭にポンッ、と手を置いた。
「当たり前だろ? 絶対に行こうな」
そう言ってニッと笑う経矢に、イリーナはうるんだ瞳でうなずいた。
「うん! ぜったいにぜったいに約束!」
2人は顔を見合わせて少しの間見つめ合うと、また一緒に星空を見上げるのだった。
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