第13話「誓いは必然に ~闇に煌めく陽星~」

 その翌日、もう少しで船が着港しようという時。

 突然のことだった。

 辺り一帯がまるで夜のように真っ暗になり、船内は騒然とする。


「なんだ!? 急に真っ暗に……」

 経矢が辺りを見回すと、他の乗客たちもざわついている。そして船長からアナウンスがあった。

「ユーレイドレシア地方モルディオ国近海の上空にて、謎の発光体が出現したとの情報が入りました。安全のため、一時この場に待機します。繰り返します……」

 アナウンスを受けた人たちはこぞって、自室の窓やデッキから外を見る。

「な……なに……あれ……」

「あ、あれは……なんだ……?」

 イリーナとキョウヤも唖然としてしまう光景だった。


 遠くの空、真っ暗な上空から赤い球体のようなものが次々と海に落下している。

 ここから目視できるということは、かなり巨大な球体だ。

(あんなもの……見たことないぞ……? あんなのが落下したらこの辺り一体は……!)

 経矢は嫌な汗をかきながら、上空から落下してくる赤い球体を見つめていた。

 幸いここからは距離があるが、落下した衝撃が津波となってこっちまで押し寄せる可能性は高い。


「船長! 津波に備えて対津波魔法壁たいつなみまほうへき起動します!」

 船員の1人がそう声を上げる。

「了解! 対津波魔法壁起動!」

 船員の声を聞いた船長が、他の船員に指示を出す。

 すると船を包み込むように青白い魔力によるバリアが展開される。

「対津波魔法壁、起動確認!」

「よし! これで大丈夫だ」


 次の瞬間だった。

 真っ暗な上空でひと際、眩しく輝いた光が上空で何かとぶつかり、大爆発が起きた。

 それからすぐに、前方から凄まじい勢いで波が迫ってくるのが確認できた。

「来ます! 対津波魔法壁、最大展開!」

 押し寄せた波は本来であれば船を転覆させかねないほど強烈だったが、対津波魔法壁のバリアのおかげで、船が転覆することはなかった。

 真っ暗だった空も元通りの明るい空に戻って行き、船員や人々から安堵の声が上がった。

 しかし……。


「お、おい……なんか1つだけこっちに降って来てないか!?」

 乗客の1人が空を指差す。

 そこには、遥か遠くの方で落ちていたはずの赤い球体が先ほどの爆発の影響か軌道を逸れて、船のほぼ真上に落下してきていた。

 その大きさは船を簡単に押しつぶすほどのもので、人々は戦慄する。


 対津波魔法壁はあくまでも津波への衝撃を想定した装備だ。

 仮に再び展開したとしても、一瞬で突破されるだろう。

「無理だ……。防げるわけがない……」

「嫌だ……死にたくない!」

 乗客たちは絶望し、叫ぶ。



「キョウヤ……」

 イリーナが空を見上げている経矢の名前を呼ぶ。

「大丈夫だ。俺が上空で破壊してくる!」

 経矢はナイフを取り出すと、船から飛び上がろうとする。

 が……。


「待ってキョウヤ。ここは……ここはあたしに任せて!」

 イリーナが経矢の腕を引いて引き止めた。

「いや無茶だ。いくらイリーナが銃の扱いに慣れているからって……」

 経矢は、いかにイリーナの腕がいいとはいえ、あの落下してくる球体を一撃で破壊するのは難しいだろうと思っていた。


「大丈夫! だから……信じて? あたしだって、守りたい!」

 イリーナはそう言って優しく微笑むと、上空を見上げて片膝をつきライフルを撃つような構えを取る。

 彼女の手には銃は無い。

「イリーナ……?」

 経矢は銃を持たずに構えだけ取っているイリーナを不思議そうに見る。

 すると彼女の構えに合わせるように白金色の大きな銃が形作られていく。


「そ、それは……?」

 全く予想できなかった光景に、経矢は息を呑む。

 乗客や船員たちもイリーナに視線を奪われていた。

 そうしている間にも隕石のような赤い球体は迫ってくる。

(キョウヤも、この船の人たちも絶対に守る——!)

 イリーナはふぅ、と1つ息を吐く。


 次の瞬間——

 イリーナの手にした銃口から、白い光弾のようなものが凄まじい速度で発射された。

 その刹那、上空で凄まじい閃光と共に爆発が起きる。

 そして閃光が収まり、人々が上空を見上げると隕石のような球体は完全に消滅していた。

 あまりのことに唖然としていた乗客や船員たちだったが、歓声と拍手が沸く。


「イリーナ……今のは……」

 経矢がそう呟くと、イリーナが笑顔で振り向く。

 先ほどの武器はすでに彼女の手には無かった。

「あれはね。キョウヤを追ってコーダの町を出る時に、パパがくれたんだ。"いざという時のために"って」

 イリーナがそう言って、経矢に微笑む。

「そうか……。ありがとうな、イリーナ」

 経矢はそう言うと、イリーナの頭を撫でる。

 そして2人は乗客たちや船員たちに拍手で称えられたのだった。


 2人は、船長から声をかけられた。

「いやぁ、お見事でした! 彼氏さんの方は空を高速で飛ぶし、彼女さんの方はまさかあの巨大な隕石を一撃で消滅させてしまうなんて!」

 船長は興奮気味に話してくる。そんな船長にイリーナは手を振りながら答える。

「あ、ありがとうございます!」

 経矢も微笑みながら会釈した。

(か、彼氏……? 彼女……?)

 イリーナは船長にそう呼ばれて思わず経矢を見た。すると彼は優しい眼差しを返してくる。

 2人は照れくさそうに微笑みあった。



 船が着港するまでの間、経矢はイリーナからさらに詳しく先ほどの銃について聞いた。

 あの銃は、普段彼女が使用している実弾を発射する銃ではなく、彼女自身の魔力をエネルギー弾として発射する魔力銃らしい。

 重い銃を持ち歩く必要はなく、彼女が着用しているロケットペンダントが近くにあれば、いつでも実体化させることができる。

 また用途において銃の形を変化させることが可能なのだそうだ。


「まだ扱い慣れてないし、あたしの魔力じゃあの一撃が限界なんだ。あの隕石が1つで助かったよ」

 イリーナはそう苦笑したが、経矢は首を横に振って答える。

「そんなことないって! さっきの一撃、ほんとに驚いた。それにしてもそんなすごい兵器、スミスさんはなんで持ってたんだろう?」

 経矢の疑問に、イリーナは少し困ったように首を傾げる。

「それがちゃんと教えてくれなかったんだよね。ただ、"大切な人にもらった"としか……」

 イリーナがそう言うと、経矢はスミスのことを思い出す。

(隠し事をするような人じゃないけど……。イリーナにすら秘密のことなのか……?)


 そんなことを考えていると、船のアナウンスが流れる。

「間もなく~間もなく~メラルランドのデブロン……メラルランドのデブロンに到着です。お忘れ物のないように、ご注意ください」

「あ! やっと着いたよキョウヤ!」

 アナウンスを聞いたイリーナが嬉しそうに声を上げる。2人はデッキに出て、船着き場へと向かうのだった。

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