第25話「フォスター家の失格者 ~元王女の告白~」
数日後、ファブリスも旅に出ても問題ないレベルまで回復したことから、マリナたちはワカヤ探しを再開する。
彼の居場所に関しては、常に町で情報を集めていたものの、結局のところこのマルクという小さな港町では有力な情報は得られなかった。
「やっぱりここは帝都ルヴェリオへ行くべきじゃないか?」
ファブリスが地図を指差しながら提案をするが、マリナは首を横に振る。
「わたくしは帝都には行けませんわ。身元が割れればすぐに拘束されてしまいますもの」
「そ……そうか……」
ファブリスはマリナの言葉にうなずく。
……が、すぐに疑問に思って尋ねた。
「ん? どういう意味だ? そういえば、ずいぶん育ちの良さそうな言葉遣いをしてるよな。出身はルヴェリオなのか?」
彼の問いにマリナとエマは顔を見合わせてうなずいた。
マリナは1つ息を吐いて、視線を彼に向ける。
その表情はいつになく真剣だ。
「そうですわね……。ルルもファブリスさんも一緒に旅をする仲間……。ちゃんと身元を明かしておいた方がいいですわね。この間のように、いつまた襲撃をされるかもわかりませんし……」
マリナは一度そこで言葉を区切ると、ファブリスにしっかりと向き直る。
「アムズマ地方最大の国家グレイトバースを牛耳る、フォスター家の元・第一王女マリナ・アルファ・フォスター。それがわたくしですわ」
「!?」
ファブリスの時が止まる。
(……は? 今、なんて言った!?)
一瞬理解が追い付かない彼だったが、すぐに彼女の身分の高さに気が付く。
ディエレント帝国、
フォスター家は世界最強の冒険者と呼ばれる先祖がルーツとされ、彼の血を受け継ぐフォスター家の者たちは、皆特殊な力と非常に高い戦闘能力を生まれながらに有していると言われている。
そんな大国の第一王女が目の前にいる。
あまりの衝撃にファブリスは言葉を失ったままだった。
「お、おい! 第一王女!? そんなお姫様がなんでこんな所にいるんだ!? いや、そもそもなんでそんな身分の人が冒険者なんてやってんだよ!?」
彼は混乱した頭で矢継ぎ早に質問を投げかけた。
「こほん……ですから……わたくしは第一王女ではありませんわ。……元・第一王女です」
マリナは少し恥ずかしそうな悔しそうな、そんな表情を見せた。
「……は?」
「え? 元?」
ファブリスとルルはキョトンとする。
「……ええ。フォスター家の子供たちはみな、一族に定められた試練に挑まなければならない……。失敗は3度まで。3度失敗した時点で本来であれば、その者は死罪か命尽きるまで幽閉……。わたくしは3度失敗して、国を追放されましたの……」
それを聞いたファブリスの肩が震え出した。
「な、なんだよそれ……。ふざけてる……!」
ファブリスは歯を食いしばって、マリナを睨み付けた。
彼女への怒りというより、そんな過酷なことを彼女に押し付けたフォスター家に対しての怒りだった。
ルルはその事実に胸を痛めるも、なんと言えばいいのか言葉に窮しているようだ。
一方のエマは、主君であるマリナに任せるように瞳を閉じて落ち着いて聞いている。
「家族を……自分の子を……試練に挑んで失敗すれば死罪!? そんな馬鹿な話があるか!」
彼は怒りに任せて叫んだ。
その強い正義感を持つ彼には、到底受け入れられない話だったのだろう。
「……ええ、そうですわね。それがごく普通の反応だと思いますわ」
マリナは目を伏せてうなずく。
「でも、フォスター家は遥か昔からそのしきたりに従って来ました。だからこそグレイトバースは強大な国家として存続してきたのですわ。……そして、わたくしはその選定から漏れた。……つまり、失格者なのですわ」
マリナはかつての悔しさを思い出すように拳を握りしめる。
「失格者だなんて……そんなこと言わないでよ!」
ルルはマリナをギュッと抱きしめた。
彼女の素直な優しさは、話すことで辛くなり始めていたマリナの心を少し楽にした。
「ありがとう、ルル。でも、事実ですわ。とにかくわたくしは、試練に失敗した……。フォスター家王女の地位をはく奪され、一市民として生きることを条件に命だけは見逃され、国を追放されたんですの」
「だから……冒険者になったんだな?」
ファブリスの言葉にマリナはうなずく。
「ええ。だけどそのままの自分の弱さを認めたくなかった。そして、それからわたくしは強くなるために修行を始めた。……それが良くなかったのね。一市民として生きるという条件を破ったとして、お父様はわたくしに国の刺客を送り込んで来るようになった。……わたくしを殺害するために」
「そんな……」
殺害……というマリナの言葉に、ルルは絶句する。
「自分の娘を殺害するために刺客を送り込むなんて……イカれてやがる……」
今度は声を荒げないファブリスだったが、静かに怒りの炎を燃やしていた。
「まぁ、でも一緒に国を抜けてくれたエマもいますし、なんとか今まで逃げ切ることができましたわ。だからわたくしは冒険者になって、わたくしが強くなるための試練を探し始めたんですの」
「……それでワカヤにたどり着いたってことか……」
ファブリスの言葉にマリナはうなずく。
そこまで聞いた彼は、マリナが帝都ルヴェリオに行けないのか、その理由についても大体の察しは着いた。
グレイトバースの絶大な軍事力は帝国にとって無視できない存在だ。
外交関係を保っている中唐君主国と違い、グレイトバースとは完全に国交が途絶えている関係上、何が起爆剤となるかわからない。
帝国にマリナがフォスター家出身だと知られれば、フォスター家の情報を引き出すために彼女を拘束する可能性は十分にある。
そうでなくともマリナがグレイトバースを追放されていることを知らなかった場合、下手をすれば帝国への潜入や破壊工作を疑われ、帝国はグレイトバースに対して何らかのアクションを起こすかもしれない。
そうなれば、グレイトバースと帝国が近いうち抗争状態に発展してしまう可能性だって、ゼロではなくなるだろう。
「転生者であるワカヤや強い連中と戦って強くなる。そして最強を目指すってのが、お前の試練ってわけだな」
ファブリスは腕組みをして納得したようにうなずく。
「ええ……そういうことですわ。だから、ワカヤ・ウシカタを一刻も早く見つけ出さなくてはならないんですの!」
マリナはそう言って強く拳を握った。
「う~ん、み~んな牛方を探してるんだね~」
ルルが腕組みをして首を傾げる。
「牛方?……ワカヤのことか。……ん? ルルちゃんもワカヤのこと探してるのか?」
ファブリスがそこまで言ったところで、ルルはニッコリと微笑んだ。
「うん、牛方に会って話したいことがあるんだ!」
その笑顔にファブリスはまたしても、
「ふぉああっ!」
と叫んで心臓を抑え込む。
マリナとエマがそんな彼をジトッとした目で見つめる。
「ご、ごほん……。と、とにかくだ。マリナとエマがグレイトバースから追放されて、今追手に追われてることはわかった。そして帝国にも素性を知られたくないこともな」
ルルへの照れをごまかすように話し始めたファブリスだが、彼なりにこれまでの話を整理してくれた。
「ですが、この辺りでは情報を集められないのも事実ですもんね……」
エマが顎に手を当てて考え込む。
うーん、と4人が4人とも頭をひねる。
「まぁでもどの道、もう少し大きい町に行く必要があるな。帝都まで行かなくても、帝国領にはデカい町がたくさんある」
ファブリスの提案に一同はうなずく。
「ええ、そうですわね。まずはもう少し大きな町へ行ってみないと……」
「目立たない服装に変装すれば、怪しまれないでしょうし」
マリナとエマが口々に言う。
「変装は大事だよね! ルルもよく変装するからいいの選んであげるね!」
ルルもニコニコと同意し、全員の方針が決まった。
「それじゃあ、さっそく行きますわよっ!」
スッと立ち上がり拳を突き上げるマリナ。
が……。
「……って……。ど、どこに行けばいいのかしら……あはは……」
勢いよく立ち上がったはいいものの、この辺りに全く詳しくないマリナ。
(うーん! 張り切っちゃってるマリナ様かわいい~!)
エマはそんなマリナを見て内心萌えていた。
「ふふん、ここは俺に任せてくれ! この辺りは何度か来たことがあるからな!」
ファブリスはドヤ顔で胸を張る。
「さっすが、ファブさん! 頼りになるぅ!」
「そ、そうかぁ? ル、ルルちゃんに頼りにされちゃあなぁ! へへへ」
ルルがキャッキャッと喜び、ファブリスはデレッと相好を崩す。
「ファブリスさん、ルルにデレデレしすぎですわよ」
マリナが半ば呆れたようにため息をつく。
「い、いや……すまん! つい……」
そんなやり取りをしつつ、一同は町を出発する。
「では行きましょう! ファブリスさん、道案内、よろしくお願いしますわね」
マリナの言葉に、ファブリスは力強く返事を返し、彼を先頭にして一行は歩き始めた。
青空の下、四人の影は並んで伸びていた。
その歩みは迷いなく、新たなる目的のため、続いていく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます