第16話「兄妹との再会 ~兄の冷たい眼差し~」

「マシュー……」

 マリナは複雑な心境のまま、倒れた弟の元に駆け寄ろうとする。

「あーあ。可愛い弟をこんなにボロボロにするとか、マリナ姉ひどくね~?」

 上空から突如として聞こえた声の方を向くマリナ。

「ベラ……!?」

 現れたのは、これまたマリナの妹、ベラ・デルタ・フォスターだ。

「イェーイ☆ マリナ姉元気してた~?」

「おかげさまで。相変わらず、派手な髪とお化粧ね」

 ベラは、赤や紫と奇抜な色の髪を盛り盛りにしており、化粧も派手だ。


「まぁね~? あーしくらいになると、身だしなみにも気を使わないとだからねぇ☆」

「……相変わらずで安心しましたわ。……マシューの加勢に来たんですの?」

 マリナが警戒しながらそう問いかけると、ベラは首を横に振る。

「ん~にゃっ、違う違う。実はさ、この辺りに用事があって何人かの兄弟で来てたんだよね~。そしたらマシューが急にどっか行っちまって、追いかけてきたらこうなってた感じ」

 ベラは、マシューを見下ろしながらそう言う。

「……そう」

 マリナは何か裏があるのではないかと一瞬警戒するのだが、彼女は嘘を言っているようには思えない。

(……ベラは昔から裏表が一切ないし、嘘も下手なタイプですわ)

 マリナは、警戒を解く。


「にしてもさ、戦い見てたよ。やっぱマリナ姉、強いじゃん? なのに、なんで試練に何回も落ちたんだろうね~?」

「……。それで? マシューをどうするの?」

 試練の件に関しては何も答えず、マリナがマシューの処遇について尋ねると、ベラは腰に手を当てながら首を傾げる。

「え? 普通に連れて帰って治療するけど?」

「そう。わたくしのことは? お父様に捕縛か抹殺を命じられているのではなくて?」

 マリナがそう問いかけると、ベラはケラケラと笑う。


「きゃははは☆ 戦うつもりならこんな悠長に話なんかしないって~」

「……それもそうね。では、わたくしを見逃してくださるのかしら?」

 マリナが尋ねると、ベラはうんうんと頷く。

「あーしは今回別の任務で来てるし? マシューは大怪我させられたけど、そもそも独断で行動したコイツにも否があるし……」

 ベラがそこまで言うと、マシューの体が宙に浮く。……と、共に別の人物が姿を見せる。



「そうだ。それに、我々が与えられた任務はお前の身柄などよりも重要なものだ」

 感情が無いような冷たい声。宙に浮いたマシューを引き寄せた人物を見て、マリナは心臓が止まりそうになっていた。

「グレイ……お兄様!?」

 マシューを引き寄せたのは、白銀の髪に青い瞳をした美青年だった。

 彼の名は、グレイ・ベータ・フォスター。ベラや、マリナの兄にしてフォスター家の次男だ。

「久しぶりだな、マリナ。しぶとく生きていたようだ。……どうでもいいが。……父はいずれお前を処分する意向だが、任務としての優先順位は高くない。何故かわかるか?」

「……」


 グレイの問いに、マリナは答えない。いや、グレイに圧倒されて言葉を発することが出来ないのだ。

「簡単な話だ。お前を消すことなど、その気になれば造作もないことだからだ」

 刃物のように鋭く、冷たい言葉がマリナに突き刺さる。

「うわぁ……グレイ兄、厳し……」

 ベラは、グレイの冷たさに苦笑いしている。

「マリナ、国を出たお前は自分たちの力で生き延びてきたと思っているのだろうが、それは違う。父を始め、我々が見逃してやっていただけだ」

 その言葉を否定したいマリナだったが、目の前にいる兄、グレイには昔から一度も勝てたことが無かった。

 頭に嫌というほど刻まれたグレイの圧倒的な強さが、彼女の口を、足を止める。


「お前は未だ自分が強いと錯覚しているようだが、我々には遠く及ばない。ここは見逃してやる。今日も生き延びれてよかったな」

 そう言うとグレイは、マリナに興味がないようにマシューを抱えたまま飛び去る。

「あーぁ、グレイ兄ってばあんなに言わなくてもねー。じゃあ、マリナ姉! 生きてたらまた会おうね~☆」

 グレイに続き、ベラも手を振ってその場から去っていくのだった。



「……っ!」

 悔しさと情けなさから声にならない声を発するマリナ。

 国を出て、旅に出た。

 城にいた時には想像もつかないような冒険をして、強敵を打ち倒し、少しは強くなったと思っていた。

 だが、久しぶりに再会した弟に思わぬ苦戦を強いられ、兄に恐怖を感じて言葉を発することすらできなかった。

(なんて……なんて情けないの!! わたくしは強くなんてなってなかった……。最強なんて程遠い……。このままでは、お父様にもお兄様にも一生勝てない!)

『我々が見逃してやっていただけだ』

『今日も生き延びれてよかったな』


 先ほどのグレイの言葉は事実だ、とマリナは感じてしまう。もしあのままグレイに殺意を向けられていたら、自分は間違いなく死んでいただろう、と。

「わたくしは、わたくしはっ……!」

 気が付くとマリナは涙をこぼしていた。

「わたくしは、強くならないといけないのにっ……!!」

 膝から崩れ落ち、マリナは地面に拳を打ち付ける。

「どうすれば……強くなれるの……? どうすれば……お父様たちを見返せるの……!」

 そう叫んでみても、誰も答えてはくれない。

「……っ!」


 しばらくそうしていたマリナだったが、彼女は涙を拭って立ち上がる。

「こんなところで……挫けてなんかいられないわ! わたくしは強くなる。強くなって、必ずお父様たちを見返してやるのだから……!」

 そう強く決意するマリナだった。

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