第11話「ワカヤを探す者 ~踊り子ルル~」

 マリナとエマは、港町の宿屋で一晩を明かした。

「さて、アンとチェルシーが近くにいますし、しばらくは身を隠していた方が良さそうですわね」

 マリナがそう呟くと、エマは同意するように頷く。

「はい! 2人が諦めてくれれば良いのですが……。あの2人の強さは本物でしたから、油断はできないですね……」

「ええ。それにあの子たちで敵わないとなれば、すぐにでも他の兄弟姉妹が送られるでしょうね。今はまだ、やり合いたくはないですわ」


 2人は宿を出る前に、目立たない衣装へと着替える。町娘で通じるようにアルセィーマの文化圏に合った衣装を、エマが用意していたのだ。

「まぁ! マリナ様、とっても可愛い♡ その衣装を選んで正解でした♡」

 エマは身を悶えさせながら、興奮したようにマリナに拍手を送る。鏡で確認しながら、髪留めなども素朴な物を選ぶマリナ。

「確かにこの格好なら、誰が見ても町娘ですわね。アンたちは町には入って来ないでしょうから、しばらくは身を隠せそうですわ」



 2人が町に出て歩いていると、何やら大勢の人が集まり、騒いでいる場所がある。人々が集まる視線の先には、少し高い舞台のような場所があり、そこで10代ほどの愛らしい少女が踊っていた。その少女がポーズを決めたり、視線を投げかけたりする度に集まった人たちからは歓声が上がる。


「まぁ、踊り子? でしょうか」

 エマがそう呟くと、マリナは興味深そうにその少女を見つめる。

(あの子、相当に踊りができますわね……)

 そんなことを考えているうちに、少女は踊りを終えて舞台から降りていった。


 踊りが終わったことに落胆する人々だったが、彼女はすぐに衣装を変えて舞台へと舞い戻る。先ほどの美しい踊り子の衣装とは異なり、スカートの丈が短く、全体的にキラキラとした可愛らしい衣装だ。


「みんな~! まだまだ歌えますか~!!?」

 この辺り一帯に反響魔法の効果を掛けてあるのか、遠くまで彼女の美しく愛らしい声が響き渡り、その問いかけに再び歓声が上がる。

「うふふ♪ ありがと~! それじゃ、いっくよ~!」

 少女が歌い始めると、それに合わせて楽器の演奏が始まり、それとともに彼女は踊る。先ほどの踊りとは一転して、可愛らしくリズミカルなダンスに観客たちは魅了されていく。


「ルルちゃん! ルルちゃん!」

 観客たちは曲の決められたところで、少女の名前の合いの手を入れる。

「ハイッ! ハイッ! ハイッ! ルンルンルルちゃん!! ルンルンルルちゃん!!」

 観客たちの一糸乱れぬ、洗練された動きと合いの手はまるで訓練された部隊のようだ。そして曲が終わると同時に、観客たちは一斉に立ち上がり、少女と楽団を讃えるように拍手を送るのだった……。


「みんな~! 今日もルルのために来てくれてありがと~!!」

 踊りを終えた少女、ルルは集まった観客たちに手を振っている。

「ルルちゃ~ん! 可愛いぞ~!!」

「ルルた~ん、萌え~!!」

「きゃ~! ルルちゃま~! こっち向いて~!!」

 ルルに黄色い声援を送る観客たち。その様子から相当な人気であることが窺えた。


「そういえば……。ワカヤ・ウシカタの情報を知る少し前、瞬く間に熱狂的な人気を集めた踊り子が帝国領にいる、と新聞に載っていたような気がしますわ。恐らくあの子のことですわね」

 マリナはルルを見ながらそう呟くと、クルリと踵を返す。

「ちょっ! マリナ様? せっかくだし、もう少し見ていきましょうよ~!」

 歩き出したマリナにエマが提案するが、彼女は首を横に振る。

「もう十分でしょう? わたくしにはやるべきことがありますもの」

 歩みを止めないマリナ。

「あ~! もう! なんで行っちゃうんですか~!!」

 エマが不満そうに頬を膨らませながら叫び、追いかけようとした時だった。



「ルルから皆さんに大切なお願いがあります! ルルにはどうしても会わなければならない人が2人います……。1人にはもう会えないかもしれないけど、もう1人とはまだ会えるかもしれないんです!」

 観客たちにお礼の挨拶をしていたルルが、今度は真面目な声で話し始めた。マリナはその言葉を聞きながらも背を向けて歩いていたが、次の言葉で思わず足を止めて振り返る。


「その人は牛方若矢うしかたわかやといって、ルルのお兄ちゃんなんです! ルルは若矢お兄ちゃんに会って、謝らなければいけないことがあるんです。どんな些細な情報でも構いません。彼について何か知っていることがあったら、ルルに教えてください!」

 ルルの言葉を聞いたマリナとエマは、互いに顔を見合わせてうなずく。

(牛方若矢!? ワカヤ・ウシカタのことですわ!)

「ど、どうしてあの子がワカヤ・ウシカタのことを知っているんでしょう? それにお兄ちゃんって……」

 エマがマリナに尋ねるが、彼女にも答えようがない。だが、今は少しでも情報が欲しいところだ。

「エマ、彼女とは利害が一致するかもしれませんわね。彼女が1人になるタイミングを見計らって、接触しますわよ」

「か、かしこまりました! マリナ様!」

 2人は頷き合うと、ルルが1人になるタイミングを見計らうことにした。



 ~数時間後~

「って……なんなんですのこれぇ……」

 長蛇の列に並び続けているマリナは、疲れ切った顔をしている。

「握手会っていうらしいですね。彼女のファンいわく、これも彼女が始めたことだとか」

 エマがそう言うと、マリナは項垂れながら答えた。

「はぁ……。握手のためだけにこんなに長時間……。正直わたくしには理解できない世界ですわ……」


 それからさらに数十分後、ようやく列の先頭に辿り着いたマリナはルルの前に立った。

「わぁ~! 初めましてだよね? 今日は来てくれてありがと~♪」

 ルルは嬉しそうに飛び跳ねる。

「ど、どうも~……」

 そのテンションにマリナは少し困惑しながらも笑顔で握手する。


 ルルが何かを言いかけようとしたが、マリナが小声で要件を伝える。

「わたくしもワカヤを探していますの。お互いが今知っている情報を、交換したいですわ」

 マリナの言葉を、ルルは真剣な表情で聞いている。

「すぐ後に握手に来るわたくしの友人が、待ち合わせ場所を伝えます。数日はこの辺りに滞在していますので、あなたのタイミングが良いときに訪ねて来てくださいませ」

 ルルはマリナの言葉が終わると、真剣な表情のまま力強くうなずくのだった。

 マリナは彼女がうなずいたのを確認すると、にっこりと微笑む。

「とても素晴らしい歌声と踊りでしたわ! ありがとうございます!」

 と伝え、その場を後にするのだった。



 宿に戻ったマリナとエマ。

「わたくしが要件を伝え、エマが待ち合わせ場所を伝えてくれた……。あの様子ですし、きっと彼女は来ますわね」

 マリナがそう言うと、エマも頷く。

「はい、握手の際に彼女は必ず会いに来ると言っていました……。ただ最近過激なファンに付きまとわれているから、少しだけ慎重に行動させて欲しい、とも」

「ええ、万が一何かあればこの部屋で保護しましょう。ただ……彼女ほど有名な人物と長く一緒に居るのは、身を隠しているわたくしたちとしては危険かもしれませんわね……」

 マリナはそう言うと、部屋のソファに腰掛ける。

 ルルには聞きたいことがたくさんあったが、彼女と行動をするのはあまりに目立ちすぎる。

 そのため、情報だけ交換して行動は共にしない方向で彼女に会うことを2人は決めたのだった。

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