ゲームランカーのスパダリ彼氏
真義あさひ
第一章「最強ランカーのリアル彼氏はスパダリ覚醒する」高瀬怜司編
リアル彼氏の危機
『緊急ニュース! ヴァーチャルゲーム〝Legend of Infinity〟の有名ランカー二条泰然のゲーム恋人の数は……なんと12人!』
『最新の恋人は、去年のアカデミー主演男優賞にノミネートされたハリウッド俳優、ジェイク・マクナゲット!』
『二条泰然は
平凡な人生を生きる高瀬怜司は、非凡な彼氏のそんなニュースに自分の目と耳を疑った。
「何だこれ……そんなの知らない……聞いてない……」
だって昨日までの週末も、怜司は恋人の泰然と二人きりで過ごしていたのだ。
☆ ☆ ☆
朝の光がカーテンの隙間から、静かな寝室に淡く差し込んでいる。
「……泰然?」
高瀬怜司はシーツの間から手を伸ばすが、指先が触れたのは、冷えきったシーツだけだった。
昨夜、あれほど甘く抱き合ったはずなのに、恋人の温もりはすでに消えている。
(……またゲームか?)
前もそうだった。怜司が後から起きる頃には、泰然はリビングでゲームを始めていて、怜司のことなど放ったらかしにする。
(ゲームなんかより、僕を構って。……って言えたらいいんだけど。無理だよな。相手はプロゲーマー様だ)
怜司自身も、泰然には優しい恋人でいたかった。だから今までの長い付き合いで彼に何か、ゲームのことで文句を言ったことは滅多にない。
恋人のいないベッドにいつまでも潜っているのは味気ない。大きく伸びをして起き上がり、寝癖だらけの薄茶色の髪をそのままにキッチンへ向かう。
コーヒーを淹れ始めると、濡れた黒髪をタオルで拭きながら二条泰然が現れた。
「ふぁ~、よく寝たあ。おはよう、怜司」
泰然は肩にタオルをかけ、無造作に腕を伸ばしながら怜司に近づく。
「おはよう。ぐっすりだったみたいだね」
「ん、めっちゃ寝た。コンディション最高」
泰然はそう言ってキッチンの椅子にどっかりと腰を下ろす。
怜司は無言でコーヒーカップをテーブルに置き、泰然の濡れた髪に目をやった。
「髪、拭くよ」
「ん、いいぞ」
怜司は渡されたタオルで泰然の黒髪を丁寧に拭き始める。シャンプーのほのかな香りが漂い、濡れた髪が指に絡まる。
至福だ。本当なら髪を洗うところからトリートメントまで自分がやりたいが、今日はチャンスを逃してしまった。
「お前、朝から余裕あるな」
泰然がぼそっと言う。怜司がコーヒーを淹れていたことか、それとも髪を拭く手つきが丁寧すぎることにか。不満げな声音だった。
怜司は小さく口角を上げた。
「昨晩の僕に何かご不満でも?」
「へっ!? え、いや、そんなことは……ない、けどさ……」
泰然の耳が赤く染まる。昨夜の熱い時間を思い出したらしい。
「ん……怜司の手、気持ちいいな」
思わず漏れた、といった泰然の甘えた声に胸がドキッとした。
『怜司。気持ちいい。……もっと』
昨晩の泰然からの〝おねだり〟がフラッシュバックした。
もしかしたら、今日はこのまま甘い恋人モードのまま過ごせるかも。
そう期待したが、残念ながら泰然からのアプローチはないようだ。気持ち良さそうに髪を拭かれているだけ。
怜司はそれ以上追及せず、手早く髪を拭き終えて泰然の肩を軽く叩いた。
「ほら、コーヒー冷めるよ」
「……ありがと」
怜司も椅子に座り、自分のカップに手を伸ばす。
泰然は少し遅れてコーヒーを啜り、日本人離れした赤い瞳で怜司を見た。
「怜司、今日予定あるか?」
「特にない。君は?」
「
即答だった。泰然はスマホを取り出し、ランキング画面を開く。
VRMMORPGはメタバースの仮想現実、バーチャルリアリティシステムを使った大人数で同時進行プレイするRPGゲームである。
LOIは十年の歴史を持つVRゲームで、ユーザー数だけなら世界で数億人を突破している。
ファンタジー系の世界観で冒険者として戦うもよし、生産者として物作りするもよしの、やり込み要素満載のゲームとして知られている。
泰然は中学時代、リリースされた最初期からのプレイヤーだ。
――23になった今はプロとして活躍している。
泰然はどこか甘えた口調で、
「なあ怜司、お前もLOIやろうぜ! 今ならきっと……」
「やらない」
即答だった。
「えー! 俺と一緒にやりたいとか思わないのか?」
「リアルで君の隣にいるだろ」
「……はいはい、そういうのはいいから」
泰然は唇を尖らせ、少し拗ねたようにスマホをいじる。
怜司は苦笑しながら空になったカップを片付けた。
(こんな甘えた口調の泰然、知ってるのは僕だけだろうな)
「やるならプレイヤーより開発側のほうが僕は好きだ」
学生時代からアプリ開発が趣味の怜司らしい発言だった。
「そりゃ知ってるけどさ。俺よりプログラミングのほうが大事なのか?」
「………………君だって僕よりLOIが大事じゃないか」
ああ、言ってしまった。だが泰然は気を悪くした様子もなく、むしろ楽しげに怜司に笑った。
「ばーか。俺の一番はおまえだぞ? そんなことも知らないのか」
「……うん」
一番欲しい言葉がもらえた。でも上手く誤魔化された気がする。
その証拠に、泰然はスマホを置いて、ヘルメットタイプのヘッドセットを手に取った。VRの世界へ飛び込む準備を始める。怜司が泰然のために用意した特注のギアだ。
今どきはカプセル型のフルダイブマシンもあったが、泰然は
そんな様子を怜司は横目でちらっと見る。
そそくさと、スマホで泰然の動画チャンネルを開いてBluetoothイヤホンを装着した。
別に興味がないわけではないのだ。恋人が好きなものは、怜司だって好きになりたい。
でも。
ヘッドギアを被った本人は静かなままだが、スマホと接続したBluetoothイヤホンからは泰然の勢いのある叫びが聞こえてくる。
『おはよう、諸君。さあ、今日もデイリータスクの消化から行こうか!』
黒い軍服に真紅のマントを羽織った泰然が、自信たっぷりに自分のギルドメンバーたちに檄を飛ばしている。
ゲームと同時に動画の実況配信も自動スタートだ。
コメント欄に次から次へと視聴者たちのコメントが流れていく。
『ギルマスおはようございます!』(投げ銭1200円)
『泰然様おはようです!』
『推しが今日も輝いてる!』(投げ銭3000円)
泰然は戦場を駆け、自分の身体より大きな大斧を振り回してモンスターたちを圧倒していく。
その姿は確かに眩しい。
コメント欄がさらに熱狂する。
『この顔で強すぎるのズルい』
『泰然様と結婚したい』(投げ銭15000円)
コメントにはちらほらと、〝投げ銭〟と呼ばれる視聴者からの支援金が投下されている。
千円から始まって数万、中には十万単位のものもある。
プロゲーマー泰然の貴重な収入源だ。
怜司はスマホを手に、泰然の配信を一瞥した。
「……楽しそうだな」
呟いて、画面を閉じる。
恋人が夢中になる姿を見るのは嫌いじゃない。ただ――
(泰然がゲームを始めると、デートが終わってしまう。僕は寂しいよ。泰然)
『ゲームより、僕を見て』
いつも喉から出そうになっては、必死で押し留めている怜司の本音だった。
だがそれでも、高瀬怜司は二条泰然を愛している。
だから本音を言えなくて、ずっと自分の中だけでモヤモヤしたものを抱え続けていた。
「お前の彼氏、LOIランカーの二条泰然だろ? 有名人だよなー、昨日の配信ヤバかったよな」
翌日、職場の同僚の何気ない言葉が怜司の耳に刺さった。
「最近また世界ランク上がってるし」
「ランキングトップ10常連だもんな。また1位奪還も近いんじゃないか?」
「ゲームの中で恋人作れるのも、あれ面白いよなー」
……〝ゲーム恋人〟?
怜司の心に小さな棘が刺さり始めた瞬間だ。
「泰然イケメンだしな。下手なアイドルやスポーツ選手より映えるし」
「CMに出た会社の株、必ず動くよねえ」
「うちのお袋も、泰然がCMに出た洗剤買ってましたね。パッケージに写真あるからつい買っちゃうらしくて」
「「「わかる!」」」
同僚たちの笑い声が響く中、怜司は無言でスマホを開いた。
泰然のランキングは確かに上位に食い込んでおり、コメント欄には熱狂的なファンの声が溢れている。
「まあ、リアルでは僕のものなんだから問題ないか」
怜司はそう自分に言い聞かせて、スマホを閉じた。
だが後に、小さな棘は怜司の心を完全に引き裂くことになる。
数日後。
『緊急ニュース! ヴァーチャルゲーム〝Legend of Infinity〟の有名ランカー二条泰然のゲーム恋人の数は……なんと12人!』
『最新の恋人は、去年のアカデミー主演男優賞にノミネートされたハリウッド俳優、ジェイク・マクナゲット!』
『二条泰然は
今日は同居の弟も飲み会で不在だ。
夜、一人で泰然の動画配信を見ながらワインを飲んでいた怜司は、突如として割り込んできたニュース速報に息をのんだ。
タブレット画面には泰然の輝くような笑顔と、見知らぬ金髪男の顔が並んでいる。
コメント欄が爆発的に盛り上がっていた。
『お似合いすぎる』
『ジェイク×泰然、神カプ!』
『泰然様、リアル彼氏いるのにマジ?』
『あ、そうだリアル彼氏はどこよ?』
怜司は静かにワイングラスをテーブルに置いた。指が震える。
リビングのテレビをつけた。
『速報が入っています。バーチャルゲーム、VRMMORPG〝Legend of Infinity〟のトップランカー二条泰然が、ハリウッド俳優ジェイク・マクナゲットとゲーム内で恋人契約を締結しました!』
「………………」
民放のテレビ局でも緊急速報が報道されている。
『現在、二条泰然のゲーム恋人は12人と発表されています。では〝Legend of Infinity〟に詳しいゲーム評論家の○○○氏に話を聞いてみましょう』
必死にLOIの公式情報を検索し、表示された文章に打ちのめされた。
『恋人契約システム──プレイヤーのレベルに応じて持てる恋人の数が決定!』
「そんなの知らない……聞いてない……」
更に詳細を調べて、その場に崩れ落ちた。
『恋人契約を結んだバディは、互いの同意があればバーチャルセックスも可能!』
「……泰然?」
静かな部屋に、怜司の声だけが虚しく響いた。
※本日よりカクヨム先行で公開スタート
「BL×ゲーム世界×リアル経済×実況配信」のスパダリ×ランカーもの。
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