第15話 求道する人生
ロキ・ノヴァクは、生まれた時から修羅の道を歩む男だった。
ガンマ市で高級レストラン『オブ・ノヴァク』を営むノヴァク家に生まれた彼は、店の売り上げが伸び悩んでいたことをきっかけに、両親から料理が完璧にできないと虐待される苛烈な教育を受けた。
「なんで父さんと母さんの子供なのに料理がうまく作れないんだ!ロキ、それでもお前はノヴァク家の子か!」
「パパ……ごめんなさい……」
「今日は飯抜きだぞ、ノヴァク!それかこの失敗した料理でも食べてろ!」
ノヴァクは料理を失敗するたびに父親から激しく怒鳴られ、時には殴られたり飯を抜かれたりすることもあった。母親はそんな彼に一言も話しかけず、むしろ父のことを肯定しているようにすら見えた。
そんな父の教育により、彼はもともと持っていた才能が開花した。
一度工程やレシピ本を見た料理のレシピは絶対に忘れない記憶力。
繊細・正確に料理をするためのセシウム原子時計の如き体内時計。
1mlのズレもない目分量を可能とする視力、突然変異による鋭い味覚。
その才能が開花してからは、彼は両親を上回る料理スキルを持つようになり、やがては弱冠14歳で店の調理を継ぐことになった。
「パパ、ママ。僕はもうこのレストランを次いでいいのかい?」
「ああ、いいとも。もうここまで大きく才能が芽生えたのなら、今までやったくらいのトレーニングで十分だろうからな」
「お父さんの言うとおり。オブ・ノヴァクの接客とか経営とかそれ以外のことはとりあえずパパとママが今のところはやっておくから、ロキは料理を作ってちょうだい」
「わかった。お父さんとお母さん、この店の力になれるように頑張るよ」
料理をロキが作り始めて以降、オブ・ノヴァクにはかつての栄光が戻ってきた。客は全盛期より少し多い程度にまで増え、ほぼ常にレストランのテーブルが全て埋まってしまっていることも少なくなかった。
「1日3回このレストランに通いたい!」
「以前より100倍は美味しくなったんじゃないかな?」
「この男の料理は、舌に至高の救済を与える……」
しかし、ここまで彼の料理が評価されても彼は決して驕らず、ストイックな努力を続けている。
『料理はこの世で最も尊き道、喰らうことは生そのもの』。それが彼の哲学であった。
無限に食品と調理器具を出すことができる原罪を持った彼は、味のイメージを深めるためにより美味しい食材を食し、その食材のイメージを固めたり、生成した調理器具を自分の体の一部のように使い、名前までつけて愛用しながら定期的に新調するなど、自分という玉を磨き上昇し続けた。
当然そんな彼も大人になり、やがて本格的に店を継ぐ。その過程で、彼は料理スキルだけでなく、ウェイターとして料理を提供する方法やレストランを『店』として捕らえた時の経営術などを学んでいた。
ガンマ市に住む一人の女性から求婚された彼は、その求婚を受け入れ、娘を一人授かる。虐待される辛さを知っていたロキは、親が子を自らの教育のために傷つけることの邪悪さを知っていたロキは、可能な限り快適な環境と待遇で娘を育てていた。代わりに、彼は弟子を取っていた。
「究極の美味のためであれば何をしても許される。それが
しかし、彼の料理を探求する心に影が落ちる。
ある時は、法を破ってまで希少生物を乱獲し。
ある時は、生物学に詳しい傘下に家畜や植物を遺伝子改造させて味を対価に長く生きられないようにし。
ある時は、娘のペットのうさぎを生きたまま丸焼きにして客に出し。
ある時は、料理に旨み成分でもあるからと有毒の化学物質を盛り。
ある時は、自分の店で迷惑行為を働いた客を捕らえて自殺を強要して生み出した咎人を料理して客に出した。
「おい、こんなことして許されると思ってんのか!お前、いくらなんでも調子に乗りすぎだぞ!お前なんかもう師匠じゃない!」
「……おやおや、何を言っているのか分かりかねますね」
こういうのも当然である。本人的に『結局客が食べるから食べ物は粗末にしていない』という認識なので悪だとは思っていない。彼にとっては善意による行動以外の何でも無いのだ。
やがてはチェーン店や傘下のレストランを経営するようになり、その名はゲヘナ・ハイヴ中に轟いていく。
ゲヘナ・ハイヴでは、彼のことを無数の人間に暴食を与えたとして、『暴食王』と呼ぶようになっていた。
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