不可思議カフェ百鬼夜行は満員御礼
一花カナウ・ただふみ
業務日誌・01
第1話場違いな工芸品
カウンターに見覚えのないガラス製のオブジェが置かれている。近づいてよく見てみれば、透明な何かで作られた
「――これ、誰かの落とし物か何かか?」
スタッフルームから出てきた店長に話を振ると、彼は首を横に振った。
「それ、突然そこに生えてねえ」
「生えるってなんだよ……」
にこやかに言われたが、なかなかのホラーである。
「いやいや、誰も店内にいなかったはずなのに、僕がスタッフルームに引っ込んで戻ってきたときにはそこにあったんだよ」
だから生えてきたのだと解釈したのだと彼は付け足した。
「じゃあ、店長がここに来たときにはなかったが、支度して戻ってきたらそこに置かれていたってことか?」
「そうなるねえ」
店長は肩をすくめて俺の話を流したのちに、開店準備を始める。
今は始業前、俺も開店準備に間に合うように出社したところである。なお、開店準備のスタッフは店長と俺の二人だけなのでこの時間はほかに人物はいない。
「とはいえ、玄関の鍵は開けてあったし、誰かが置いていってもおかしくはないけれど」
「物騒な……」
もう少し用心すべきなのかもしれない。
最近はこの辺りも事件が多いのだ。鍵を開けてあったのは俺が出社するためではあるのだが、到着したらチャイムを鳴らすまで開けないようにするなどした方がいいような気がする。
「クリスタルスカルってやつなのかな? それ」
「模しただけでオーパーツの類じゃないだろ」
俺も仕事の準備に取り掛からねば。カウンターの上や周囲、テーブル席に異常がないか確認する。クリスタルスカルもどきが置いてあったこと以外は問題がなさそうだ。
ってか、この髑髏、どうすんだ?
「本物だったら面白いのに。残念」
「そもそも水晶髑髏は偽物が多いって話じゃないか」
「ロマンがないねえ」
悲しそうに言わないでほしい。
うちのカフェに似合わないクリスタルスカルもどきをどこに片付けるか周囲を見回す。部屋の隅がザワザワしている。
「――なあ、店長」
「うん?」
「この髑髏、ここに置く気がないなら返しちゃっていいか?」
部屋の隅にいたナニカがパチパチとした。目が合ってしまったようだ。
「構わないよ。僕のものではないからね」
「うっかり落としてしまったヤツがいるみたいだ」
俺はクリスタルスカルもどきを手に取って部屋の隅に放った。窓からの日差しを受けてキラキラと輝いたそれは、部屋の隅の暗がりに触れるとすっと消えていなくなった。
「おや、そこにお客さんが?」
「客というか、通り道にしていたみたいだな」
「物怪の通り道を抜けるのに、引っかかったのか」
店長はなるほどなるほどと頷いている。
「塩でも撒いておくか?」
「いや、札でも貼っておこう」
「しばらく通行禁止か」
「いや」
店長は首を横に振った。
「引っ掛かりにくいように、拡張しておくんだよ」
「はあ、甘えなあ、店長はさあ」
引き出しから紙を一枚取り出したかと思えば、彼は筆ペンでさらさらと何やら文字を書き記してふぅと息を吹きかける。吹きかけられた紙はふわりと彼の手元から離れると、部屋の隅に舞い上がって虚空に消えた。
「甘いも何も、ここは排除はしないお店だよ。さあ、今日も開店しようか」
「へいへい」
異常現象が起こることもある怪異たちのためのカフェは今日もゆるりと店を開ける。
《終わり》
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