第2話 アンドロイド・フレンド
アンドロイド・フレンド。
それは国が策定した計画。いや、そうなのだとネット上でまことしやかに流布された話だ。
「なあマナミン……ここまで精巧なアンドロイド、まだ無理だって」
「うっふふーん。精巧に出来てると認めてもらえますか、あたし」
「じゃなくてさあ……」
終業式のあと、俺はそのまま愛海に連れ出された。
向かったのは町でいちばん大きいショッピングモールだ。フードコートのすみっこのベンチに並んで腰かけ、愛海はソフトクリームを舐めている。
目の前を小さな子どもがトテトテ歩き、ベビーカーが通りすぎていった。それをながめる愛海の目が、すう、と細くなる。
「赤ちゃん、かわいいよね……」
「はあ。まあそりゃ、かわいいけど」
――だから何。なんなんだよ。
俺、瀬戸航平と、相田愛海。
二人は特に親密な関係ではない。そのはずだ。
接点といえば、六月まで体育祭実行委員をやってたことぐらいかな。今年度いちばん最初の大イベントだった。
一緒に委員をやり始めてから、俺たちは「マナミン」「航平」と呼び合っている。
名前呼びは、もしかしたら親密に聞こえるかもしれない。でも俺はなんというか、ただの戦友気分だった。
それだけなのに、どうしてこんな話をされてるんだろう、俺。
「おまえアンドロイドにしては動きも表情も細かいし、なめらかすぎる。体育祭で踊ってたのも違和感なかったし」
「お、ちゃんと見てくれてたんだね、あたしのこと」
「そーゆー話じゃねえ」
個人的に興味があったみたいな言い方はやめてくれ。ダンスは……なんか目がいっただけだよ。
そりゃ愛海は元気でかわいくてサッパリしてて、いいやつだと思う。
でも友だち……だよな? たぶん。
ズズッ。
俺はレモネードをストローですすった。残りわずかになり、気が抜けてぬるかった。
横目で見る愛海の皮膚はとても人工物には見えない。健康的に日焼けしていて、でも柔らかそうだ。
あらためて観察したらまつ毛は意外に長かった。まばたきする目もすごく自然。
「何。かわいくて見とれた?」
「いや……」
ふふん、と意味深にあおられて慌てた。
いやまあ、愛海はかわいいと思ってるよ。わりと好みのタイプ。品定めみたいな言い方はカンジ悪いだろうけど、それぐらい許してほしい。こちとら男子なんだから。
照れ隠しに俺はぶすっとしてしまった。
「そういうんじゃなくて、なんつーかこう自然だなぁって……人形の不気味の谷って越えられないもんじゃないか?」
「ちっちっち。もうそんなことないんだよ」
「俺だってプログラミングコースだぞ。世界のロボット技術の進歩ぐらいチェックしてるわ!」
うちの高校は、文科省認定のスーパーサイエンススクール(SSS)だ。
俺はそこでプログラミングコースに在籍している。
「軍事機密レベルのことは表に出せないでしょ」
平然と言い返されて、俺は言葉に詰まった。そのとおりだよ。
愛海はにっこり笑ってソフトクリームコーンをパリパリ食べた。
垂れそうなクリームをペロリとする舌。おいしそうに飲みこむのど。これが作り物だなんて、そんなわけないだろう。
だけど愛海は挑戦的に俺を見る。
「人間に擬態できるアンドロイドが実用化されてるなんて、とても一般市民にはバラせないよね?」
「……」
科学分野の先進高校が認定、支援されるSSS。
なので見返りとして政府のアンドロイド・フレンド・プロジェクトに参加させられている。そう学内外でささやかれていた。すごくもっともらしい。
でもSSS認定校といっても、基本は高校の普通課程と同じだ。
プラスしてやや高度な授業が選択でき、実験設備はととのっている。それに世界の学界で勝負するための英語教育が充実していたりする。
だけどなあ……ウチの学校、実は堅実な市立高校なのだ。あまり秘密組織の一員ぽくはない。
「そう思うのがシロートの甘さよね。公立だからこそ、国からのどーたらには従うしかないんだってば」
「う……」
もっともなことを言われ、俺は黙った。
愛海はソフトクリームを食べ終えて立ち上がる。見上げた俺をひっぱった手はあたたかく、普通に血がかよっているとしか思えなかった。
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