第12話

だけど蓮先輩は真剣な顔で私の答えを待っている。




「えっと、愛那、ですけど・・」


「・・・あい、な?」


「・・はい」




こんなに自分の名前を言うのに緊張したことはないだろう。


私の名前を繰り返した蓮先輩は、ゆっくりと手をおろす。


壁に捉えられていた私はようやく解放され、改めてバクバクと騒ぐ心臓を抑えようと胸に手を当てた。




「・・悪ぃ」




そう言ってフイッ視線を外した蓮先輩の横顔はどこか寂しそうに見える。


今にも叫びそうな顔をしている友梨が私に駆け寄ってくる頃には、蓮先輩はスタスタと歩いて行ってしまっていた。


私、何かしたんだろうか。


戸惑う私にサツキ先輩がふんわり笑って言った。




「あまり気にしないで?愛那ちゃん」


「あ、はい…」


「じゃ、またね」




蓮先輩を追うようにサツキ先輩も去って行ってしまった。





王子様みたいな彼らは、皆の視線を気にすることなく自然と開いていく道を当たり前のように歩いていく。



凄い人に出会ってしまった・・・と私は呆然としたのを覚えている。

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