【林田律】

第7話

小さい頃から僕はずっと孤独だった。

生まれた時にはもう父はいなかった。母と2人でアパートに住んでいた。

ここではない別の街の小さなアパート。

僕は母のことが、大好きだ。

誰にもなんと言われても。


学校には図工の時間というものがあった。

そこで初めて絵を書いた。

僕の家は貧乏で、絵の具なんか買ってもらえず、僕の絵だけいつも白黒だった。

僕の方が上手くかけるのに、真剣にやっているのに、なんで僕の絵だけ色がないんだ。

僕の絵にも色があれば母が振りむいてくれると思った。



クラスでー番図工の時間に真面目じゃないやつの絵の具セットを盗った。

それを使って初めて色のある絵をかいた。

そしてやっと一枚の絵ができた。


「なにその絵、気持ち悪い。」


初めに言ったのが誰だったかなんて分からない。

気づいた時にはクラス中みんなが僕の絵を見て笑っていた。


「先生、林田君、僕の絵の具セットを勝手に使ってます。」


先生が怖い顔をして近づいてくる。

いつも絵なんてまじめにかいてないくせに、絵の具セットを返せと僕の手を引っ張る。


嫌だ、嫌だ、嫌だ!!

やっと色のある絵がかけたんだ。

やっと母にほめてもらえるような絵がかけたんだ。

やめろ,やめろ。返せ!


僕は近くにあったハサミを手にもった。それをおもいっきり振りかざす。

僕の手をひっぱっていた子の腕にハサミがあたって血がとびちる。

そして、血がクラスの子たちの絵を汚す。

血のとびちった絵をみて、こっちの方がだんぜんきれいだ、と僕は思った。


誰かの悲鳴が聞こえてくる。

僕の絵が床に落ちる。

大人たちはそれをふみつけ、僕を別の部屋につれていく。



母が泣いていた。喜んでくれると思ったのに。

僕の絵なんて1度も見てくれなかった。

そして僕は失った。何もかも全部。

僕はこの街にいられなくなった。母とはなれ離れになった。

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