第46話 クリスマス・イブ
夏海と駅で待ち合わせる。
1泊2日の小旅行。
クリスマス・イブなんかに、ホテルの予約がよく取れたなって思っていたら、なんと夏海のお母さんが予約して、取ってくれたとのこと。
…あれ?
婚約の話はどうなったんだろう?
…と思っていたら、婚約状態はまだ続いているものの、お母さんは婚約には未だに反対していて、何とか婚約破棄できないか、模索しているとのことだった。
何より、夏海に恋人が出来たことをお母さんは勘づいたらしく、先日、問い詰められて白状したら、この旅行をプレゼントしてくれたと、夏海は嬉しそうに話してくれた。
「父にも、女友達のところでパーティーをするからって言ってくれて、外泊を許して貰えたの。」
「そっか…感謝しなくちゃだね!」
「うん…修くんと旅行なんて夢みたい。」
イルミネーションの夜景や温泉で有名な観光地。
まずはお昼がてら繁華街へ。
さすがにクリスマス・イブらしく、どこもカップルで溢れていた。
「…これ…」
お昼を済ませた俺たちは、旅館のチェックインの時間までアーケード街を歩いていた。
ふと目に止まった雑貨店。
中に入ってみると、いろんな小物や宝飾品が置いてあった。
その宝飾品が飾ってあるショーケースの中に、二重螺旋の意匠が施された指輪が置いてあった。
石はついてないが、上品で華美過ぎない、落ちついた感じのその指輪に、夏海は目が奪われていた。
店員さんが近づいてくる。
「お試しになられます?」
「はい。」
返事をしたのは俺。
店員さんがショーケースの鍵を開けて、中から指輪を取り出す。
間近で見ると、さらに品があるのが分かる。
「右手、左手、どちらになさいますか?」
そう夏海は尋ねられて、少し迷って…右手を差し出した。
右手の薬指に嵌めると、まるで夏海のための指輪かと思うくらい、ぴったりだった。
「…ぴったり…」
夏海は右手の角度をいろいろ変えて、指輪を見ている。かなり気に入ったのだろう。
「ください。」
俺は夏海へのクリスマスプレゼントとして、その指輪を買うことにした。もちろん、値段を知った上で。
「だ、だめだよ!」
夏海は値段の書かれたプレートを見て、声をあげた。
構わず会計をする。
結構な値段だから、今回はカードで。
「…こんなの貰っちゃったら…私…」
感激で瞳を潤ませているのか、夏海は嵌めた右手ごと、左手で大事そうに包み込む。
❝夏海の心情❞
雑貨店を出て、私は指輪をした右手で俺の左腕を絡ませる。
「高かったのに…ありがとう…大切にする…」
「うん…そうしてくれたら、俺もうれしいかな。」
「…結婚しても…これだけは絶対、大切にするから…」
悲壮感にも似た、固い決意。
あと2年、と事あるごとに突きつけられる婚約の話は、避けて通れない。
その話を思い出すたびに目の前が真っ暗になる。
父親、勇造のことだ。
好きな人が出来た、くらいでは婚約を破棄してはくれないだろう。
…妊娠…
頭の中をよぎる。
修くんの子どもを…
けれどそれは、家族だけじゃなく、修くんと修くんの実家にも迷惑がかかる。
家族は、高松家総本家跡取りとの結婚を喜ぶかも知れないが、そのくらいなら、今のうちに修くんと交際していることを伝える方がマシだ。
考えれば考えるほど、どうしたら良いか、分からなくなる。
お母さんが予約してくれた旅館は、かなりの高級温泉宿だった。
私のために、父さんにウソまでついて、奮発してくれて…
お母さんはいっぱい私を愛してくれている。
父さんも、樫村家との婚約が一番、私が幸せになると信じてるから、そうしてるだけで。
私はなんて幸せなんだろうって思う。
そして、修くんと一緒に居られて…
❝修視点❞
旅館で夕食を食べた後、夜景、イルミネーションを見に外出する。
夕食は部屋食で、凄く豪華だった。
始め、真向かいに座っていた夏海は食事が始まってすぐ、隣に移動してきて、あーん、をしてくれた。
堪らず、こちらもあーん。
食事しながら、何度もキスしていたら、食事が進まない&食事どころじゃなくなるかも?になって、途中からはお互い自重した。
食事が終わって、中居さんが器を下げ終わってすぐ、夏海が飛びかかってきて押し倒されたときが一番ヤバかった…
夜景を見てから、ということでさらにお互い自重する。
「…きれい…」
イルミネーションで飾られた、夜景。
地元では有名らしく、辺りはやはりカップルだけ。
ところどころで、盛り上がったのか、周りの目も気にせずキスしているカップルがちらほら。
俺たちもその光の波の中を寄り添いながら、歩いていた。
「…今までで一番幸せかも…」
うっとりとした表情で夏海が呟く。
「うん…お母さんに感謝だね…」
「うん!」
イルミネーションは海浜公園の入口から、浜にある桟橋近くまで、色とりどりの電灯で飾りつけられていた。
光が夏海の顔を照らす。
「夏海も…凄くきれいだよ?」
「…ありがとう…幸せ…」
桟橋近く、イルミネーションのゴール地点。
背後からイルミネーションの光が煌々と足元を照らしている。
桟橋に向かって走り出す夏海。
「こっち!」
桟橋まで来たら、向こう側は暗い海で、辺りは静まり返っていた。
「持って?」
夏海が大事そうにあの指輪を手渡す。
目の前で右手を挙げて、滔々と宣誓する夏海。
「汝、高松修。汝は伴侶、仲村夏海を健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り、真心を尽くすことを誓いますか?」
涙が零れている。
頬を伝う涙は背後の微かなイルミネーションの光に照らされ、輝いていた。
「誓います。」
溢れる涙。
夏海は気丈にも泣き崩れることはなかったが、次々と溢れる涙には抗しきれなかった。
「私も…あなたを愛しています…」
俺は、夏海の左手をとり、薬指にあの指輪をゆっくりと嵌める。
そうして、ゆっくりと両手を夏海の身体にまわして、深く切ないキスをした。
願いが叶うなら…
そう2人は思っていた。
旅館に戻って、2人の気持ちを身体で確かめあった後、俺は、指輪の前に準備していたクリスマスプレゼントを夏海に渡した。
「…本当に…ありがとう…」
先ほどの余韻もあるのだろう、夏海は涙で瞳を潤ませている。
夏海が包装紙をとって、箱を開ける。
箱の中に入っていたのはオルゴール。
蓋を開けると、モーメントという曲が流れるオルゴールだった。
「…素敵…」
夏海は気に入ったのか、オルゴールの蓋をパカパカ開けたり閉めたりしている。
「あ…!」
突然、声をあげたかと思ったら、全裸のまま、カバンの元へ行き、何かを持って布団に帰ってきた。
「ぴったり…」
夏海は指輪のリングケースをオルゴールに入れてみたのだ。まるであつらえたかのようにリングケースはオルゴールの中に収まっていた。
指輪を外して、オルゴールの中のリングケースにしまってみる夏海。
「私…」
「わたし?」
「幸せ過ぎて、どうにかなっちゃいそう…」
そう言って覆い被さってくる。
「…ね…いっぱい私の身体に、跡をつけて…修きくんのモノだって…いっぱい…」
そうして、再び2人は1つになった。
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