片翼の女神・後編

それぞれの日々

第1話

*****




エルトが遠い自宅への帰路についてから、早1か月が経とうとしていた。


診療所での午前の診察を終えると午後は王の健診に赴く毎日。


何ら変わりのない日々だ。





――エルトがいないこと以外は。




「先生、今日の分の郵便です」


診察室の机で書き物をしていると、部屋に入って来たティーナに後ろから声を掛けられた。


「ああ、ありがとう」


「…今日も、来ませんね」


郵便物を受け取りながらティーナの顔を見る。

声と同じく沈んだ表情をしていた。


「向こうでの生活に慣れることに必死なんだろう。

…そのうち返事が来るよ」


ティーナはエルトがここを経ってすぐ、エルトに手紙をしたためた。


出した手紙の返事が来ることを毎日心待ちにしている。


実の娘のように可愛がっていたエルトのことが心配で仕方ないんだろう。



「そうですよね…!

私ったら、今エルトちゃんは慣れない環境で大変なんだろうし…」


“気長に待ってみます”


そう言って、多分少し無理をして明るく振る舞ったティーナは部屋を出て行った。

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