07 出会いⅡ
私は自分の容姿が嫌いだ。
私は生まれたときから眼皮膚白皮症、アルビノと呼ばれる病気だった。
他の人にはあって、私だけにない色。
その事実が憎らしかった。
私の外見は周りの視線を集める。
外国人に間違えられるだけならば良い、それだけでも集団にいる感じがするから。
しかし、アルビノという事実が私を孤独にした。
親には、気にすることなんてないと励まされるし、親戚の人たちは私のことを綺麗だとよく可愛がって持ち上げてくれるが、自分から出てくるのは愛想笑いだけで、入ってくるものはなにもない。
同じような症例の人たちはネットを探せば思っていたよりたくさん出てくるし、その美しさからモデルの仕事をしている人もいて、みんな笑ってたし前向きだった。
当然私と同じような悩みを持っている人の記事もあって、それが生まれて初めての共感となった。
ただ、それでも孤独感は拭えなかった。
美しいという一点だけで、私の苦悩を一切受け入れてくれないみんなが嫌いだった。
自分の人生を空虚に消費して、もう小学校高学年。
最近、別の小学校に転校してきてからは毎日保健室登校をしている。
前の学校では、最初の方は登校していたけど、いろいろなトラブルにより不登校になっていた。
その理由としても、目立ってしまうこの容姿の問題もあるけど、視力が極端に悪いということが大きかった。
眼皮膚白皮症のせいもあり、視力低下が著しく前回測ったときは、もう0.1を切っていた。
眼球の問題で、眼鏡やコンタクトも使えないため、教室での授業をみんなと同じように受けることは難しい。
視力が悪いことは生活する上で鬱陶しく感じることも多いけど、周りの人間を見ずに済むという点では都合のいい障害だった。
という訳で、今日も給食と軽い面談や勉強を兼ねて保健室に登校していた。
今日の給食は赤飯だった。
転校する前に、自宅で食べさせられる機会があったけど、地域性の違いか今日の赤飯は少し甘かった。
食べることは好きだったので、給食の時間は楽しみの一つだ。
昼休みは、保健室にあった医療系の漫画をベッドに寝転がりながら読んで過ごした。
チャイムが鳴ったので今はもう掃除の時間だろうか。
保健の先生が職員室で用事があるということで、さっき出て行ってしまったので話相手もおらず、横になって過ごしていた。
今日、保健の先生に教室で授業を受けてみないかという相談をされた。
前の方の席だったり、それなりの配慮はすると言われたけれど、前回不登校になってしまったこともありいまいち踏ん切りがつかなかった。
午後にもう一度面談をするらしいので、それまでに考えてほしいとは言われたけど、未だにどうすればいいのかわからなかった。
ベッドの上でぼーっと天井を眺めていたところで、誰かが保健室の扉がノックした。
先生が返ってきたのかな。
でも、先生だったらそのまま入ってくるよね。
他の先生?それとも生徒さんだろうか。
少し気になり、距離的に見えないのはわかってはいたけど、だいたいの姿見を確認するためにカーテンの隙間から扉の入り口をこっそりと覗いた。
扉が開き、思っていたより小さな姿が顔を出す。
身長的に子供だったので、生徒だとわかった。
この距離じゃ男の子か女の子かまではわからない。
その子はしばらく部屋内を見渡したあと、こちらの方向へ向かってきた。
やばい、ベッドの方に来るのかな、とカーテンから身をのけぞり構えた。
すると、足音的に通り過ぎて私のベッド横の棚の方で足を止めた。
どうやら、タオル類の収納ボックスに用があったようだ。
カーテンの下からその子の足元が見えていた。
白色のシューズ。
水が滴っているようで、どうやらその子はびしょ濡れだった。
体を拭くタオルを借りに来たのかなと推測を立てる。
この距離だったら今度は顔まではっきり見えるだろうと、カーテンの隙間にもう一度顔を近づける。
最近は同年代の子供と顔を合わせる機会がなかったためか、バレる恐さよりも好奇心が勝ったのだ。
その子の、いや、彼の顔を見た。
思ったより近くて、顔も見れた。
目にして、私は息をのんだ。
とんでもなく美しい少年だった。
服装から多分、男の子だと、わかる。
年齢は、多分私と同じ高学年くらい。
顔や体躯だけでは見分けがつかなかった。
中性的な美しさ。
性の垣根を超えた美が私の脳を襲った。
まつ毛長っ!大きい瞳、主張抑え目な綺麗な形をした鼻、窓からの光を反射して宝石のように輝く黒髪に病的なまでに白い肌、上品な比率の手や足、それ含めた華奢な体躯。
全てのパーツが彼を美しく見せようと奮闘しているようだった。
彼が濡れていたこともあり、輝いて見えていた。
彼の容姿に目が釘付けになった。
第一印象は暴力的な美しさだった。
だけど、感じたものはそれだけではない。
羨ましいと、憎らしいと感じた。
私は、こんななのに彼は全部を持っていてなお美しかった。
より自分がみじめに感じてしまった。
けど、どこか儚げな彼の表情が気になった。
そんななりなのに、何を不満に思うことがあるのだろう。
単純に疑問が残った。
そうぐるぐる思考を繰り返していると、彼の顔が突然視界から隠れた。
下を見ると腹部、胸部が露出していた。
服を脱いでいるのだ。
思わず、体が跳ねた。
初めて見る同年代の上裸に衝撃が体全体を走った。
すると、彼はこちらを向いた。
一瞬びくっとしたが、口を手で押さえて声を潜め、体を丸めて音を殺す。
……。
彼は、体を拭き始めたようだ。
あぶない、さっきカーテンに手が当たったのだ。
一気に体の力が抜け、安心感からか意識が飛びそうだった。
何度か深呼吸をして、せめてもう一度だけ彼の姿を目に焼き付けようとカーテン顔を近づけたところで、保健室の扉が開いた。
「悠の体操服これだよな、さっきはすまんかった」
どうやら別の男の子が着替えを持ってきたようだ。
「いいよ、もう。ありがとね」
澄んだ声だった。
最近よくリピートしていたJPOPよりも、聞いていて幸福感でいっぱいになった。
それより、名前だった。
悠というらしい。
悠。悠。悠。
覚えとこう。
「じゃあ俺も着替えないといけないから先行くわ」
体操着を持ってきた子が部屋から出ていったようだ。
今度こそもう一度と、荒くなる鼻息を抑えながら、カーテンの隙間を覗くと。目に入ってきたのは彼がズボンを脱ごうとしていたところだった。
ガタッ
座っていたベッドから滑り落ちてしまった。
これはまずい、絶対に私がいることがばれたと思った。
このまま、彼に着替えを覗いていた変態だという烙印を押されて生きていくんだと絶望した。
が、カーテンを開けることはなく、彼は急いだように体操着のズボンを穿いて教室から出ていった。
あ、あぶなかった。
ほっと息をついた。
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誰も戻ってこないことをしばらく待って確認すると、カーテンを開けて表に出た。
彼が着替えていた場所を見ると、彼の脱いだ服や使ったタオルがそのままになっていた。
あー忘れちゃったのか。
あ!名札……。
彼の名札だけでも確認しようとしゃがんで彼の上着を手に取った。
5-1。
奇遇にも、私と同じクラスだった。
その時、背中を向けていた保健室の扉が開いた。
振り向くと人が立っていた。
「うわぁああああああ!!」
「うわぁあ!」
私は驚いて思わず叫んだ。
彼もそれに驚いて叫んだ。
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