第9話

全ての講義が終わって、一息つくと夕方になっていた。

今日はビッチリと授業があったので、

昨晩の喧嘩がずっと遠くのように感じた。


喧嘩をしても、ちゃんといつもの時間に寝てしまう自分が少し嫌になる。

高校生の頃ならもっと悩んだり考えたりしていた。

今の私は講義が大事だし、このまま大学院に進むので就活もない。


好きな事を好きなだけ学ぶ時間は大切だった。

そんなだから、恋人の関係の中にある喧嘩よりも翌日の体調を考えてしまう。


ちゃんと起きて、ちゃんと焼いたパンを食べて、

保温瓶に温かい紅茶をいれる。ちゃんと化粧をして家を出る。

決まった時間の電車とバスに乗り、定刻より早く教室に入る。

こういう決まったことを崩すのが心地よいと感じない。

悩むことより、繰り返すリズムを大事に思っている。



来週の土曜日ふたりでひさしぶりにデートをする約束をしていた。

上野動物園で大好きなキリンを見て、行きたかった本屋へ行き、

雑誌で見つけたかわいいカフェでお茶をする。


めずらしく私が計画を立てて誘った。

フユキも楽しみだと喜んでくれた。

それが、だ。急に昨日の夜、電話で仕事になったからごめんと謝ってきた。

土曜日なのに?と聞き返しても、そうと言う。

就職をしてからフユキは少しずつ私から離れていくような気がしていた。

ずっと一緒にいると思っていたし、

ずっと変わらず側にいるのがフユキなんだとどこかで信じて疑わなかった。


ひとりの時間が長くなったからかもしれない。

どうやらそうではないらしいと気付いてきていた。

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