第10話 プレゼントを贈ろう
世界樹のある町『サマリワ』を出発して3日。道の途中で『サマリワ』を行き来する巡礼者とすれ違いながらレントとマリンは次の町に辿り着いた。
宿でレントが鞄の中身を確認しながら、マリンに話し掛ける。
「食料の補充を念のためしておこうか」
「そうですね」
マリンはレントに同意しながら、申し訳なさそうに頼み事をした。
「お買い物を頼んでもいいですか?ちょっとやりたいことがあって」
いつもなら何をするのかマリンに聞くところだが、あえて深入りせずにレントは流す。
「分かったよ」
当然マリンにも一人でやりたいことや過ごしたい時間があるだろうと思う一方、今回の別行動はレントにとっても都合が良かったのだ。
(まだ服のお返しが出来てない……)
レントも一人で行動し、マリンへのお返しを買いたいと考えていた。日頃の感謝も兼ねてサプライズプレゼントというやつだ。
「買うものはいつも通り食料中心でいい?他に必要な物があれば買っておくよ?」
「大丈夫です!強いて言うなら干し肉が少し多めだと嬉しいかも」
「分かったよ」
二人は宿を出てお互いに行ってらっしゃいと気をつけてを言い合った後、反対方向へ別々に歩いていく。
レントは市場に移動し、マリンから頼まれていた買い物を手早く終わらせる。正確な日数をレントは覚えていないが、レントが旅に出てから何だかんだで2週間は経っているだろう。たとえ一人であろうと買い物も手慣れたものだ。
「これくらいでいいかな」
レントはリュックを背負い、本題のプレゼント探しを開始する。世情に疎いレントだが、それでも女の子の喜びそうなものといえば装飾品だろうと目星を付けた。
だが、しかし。
「うーん」
アクセサリーがずらりと並ぶ店でレントは思い悩む。
(分からない……!マリンの喜びそうなものが分からない!)
耳飾り。
ネックレス。
髪飾り。
ブレスレット。
このあたりが無難な候補だろうか。
(あんまりジャラジャラした感じのやつだと多分、戦闘の邪魔になっちゃうよね……)
選ぶならシンプルかつ丈夫なものがいいかもしれない。
レントは耳飾りを見る。
雫型や丸い石のついた耳飾りが並んでいる。レントはそれを綺麗だと感じたが、戦闘時だけではなくただ歩いているだけでも、いつの間にか取れて失くなってしまうのではないかと思った。どうせなら末永く使ってほしい。レントは耳飾りを候補から外した。
レントはネックレスを見る。
レント自身もスイデン村のお爺さんから作って貰ったネックレスを身に付けている。紐が絡まったり、千切れたりする懸念に関しては、レントと同じように紐を首から下げて服の中に入れておくことで解決出来るだろう。だが、しかしとレントは思う。せっかく贈った物を身に付けてくれたとして、普段は隠れて見えないのは少し寂しい。レントは個人的な感傷でネックレスを候補から外した。
レントは髪飾りを見る。
実用性もありデザインも綺麗系から可愛い系まで豊富に揃っている。悪くない、決して悪くはない。だが、しかしとレントは思う。髪に付ける訳なのでマリン自身は普段、見ることが出来ないのではないかと。マリンは気にしないかもしれないがレントは気にする。どうせなら好きな時に見て楽しんでほしい。
こうしてブレスレットが候補に残った。
(この中から選ぼうか。長さの調節が出来るように石のブレスレットよりはチェーンタイプがいいのかな……)
「お困りですか?」
「は、はい……」
レントが唸っている様子を見た店員が手伝いにやって来た。
「戦いの邪魔にならないようにシンプルなものがいいかもって考えてはいるんですが……」
レントの要望を聞いた店員はそれならばと案内を始める。
「このレザーのブレスレットは男性にも人気で──」
「ああ、ごめんなさい。贈り物で相手は女の子なんです」
「そうでしたか!それであれば……」
店員がいくつかの候補を並べる。
「シンプルなデザインは流行り廃りの影響をあまり受けず、どんな服にも合わせやすいうえに、戦いの最中にも邪魔になりにくいかと」
シルバーの細みのチェーンのブレスレット。ワンポイントでストーンが付いている。ストーンの色は青や黄色など複数あった。チェーンはこれでいいとレントは思うも問題はストーンの方だった。
「俺、その子の好きなデザインも色も何も知らないや……」
出会ってそれほど経っていない状況でサプライズプレゼントをする弊害が出てしまった。困ったレントに店員が言う。
「では、その方に似合いそうな印象の色で決めるのはどうでしょう?」
レントはマリンの笑顔を思い浮かべた。
困った人を放っておけないお節介で優しいあの少女には柔らかい色が似合っているように思う。
レントは一つのブレスレットを指差した。
「これにします」
店員にお礼を言って店を出たレントは宿までの帰り道を歩く。
(マリンが喜んでくれるといいんだけど……)
レントは楽しみ半分不安半分だった。
そんなレントの耳に通りすがりの人々の会話が入ってくる。
「さっきの興行凄かったね!」
「うん、本当に綺麗だった!」
興行と聞いてレントはある予感を抱く。先ほどの人達がやって来た方向にレントは足を運ぶことにした。
(広場か……)
芝生が気持ち良さそうな広場には人だかりが出来ており、そこから聞き覚えのある少女の声が聞こえた。
「ありがとうございましたー!」
人々が拍手とおひねりを少女に贈る。
そうして人だかりが捌け、予想通りの人物が姿を現した。
「やっぱり!」
「マリン興行してたの!?」
マリンは苦笑いしながら頬を掻く。
「あちゃー、見つかってしまいましたか」
「暫くお金には余裕があったはずじゃ……まさか……先日、俺の服を買ったせいで金欠に……!?」
「違います!違います!」
マリンがあたふたと慌てる。
「私がお金を稼いでいる間、レント君が気まずくならないようにと思いこっそりやってただけでお金に切羽詰まって急遽やった訳ではありません!」
「そ……そっかぁ、気を使わせたみたいでごめんよ」
「構いませんとも。私が勝手にしたことです」
レントは心の中で反省する。レントがスイデン村の時のようにお金を稼ぐことに悩めば、マリンは却って気を使ってしまうらしい。
(もう少しマリンの指示に従おう……)
マリンは話を続けた。
「お金に関しても行きは大丈夫なんです。ただ、帰りのために少しでも貯めておきたくて……」
「……」
帰り。
マリンを故郷まで送り届けた後、レントは馬車を乗り継いで元居た森まで帰るのだ。今がどれだけ楽しくても二人が一緒に居られるのはマリンの故郷までと始めから決まっている話だ。
レントは浮かない顔をしたマリンの手を掬い、そっと彼女の手の平にブレスレットを乗せた。
「一緒に旅した思い出はずっと残るでしょ?」
マリンは驚きで目を見開く。
「レント君、これは……?」
「日頃のお礼にと思って」
「わぁ……」
マリンはブレスレットをまじまじと見つめる。その様子を見てレントはどぎまぎしながら言葉を続けた。
「その、シンプルなデザインならどんな服にも合うし、戦闘の邪魔にもならないかなって……。どうかな?」
「とても……とても嬉しいです!」
マリンはにっこりと破顔する。
「早速、着けてみてもいいですか!?」
「是非!」
マリンはブレスレットを左手首に通した。
「ワンポイントの桃色のストーンが可愛らしいです。ありがとう、大切にします!」
「気に入ってくれたなら良かったよ」
レントが安心したように笑う。
ブレスレットはこれといった加護も付いていない、本当に何の変哲もないものだ。
それでも
「……」
マリンは手首に着けたブレスレットを眺めて微笑んだ。
残り約1990km
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