第21話 開花
「なーんだリュミエル君と一緒に食べてたのかぁ! まったく、リュミエル君は食いしん坊だなぁ。もちろんキミの分は後で用意す――」
「いえ、俺だけで食べてますよ」
「そ、そうか……」
桃瀬さんは即座に黙り込む。
猟犬ギルドから助けてくれた時から一貫して余裕の雰囲気があった桃瀬さんが、ここに来て明らかに動揺しているのが分かる。
え、魔力が少なすぎるためのバグとかそんなのやめてよ?
「まだ全然食べられそうなのかい?」
「あー、そうですね。むしろお腹が減ってきてるというか」
「……」
桃瀬さんは一度リュミエルを一瞥する。
そしてほどなくして再び口を開いた。
「もし仮に魔力が少ないだけなら、きびだんごをひと口齧っただけで満腹になるはず。でもキミはそうじゃない。つまり、鋼君は魔力が少ないわけじゃない」
となると――と、桃瀬さんが続ける。
「光宗君が推測していたように、鋼君は魔力を消耗している。もっと言えば〝常に枯渇した状態〟の可能性があるね」
「枯渇した状態?」
「いうなれば、我々が今やっている事は、底の抜けたバケツに水を注いでいるようなものだね」
俺って底の抜けたバケツだったんだ。
桃瀬さんは再びリュミエルに視線を送る。
「リュミエル君。これがいわゆるキミの対価なのかい?」
「答えたくない」
リュミエルの返答は、拒絶とも取れるほどかなり冷めたものだった。
「なあおい、そんな言い方しなくても……」
「答えたくないの」
それっきり、彼女は俯いたまま黙り込んでしまった。
違うなら「違う」と答えれば済む話なので、魔力枯渇問題についてリュミエルはなにか知ってる可能性がある。
『まず、この子が何者なのかを知ること』
『この子が降りてきた理由はもっと別のところにあるはず。そこを突き止めるのが先でしょ』
姉の言葉が脳内に蘇る。
少しだけど、リュミエルについての理解が進んだと考えていいのだろうか。
桃瀬さんもこれ以上追求する気はないようで、目線は俺の方へと向いている。
「魔力が増えないとなると予定してたメニューは全部ボツだね。それよりも、ちょっと試したいことがあるんだよ」
そう言って、桃瀬さんはタブレットを取り出し四季君との試験の映像を見せてきた。
俺がリュミエルをハグする瞬間で映像が止まる。
「ほらここ、鋼君がリュミエル君を抱きしめた時。この瞬間にバリアの性質が〝防御〟から〝吸収〟へと変わってるんだ」
それは俺自身も自覚があった。
リュミエルはあれを境に、吸収からの放出までやってのけている。
すると沈黙していたリュミエルが口を開いた。
「あれはコウの力」
「なんだって?」
俺の力だって?
横で桃瀬さんが「やはりか」と呟くのが聞こえた。
「私もその線を疑っていた。今回はその検証を行おうと思ってね、実はこんな機械を用意してみました」
なにやら桃瀬さんの声のトーンが上がっているような気がするけど気にしない。
桃瀬さんが手をヒラヒラさせている先には、仰々しい風貌のカカシが鎮座していた。
トゲトゲの鎧を着た魔法使いのように見える。
「バトルメイジ君038型! 最大充電で5時間ぶっ続けに特訓ができる! 擬似的な魔法攻撃もできる優れもの!」
「なんでそんな通販番組みたいな口調なんですか」
「だってその通販番組で買ったからね」
壊れてすぐ使わなくなりそう!(偏見)
値段を聞いたら「無駄遣いするな」と姉がすっ飛んで来そうなので、通販のくだりは聞かなかったことにして……と。
「私はね、鋼君には〝吸収〟の才能があると思っているんだよ。だからそれを確かめるためにバトルメイジ君の魔法を体で受け止めてもらおうかなって」
「受け止めるって、えそれ死にません?」
「大丈夫、威力は調整できるから。最初は本当に出力の低い魔法をぶつけてみるから、鋼君はそれを〝吸い取る〟ようなイメージで受け止める。やれるかい?」
イメージするだけでいいなら、やれますよ。
俺は適当に両手を突き出し、脳内で「吸い取れ〜吸い取れ〜」と念じ続けた。
物々しい音が鳴り響き、バトルメイジ君が杖を振り翳した。先っぽに魔力が集まっていくのが視認できる。バチバチという音は雷の性質を表しているに違いない。
というか威力ってどのくらいあるんだろ。
昔、銭湯の電気風呂に入ったときに体ビクビクしすぎて友達に笑われた記憶がある。体質的に俺は電気に弱いのかもしれない。
もうあんな思いは嫌だ……
ミスったら感電、ミスったら感電……
「あばばばばばば!!!」
「ストーーップ!」
桃瀬さんが間に入り電撃は収まった。
結果、俺は魔法を吸収できずに感電した。
「鋼君、もしかして別のこと考えてた?」
「そ、そんなことは……」
「だめだめ、集中集中」
桃瀬さんが再びバトルメイジ君の電源を入れる(止めると毎回電源が落ちるらしい)。
「ちょっと待って桃瀬さん、俺に吸収の力があるってそれ仮定の話ですよね? もしかしたら俺は今後無駄に感電し続けるかもしれ――」
「さあラウンド2行くよ」
「鬼ーーーーー!」
バトルメイジ君の魔力が高まっていく。
集中しろって言ったって……
背後から何かに抱きしめられた。
リュミエルだった。
「失敗したら私も一緒に死ぬ」
「なにを言って……」
彼女の言葉にハッとなる。
死ぬ――そう、失敗すれば死ぬんだ。
バトルメイジ君はそりゃあ調整されてるけれど、これが戦場なら失敗すれば当然死ぬ。
俺が死んだら、降臨獣であるリュミエルは死ぬのだろうか?
元いた場所に戻される? それとも消滅?
「させない……!」
両手を構えて集中する。
放たれた電撃がスローで迫る。
そして俺の掌にぶつかり――消えた。
「(できた……!)」
電気が手のひらから吸い込まれ、体の中でエネルギーが渦を巻く感覚。
防いだ、とは感覚的に全く違う。
いうなれば体の中に吸い込まれたような。
「桃瀬さ――」
「!」
振り返ったその刹那、桃瀬さんの拳が迫る!
咄嗟にそれを手でガードする……と、全く力が入っていなかったようで、簡単に止めることができた。
「ちょ、いきなりなにするんですか!?」
「なるほど、素晴らしいね」
「いや素晴らしいねじゃないですよ!」
桃瀬さんは自分の拳を見つめながら続けた。
「今のパンチだけど、実は本気だったよ」
いやいや、そんなわけない。
そんなわけない……よね?
「鋼君。キミの力の本質は〝魔法を吸収する〟だけに留まらない。広く言えば〝力〟そのものを吸収する能力みたいだね」
力そのものを吸収?
「え、じゃあ片手で車を止めたりとかも?」
「まあうん、できるだろうけど辞めてね」
え、それって最強じゃない??
夢にまで見たスーパー○ンのあれが!?
「辞めてね?」
「あ、はい」
念を押された。
いやそれにしても……
「スキルが二つある人っているんですか?」
「そこなんだよね」
桃瀬さんはしゃがみながらケン君(力無く横たわっている)を撫でる。
「たとえばケン君は『魔力を回復させるきびだんごを産む』能力があるわけだけど、そういう意味では私は『召喚』と『きびだんご』で二つ能力があることになる。まぁこれは召喚獣固有のスキルだから珍しくないケース」
でも、と桃瀬さんは続ける。
「鋼君は『降臨術』と『吸収』の二つの能力を
世界初――なんで俺ばっかり?
てことはまた追われる身になる?
素直に喜べない案件が増えた……
「それと、疑問がもう一つ」
桃瀬さんが難しそうな顔で人差し指を立てた。
「この吸収の力、リュミエル君みたく〝解放〟に転用できるならとても理に適った能力だと思うんだけどね」
「と、言いますと?」
「試験中リュミエル君が行ったように、相手のパワーを体にチャージし発射する――それなら燃料は必要ないし合理的だ。しかし、鋼君の場合は違う。なぜならキミの中には〝攻撃に転用するためのエネルギー〟を留めておけないからね」
桃瀬さんが顎髭に手を当て俺を見る。
「きびだんごを食べた後も、パンチを受けた後も魔力は枯渇したまま――なら、吸収によって得たエネルギーはどこに消えているんだい?」
要するに今の俺は〝大食い系なのにスリムな人〟みたいな不思議状態にあるってことか。
吸収したエネルギーがリュミエルに還元されているなら理屈が通るけど、彼女はこの話題に一切触れようとしてこないからな。うーむ。
まぁいいさ! と桃瀬さんが手を叩く。
「ここからの訓練は、吸収できるエネルギーの上限を探ろうか。S級ハンターの全力パンチを止められただけでもポテンシャルはS級だね」
当面の方針が決まったらしい。
それにしても……
世界時計を単騎で止められる降臨術。
S級の拳を止められる吸収の力。
なんで俺はそれでG級なんですかね?
そんなこんなで俺達の訓練が始まった。
そして時は『世界時計解放』の前日へと進む――
○○○○○○○
突然ですがご報告です。
元々一章完結時点で停止する予定でしたが、皆様の応援もあって勢いでライブ更新してしまいました。結果、精査できてない二章となり批判的なコメントも増えてしまいました。難しいものですね。
予定としては、現在執筆中の出版原稿が終わったのちに、二章完結まで書けた時点でまた毎日投稿を再開していきたいと思います…
と、思いましたが、やっぱり書けるところまで書いてやろうと思います。なぜなら書きたいからです。書きたいときに書いたものが一番面白いからです。批判上等、この世で一番自由な小説を書いたやつがカクヨム王だ!!
ということで明日も更新あります。よろしくお願いします。
フォローや評価などいただけると嬉しいので是非よろしくお願いします。
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