11/11 -Eleven Slash Eleven
夏乃あめ
1 少年
夏の暑い日、俺は何重にも閉められた扉の中にいた彼女と出会った。
「対象は、殆ど寝ている」
国立第一病院【魔力侵食症候群研究棟】。
ここには高濃度の魔力に侵食されながら、生きているサンプル体を、研究という名の下に収容している。
「サンプルNo.10、セリス・フォン・リンデンバウム。…そうだ、あのリンデンバウム事件のたったひとりの生き残りだ。」
生き残りという言葉に、俺は引っかかる物があった。
胸糞悪い、過去の思い出──
五年前のあの日、俺の母は鬼に変わった。悪魔のような父を、僅かな魔力で深々と刺した。魔法なんてろくに使えないのに、俺たちを守るために、命を削って魔法を使った。
『ふたりとも逃げなさい。』
借金のカタにされていた古びた屋敷が、炎に包まれる。使用人もいない、クソみたいな名ばかりの見栄の象徴が、母の最後の魔法で燃え盛っていく。
『ママ。』
黒く焼け焦げた屋敷の前で、俺は兄の袖についていたレースの飾りだけを握りしめていた。
炎の中で全てを失った俺は、あの日から涙さえも失っている。
生き残ってしまった俺は、今、鉄格子の中で拘束具に自由を奪われているソレを冷ややかに見つめた。
まだ幼い子どもに『常識ある大人』が怯えているなんて、茶番にも程がある。
俺はもぞもぞ動き出したソレが気になっていた。目を醒ますと、スミレ色の瞳が俺を冷たく見つめるかと思ったら、静かに閉じられた。
どうやら俺には興味がないようだ。
「このサンプル体は、君の研究に役立つと思うがどうかね、ラインハルト・ド・チェンチ君。」
魔力侵食症候群の患者は、例外なく死亡する。綺麗な砂の結晶となって、自我もなく崩壊するか、魔力が暴走して辺りを巻き込みながら自滅するかの二択。
13歳。まだ子どもでいたい年齢に、俺は大人になる事を選んだ。
ありがたい事にこの国では、急いで大人になりたいバカに、その器があればどれだけでも飛び級させる
魔力侵食症候群を研究するようになったのは、興味があったからではない。少しでも、そう目の前にいるサンプル体のデータを解析できれば、俺は名声を得られる。
世の中に、あの火災で生き残った哀れな子どもというレッテルからようやく解放される。
サンプル体No.10が、俺をチラリと見た。光を宿していない何もかも諦めてしまった者…俺の目によく似ていたスミレ色の不気味な瞳。
『なんだよ、コイツは。』
得体のしれないサンプル体でしかないソレは、その瞬間に【セリス】という記号に置き換わった。
サンプル体としか見ていない俺の心を読んだのかもしれないし、俺の姿を映し出しただけなのかもしれない。
「研究させてもらいます。」
思わず口をついたその言葉に、俺は人生を賭けることになる。
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