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ホワイトボードには、渡の言った不審者の特徴が箇条書きにされていた。


それから、課長が原稿に目を通し、被害者である秋本加奈子の特徴とビニールに入れられた衣類、遺留品を挙げていく。


ぱっくりと裂かれた白いコートに、血のついた茶色いスーツ。黒いパンプス。


目白の実家から、池袋に勤務する会社員であることが判明、刺し方からみて、犯人は右利きであると推定された。


一連の通り魔事件の共通点は、被害者が刃物で複数刺されていること、全員一般企業に勤めている会社員であること、二十代であること。この三つだ。


通り魔事件との関連性の有無、今回の被害者と、一連の事件の被害者との関係、異性関係、怨恨、金銭トラブル……詳しいことはこれから調べなければならない。


初めに犯人ありき。


ふと、警察学校時代に先輩から聞いた言葉を思い出した。


特定の犯人を頭から決めてかかって割り出す。そういう意味で使われるが、渡の受け取り方は少し違う。犯人がいるから、事件が起こる。被害者がいる。捜査が始まる。


初めに、犯人ありき。


メモを取りながら、渡は気持ちが軋むのを感じていた。


被害者の遺族はどうしているだろう。今頃、帰らぬ人となった被害者の姿に泣き、目に見えない犯人を恨んでいるのだろうか。


捜査方針が決まった。ホワイトボードに、優先事項が書き込まれていく。


現場鑑識の徹底調査、不審者の追跡、付近の聞き込み、交友関係、犯行手口の調査、凶器の割り出し。


渡は手帳にそれを書き込んでいった。今後、「目白女性会社員殺人事件」と命名された本部の現場指揮は、本庁捜査一課長がとることになる。


あらかじめ決められていた二名一組の捜査班の名前が呼ばれ始めた。次々にベテランと若年層の刑事コンビが出来上がっていく。


渡の相方は、米倉大助という黒ぶち眼鏡の、五十代前半くらいの刑事だった。


現場数十年。そう思わせる、抜かりのない顔つきをしていた。


渡を見るなり、彼は出入り口の脇で笑った。


「まあ、がんばろうや。起きてしまったもんは仕方がねえ」


小柄な彼は、渡の背中を励ますかのように軽く叩き、豪快に先を歩いていった。


嫌味の一つや二つは覚悟していた。まさかそんな言葉をかけられるとは思っていなかった。


少しだけ明るい気分になって、渡は小走りに米倉のあとを追った。 


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