2-3

会議は午後三時から開始される。


首都圏近郊で立て続けに起こっていた通り魔事件との関連性も視野に入れてのことだろう、目白北署内に特別捜査本部が設置され、縦に長い淡白な会議室には、続々と人が集まってきていた。


捜査本部が設置されると、所轄の刑事だけでなく、本庁(本部)の刑事が動き出す。


警視庁の捜査一課長、所轄署長が副本部長に就任し、管理官の下に鑑識班、庶務班、捜査班、予備班が編成される。隣接の警察署員も来ている。


つまり、ここへ集まる人間の全てが渡のミスを知るのだ。いや、もう殆ど全員が知っているかもしれない。


正面玄関から会議室までの道のりが、とても長く感じられた。


もう、起こってしまったことだ。


渡は自分に言い聞かせた。


ミスなどどうでもいい、今は犯人のことだけを考えなければ。


誰よりも犯人を捕まえることに没頭しなければならないのは、渡自身だ。  


前を見つめ、気持ちを入れ替えた。その時、背後から靴音が聞こえてきた。


無機質な廊下を歩く靴音は次第にテンポが速くなり、やがて渡に追いついた。


「君は、刑事には向かないのかも知れんな」


靴音が追い越す瞬間、声が聞こえてきた。息を呑んで声の主を見ると、真横に警視長の姿があった。


刑事部長として捜査本部の全てを管理、編成するのは彼、有馬義明に他ならなかった。


光嬢と喧嘩しているところなど想像もつかない。全身から満ち溢れる威厳と冷静さの漂う風貌は、長い間、警察という組織の中で義務と責任を果たしてきた者の証だった。


「ご足労様です」


渡は頭を下げた。同じ警察官でありながら、有馬にはどっしりとした重みを感じる。


別世界の住人のような気がしてくる。これまでどれほど事件を見つめ、何度指揮をとってきたのだろう。


三歩先を行った有馬は靴音をぴたりと止めると、手を後ろに組み、振り向かずに言った。


「ああ、昨晩うちの愛娘を送ってくれてありがとう。事件のあとに、な」


受付に座っていた刑事達が、頭を下げ、挨拶をする。彼は頷き、ゆっくりと会議室の中へ入って行った。


渡は拳を握り締めた。父が有馬のコネで渡をエリートにさせようとしたことは、一部の人間に知れ渡っている。


恐らくは、署長もその一人だろう。彼らは渡を父と同類の人間とみなし、あまり良くは思っていないようだ。


そして有馬自身でさえ、自分を利用しようとした渡親子を快くは思っていない。


だから本音のところ、彼は光嬢を渡に近づけさせたくないのだろう。


渡は首を振った。他のことは考えるな。とにかく今は。


受付で記帳をして、渡は中へ入った。

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