同期以上恋人未満

真白めい

1

「俺、今月で会社辞めるんだよね」


 会議室の片付けをしていると、同期の君が何でもないような顔をして私に言った。


 お互い新卒で入社して5年目となり、来月で6年目を迎えようとしていたところだった。


「転職するなら20代のうちがいいって言うしさ」


 もう何年も前から転職をするか悩んでいたらしい。

 私と君は同期の中でも断トツで仲が良くて、社内でも「付き合ってるよね」と噂になるほどだった。

 実際に付き合った事はないけれど、付き合ってるのではないかと錯覚する事はあった。

 それくらい距離が近くお互い何でも分かり合えていると思っていたのに、君が悩んでいた事に全く気付けなかった。


「…そうなんだ。全然知らなかったよ」


 素直な感想を伝える。


「まぁ上司にしか言ってないからね。お前に相談したら辞める気持ちが揺らぐと思って言わなかった。黙っててごめん」


 きっと私は、事前に相談されていたら全力で君が辞めるのを止めていただろう。君の判断は正しい。

 でも、それでも…!


「相談、して欲しかった。今まで私は君に何度も助けられてきた。君がいたから辛い時だって乗り越えて社会人やってこれたんだよ」


 仕事だけじゃない。プライベートの悩みも沢山聞いてもらった。


 …あぁ、私は君に恋していたんだな。


 5年間気付けなかったけど、君がいなくなってしまうと知って一気に自覚する。


「もうお前は同期の俺がいなくたって平気だろ」


 平気なわけがない。君がいなくなった日々を想像しただけで、世界から色が消えてしまったように感じる。


「私は君に沢山救われてきた。君がこの会社からいなくなるなんて考えられないよ。君にとって私は…」


 思わず「どういう存在なの?」という言葉が口から出そうになり思い止まる。

 そんなの聞かなくても分かっている。ただの同期だ。


 ――コンコンコン


 会議室のドアがノックされ、隣の部署の後輩が顔を覗かせる。


「失礼します。すみません、会議室使っても大丈夫でしょうか」


 そろそろ次の会議が始まる時間だ。


「ごめんねっ、今出て行くから入って大丈夫だよ」


 私は集めた資料を手に持って、君の方を振り返らずに自席へと戻った。


 それから君とは言葉を交わすどころか目すら合わさずに過ごし、1ヶ月が過ぎた。

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