第6話 週末

 週末の日曜日、私は内心ドキドキしながら映画館を訪れた。いつもどおり、斜め後ろの席に彼が座る気配を感じて、ソワソワしながら上映を待つ。


 いきなり宇宙戦争が始まって、心臓が別の意味でもビクッとはねた。


 今日の映画は他国で作られた、いわゆる洋画だ。恋愛映画ではあるけれど、人のエゴとエゴとのぶつかり合いが主題なんじゃないかな?


 主人公の女性が戦場で命の危機にさらされているのに、相手の国にも事情があると語られるから感情が定まらない。敵国のパイロットに恋をしてしまった主人公ほどではないと思うけど……


 私は、ヒーローに別れを告げ、涙をこらえる主人公を見つめた。彼女の強くて凛とした姿に憧れる。彼女の十分の一でも良いから勇気が欲しい。私の小さな世界では、今日が決戦日なのだ。


 スクリーンを見つめていると、その後のヒーローに暗い影が差す。最終的に、ヒーローが自棄を起こしたかのように最前線に向かうところで物語は終わった。


 うわぁ……


 私はエンドロールを呆然と見つめた。正直に言うと、こんなにモヤモヤする映画は初めてかもしれない。悲恋も物語の中の出来事なら好きだけど、これはなんか違う気がする。


 彼に話しかけるきっかけは、『映画が面白くて誰かと話したかった』ということに決めていた。この映画だとちょっと、難しいな。



 それに……


 ヒーローの身勝手さが今の自分と重なって心が重い。


 でも、このまま帰ってしまったら、二度とチャンスが訪れないことも分かっていた。


 ノロノロと席を立つと、斜め後ろに座っていた彼と目があう。あまりにも不意打ちで、自分がどんな顔をしていたか分からない。


 彼に話しかけようか?


 諦めて帰ろうか?


 私はモヤモヤと考えながら歩き出した。良い映画ならパンフレットを買う列に並びながら考える時間がとれるけど、はっきり言って、この映画のパンフレットは手元のコレクションに加えたくない。並んでいる人もいないので、同じ考えの人が多いんじゃないかな。


 とにかく、私は焦っていた。映画館を出るまでに結論を出さないといけない。


 このまま帰って運命の相手との出会いを待つべきだ。ヒーローの身勝手さは、私のそれを目の前に見せられたかのようだった。それでも……諦めることができない。


 映画館の入口で、彼が出てくるのを待とう。そう思って、振り返るとすぐ後ろに彼がいた。


「……」


 驚きすぎて掛ける言葉が出てこない。


「驚かせてごめん」


 彼はそれだけ言うと、そのまま私を追い越して歩いていく。このままでは、彼が帰ってしまう。


「あの……」


 なんとか絞り出した声は驚くほど小さかった。それを彼が聞き取って振り返ってくれたのは奇跡だったと思う。

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