運命の出会いはカウントダウンに入った
五色ひわ
マサトの場合
第1話 映画館
偶然に出会った二人が恋に落ちて結ばれる物語。この映画が初めて上映された100年前には、ありきたりな話だと言われ不評だったという。
こんな素敵な物語なのに、ありきたりだなんて言う人がいるとは……
僕は二人のその後を描いたエンドロールを食い入るように見つめた。幸せを掴んだヒロインの笑顔がとっても眩しい。
周囲が明るくなったことに気づいて、僕は映画の世界から抜け出した。今年観た映画の中では、一番感動したかもしれない。
自分で選んだ相手と未来を作っていく。スクリーンの中では普通のこととして描かれていたが、僕らの世代からすれば夢のようなことだ。
僕は余韻に浸りながら、ゆっくりと立ち上がる。パンフレットを買いに向かうが、売店の先客は僕と同い年の少女一人だけだった。
やっぱり、恋愛映画って流行らないのかな。
僕は寂しく思いながら、端末に手をかざす。パンフレットのデータが転送されてきたのを確認して、映画館を後にした。
本当は紙のパンフレットが欲しいけど、高校生の僕には高価すぎて買うことができない。当時のパンフレットを復刻させたものが作られているはずだが、地元の映画館には一部も置かれていなかった。きっと、買う者がいないから取り寄せすらしなかったのだろう。
毎回、パンフレットが買えるくらいの成功者になりたいな。
僕は心の中で呟く。
今日見た映画が作られたレイワの時代には、本を売るお店がどの街にも一つはあったらしい。映画を見るくらいの感覚で本が買えたようなのだ。庶民でも本棚を持っていたというが、僕にとっては物語の中の世界でしかない。
何もかもに恵まれていた時代だが、この頃の人が電子化を進め本を贅沢品に戻してしまった。そういう意味では、罪深き時代でもある。
「家に帰ろう」
僕が呟くと、眼の前に最適な経路が表示される。その情報に従って、僕は帰路についた。
僕が自宅の玄関の前に着くと、扉が勝手に開く。家に組み込まれたAIが僕の位置情報を追っているため、帰宅に合わせて扉が開くのだ。父がこの家に移り住んだときには感動したと言っていたが、僕にとっては生まれたときからある当たり前のシステムである。
でも、僕はAIが好きじゃない。何もかもを知られている気がしてイライラしてしまうのだ。特に、ここ最近は……
玄関を入って靴を脱ぐと、家族が外出中であることが眼の前に表示される。両親は遅くなるようなので、今日の夕食は一人になりそうだ。
「今日はお風呂に入ってからカレーを食べる」
僕は呟いてAIに準備を任せ、自室へと向かった。
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