おねショタ世直し珍道中

月兎耳のべる

第1話『貴方のせいりゅーですよ』

 ──それは無機質な、白い空間だった。


 四方を見ても壁が存在しないその空間は、中心に多種多様のモニターが浮いており。


 それを見る人は、どこにもいないようだった。


 モニターはチカチカと明滅し、映像を引っ切り無しに入れ替えている。


 音のない映像の中で、それはある世界の様子を色んな視点で写していた。


 荒廃した街が見えた。


 肌を腐らせた死体が見えた。


 黒い液体で汚染された自然が広がっていた。


 山のように積まれた焼け焦げた死体が、散乱していた。


 映像のどこを見ても、荒廃した自然、建物、戦争の痕跡、そして死体だらけ。


 唯一、どこかの聖堂と思われる場所で、血を流した女性が虚ろに神に祈っているのが見えた。


 ──モニターは、ひとつの世界が終わりかけるその様子を、ただただ無機質に写し続けるばかり。


 そんなモニターのすぐ下に、コンソール画面があった。


 画面は文字が高速で流れており、さながら何かを記録しているかのようにも見えた。


 ────────────


 ●PLAN NO:1,125,899,906,842,623


 ●PLAN NAME:12 MONKEYS.


 ●CASE:COLLAPSE OF PARADAISE BY DEADLY PATHOGEN SPREAD


 □PROGRESS:LOAD ENVIRONMENT No.1


 □PROGRESS:START.


 □PROGRESS:■■□□□□□□□...


 □PROGRESS:■■■■■□□□□...


 □PROGRESS:■■■■■■■■□...


 □PROGRESS:COMPLETE.


 ●RESULT:FAILED


 ●DETAILS:

 A deadly pathogen broke out in the north of the country, causing extensive damage in various countries. Each country tried to solve the problem with folk remedies based on their religious beliefs, but failed. When 50% of the country was affected, a cross-border meeting was held, but the leaders were unable to control the outbreak, and a civil war broke out. Finally, the survivors abandoned the solution. They can only pray to god. And 20 years later, the last inhabitant die.


 □PROGRESS:INITIALLIZE.


 ────────────


 最後の文字が流れた途端に、ぶつん。


 全てのモニターが途切れ、何も映さなくなる。


 そんな中でも、コンソールはカタカタと途切れること無くログを書き続けている。


 この試行が繰り返されて、もう何万年がたったことか。


 一向に終わりの見えない中、コンソールは無機質にログを書き続けるばかりだ。


 なぜか?


 


 コンソールは黙々とインプットを行い、画面に違う文字が浮かび上がった。


 ────────────


 ●PLAN NO:1,125,899,906,842,624


 ●PLAN NAME:NIKO NIKO UNIVERSE


 ●CASE:COLLAPSE OF PARADAISE BY GOD'S RUNAWAY


 □PROGRESS:LOAD ENVIRONMENT No.1


 □PROGRESS:START.


 ────────────



 真っ暗だったモニターが次々と世界を映し出す。


 映るのは緑に包まれた、とても美しい世界だった。


 楽しげに遊ぶ子ども達がいれば、


 街並みを忙しなく行き交う商人がおり、


 剣を掲げて雄々しく戦場を駆け抜ける軍人がいれば、


 巨大な樹から吐き出された、謎の少年もいる。


 コンソールは誰もいないその部屋で、静かに新しい世界を観測し始めるのでした。



 § § §



 ────迺ー蠅??逕滓?縲り?辟カ讒区?縺ョ閾ェ蜍戊ェソ謨エ縲ゅが繝悶ず繧ァ繧ッ繝育函謌舌?ゆケア謨ー逕滓?縲ゆココ蜿」隱ソ謨エ縲ゅい繝シ繝?ぅ繝輔ぃ繧ッ繝医?逕滓?縲ょ?縺ヲ縺ョ莠コ迚ゥ縺ョ險俶?縺ィ諢滓ュ繝ォ繝シ繝?ぅ繝シ繝ウ縺ョ蜀咲函謌舌?────


 ──────……

  

 ────……


 ──いまは昔、の地に楽園ありき。


 の地、天下に最たる力あり。


 すぐれしすべしんを持ち。

 

 てあまねくしょうをおこす。


 の地、神すらつくりいだしき繁栄せむ。


 一はつるぎの達神なり。


 一はこぶしの達神なり。


 一はゆみの達神なり。


 一はようの達神なり。


 一はの達神なり。


 楽園に住まふわたりは神を使ひて、

 

 天地を制覇せむとせり。


 後の世に神ら、癒の達神の元へつどい、


 治世のことわりを疑へば。


 千年の後に、




 

 ◇ ◇ ◇




 ──べちょっ。



「ふぎゅ」


 ここは、とあるすんごい山奥にある、すーんごい神秘の場所です。


 そこはよこしまな心を持つ存在はもとより、善良な存在ですら近づけない、と言われる秘境であり。


 その中心には数万人が手をつないで囲っても、一周できないほどの大きな樹がありました。


 『いるみんすうる』。


 それは空を貫かんばかりに伸びる大樹。


 青々とした葉がいつまでも生い茂り、決して枯れることのない、世界を支えてきた樹です。


 『いるみんすうる』の葉を煎じて飲めば、どんな怪我も、どんな万病もたちどころに治り。


 果実を食べれば、死者すらも生き返ると言われています。


 そんなありがた~い木のウロから、べちょり。


 急にショタが吐き出されました。


 それはそれは美しい顔立ちをしたショタでした。


 大人の腰くらいの背丈で、触れれば折れてしまいそうなほど線が細く。


 真っ白な肌はシミひとつなし。


 地面まで伸びた緑の髪は宝石のように美しく、寝起きをあらわすようにふわふわ。


 琥珀のような瞳は眠たげでくりくりとしています。

 

 その美しさだけでも、彼が人ならざる存在だとすぐに分かるでしょう。


 しかし彼をより幻想たらしめるのは、それだけではありません。


 おでこからちょこんと突き出た一本角。


 人にはあるはずのない両足のひづめ。


 そしてひょろりと伸びた馬のような尻尾。


 それらが、より彼を神秘に至らしめているのでした。

 

 さてさて。


 樹から生まれた不思議ショタ君。


 起きてそうそう、周りをきょろきょろと見回しているようです。


 どうやらなぜ自分がこの場に居るのか、よく分かってないようですね。


「……?」


 深い深い森の奥。


 周りにあるのは一面の樹だらけ。


 建物はもとより、人の気配すら感じられず。


 どうやら現状がよく分かってないようですね。


「……」


 誰かを探しているのでしょうか。


 キョロキョロとしきりに周りを見渡したショタは、やがてあてもなく森を歩き始めます。


 ……しかしまあ、足取りがおぼつかないこと。


 右に左にうろちょろうろちょろ……なんだか非常に危なかしいです。


 さながら親を探す、迷子のようです。


 そして何度も言いますが、この森はとっても神秘的な場所。


 神秘すぎて、うろつく動物達も規格外です。


 そんな動物達からすれば、無防備に歩く彼はです。


 いや、カモがネギも、水菜も、しいたけも、鍋も、カセットコンロも、持ってきたぐらいのゴチソウでした。


「……あ」


「くぉるるるる……」


 言わんこっちゃありません。


 ショタ君は『まんていこあ』と呼ばれる、


 と~っても強いトラと出会ってしまいました。


 それは鋭い剣のようなトゲが全身から生えた、見るからにヤバそうな動物です。


 大きさもショタ君の大体百倍くらい!


 不運なことに、そのトラは森の主に相当する存在でした。


 トラはショタ君をごちそうだと考えているようですね。


 口元からヨダレをだらだら垂らして見つめてきます。


「……おおきい」


 しかしてショタ君、危険だとは思っていません。


 本来なら逃げる所を、とてとてと逆に近寄る始末です。


 これにはトラもゴキゲンです。


 森で一番恐れられる我に、食べろといわんばかりに近づくエサ。


 こんなの食べない訳がありません。


 ハグしてあげよう近づくショタ君と、おやつ代わりに食べようとするトラ。


 その運命は明らかです。


 大口を開けたトラが、今まさにひと飲みしようとした――その時でした。


「──ギャンッ!?」


 まず。どこからともなく飛来した大きな斬撃が、虎に深い傷を与えました。


「グギャッ!?」


 次に巨大な虎が、地面に大の字になって深くめりこみました。


「ギャウッ!? ギャウゥッ!」


 そして天空から矢と思われる光るモノが全身めがけて雨の様に降り。


「ゴアアァ~~~~ッ!?!?!?!?!」


 トドメとばかりに、赤熱した無数の小さな岩が吸い込まれるように背中へと命中しました。


 トラさん、あっという間に瀕死状態です。


 森の王とまで恐れられているのに、なんという無様な姿でしょう。


 ショタ君の前でピクピクと倒れてしまいました。


 さて、これに驚くのはショタ君です。


 彼はと~っても優しい子です。


 仲良くなる目的で近付いた子が死にかけた。


 そんなの放っておけません。


 とてとてと大きな体に近づき、おもむろに触れると──なんとびっくり。


 巻き戻したかのようにトラの体が再生してゆき、あっという間に元通りになってしまいました。


 トラもこれには驚きを隠せません。


 急に死にかけたと思えば、すぐに元通りだなんて!


 しかし、治った所で怒りがむくむくとわいてきます。


 おのれ小さき者め。


 我に土をつけたばかりか、愚弄するつもりか!


 その巨体で軽々とショタ君の視界から消えたトラ。


 背後からその肉をしゃぶりつくしてやると、瞬時に襲い掛かろうとして──、


「ギャウンギャウンッ、キャンキャンキャンキャン──ッ!!?」


 ──その直後、四方八方から飛んでくる光、斬撃、岩。矢の豪雨が再びトラを襲ったのでした。


 どこにいようとも、どこに隠れようとも的確に飛んでくる攻撃の嵐は、秒を待たずしてトラを瀕死に追い込み。


 哀れトラは、ふたたびショタ君の前で死にかけるのでした。


 ショタ君はそんなトラ君を哀れみました。


 可哀想に。


 こんなにも牙を剥かれるなんて。


 せめて、私だけは味方になってあげるよと。


 再び瀕死になったトラに触れれば、時間を待たずにまたも全快。


 トラも賢いもので、なんの因果で自分が攻撃をされているのかを理解し、チビりながら森の奥へ逃げていってしまいました。


「……あ」


 ショタ君は悲しみました。


 仲良くなれなかったこと。


 それはとても悲しいことです。


 博愛主義者が服を着たような存在であるショタ君は、誰であっても仲良くしたかったのです。


 何やら不運な子だったけど、また会えるのかな。


 そう思いながら、また森をうろちょろしようとして……。


「――あぁ、ようやく会えましたね」


「……!」


 その聞き覚えのある声に、ショタ君の眠たげな目が少し開きました。


「……せいりゅー」


「はい。遅くなってすみません。貴方の『せいりゅー』ですよ。きりん」 


 音もなく背後に現れた美少女……七つの刀剣を腰と背中にこさえた彼女は、柔和な笑みを浮かべて『きりん』君を抱き上げたのでした。

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