第6話 戦場★
まずはアルトの王国に援軍を頼むことにしよう。
俺はアルトの元へ出向いた。
「……というわけなんだ、協力を頼めるか?」
「もちろんですエルド様! アーデ様を必ずやお守りします! エルド教からも兵力を派遣しましょう!」
「ありがとう……!」
アルトも戦いに参加してくれるようだ。
頼もしい。
魔王軍と戦ったときのように、俺は後ろから回復魔法で支援するつもりだ。
きっとうまくいく……!
それから、俺はグラディオスにも会いに行った。
「グラディオス。新たな戦場が欲しくないか?」
「もちろんだ……エルド様。俺は常に血に飢えている……! この前の魔王軍との戦いも最高だったぜ。あれよりもすげぇ戦場なんだろうな?」
「ああ、おそらくな。相手はかなり強いときいている」
「いいねぇ……! 最高だ。さすがは俺のご主人様だぜ」
グラディオスの士気もばっちりのようだ。
魔王軍との戦いでも、グラディオスは一騎当千の暴れっぷりを見せてくれたからな。
「ギドも、頼りにしているぞ」
「はい。もちろんです。敵将の暗殺ならお任せください」
それから、一番の頼りはやはりドミンゴたち冒険者組だ。
「ドミンゴ、頼んだぞ」
「もちろんです! エルド様とアーデ様は、俺がまもります!」
◆
そしていよいよ、戦いが始まった。
エルフ軍が進軍してきたのは、予想よりも早かった。
旗印には、エルフ王ゼルヴァ・フィルシアの紋章――双剣を抱く精霊の紋が翻っている。
それに対するは、俺が統率する軍勢。
かつて魔王討伐を成し遂げた兵士たちと、俺のもとに集まった奴隷兵団。
亜人や王族すらも混じる異色の軍勢――「エルド軍」として、一つにまとまっていた。
戦場となったのは、エルフ国と俺の領地の境にある広大な草原。
空には精霊の祝福を受けたエルフの騎兵が舞い、地上には白銀の甲冑を纏った精鋭兵が整列している。
対する俺たちは、規律こそ取れているものの、武装も種族も統一されていない混成軍。
普通に考えれば、エルフ国の正規軍が圧倒的に有利だろう。
だが――俺たちは負けるつもりはなかった。
「あれが……ゼルヴァ=ナヴァラン・エル・フィルシアか……?」
戦場に、ひときわ目立つ鎧を身に着けたエルフがいた。
俺はそれを、双眼鏡で確認する。
どうやら、王自らが先頭で兵を率いるタイプのようだ。
いいねぇ……敵ながら、そういうタイプは好きだ。
だが、俺は回復魔法で後方支援をさせてもらう……。
あくまでこの戦いは、絶対に勝たなければならない戦いだからな。
丘の上に集まったエルフたちはなにやら特殊な形状の笛を鳴らすと、一斉に武器を抜いた。
兵士たちの士気を上げるためのものか、なにか魔法効果のある音なのかはわからない。
だが、とにかく今の笛が、合図となった。
戦いが、始まった。
ゼルヴァが手を振ると、精霊の力を纏ったエルフの騎兵たちが、一斉に空を裂いた。
彼らの武器は、風の精霊に祝福された銀の槍。
高速で旋回しながら突撃してくる。
「ドミンゴ! オットー! 迎撃だ!」
俺の指示に応じて、ドミンゴ率いる近接部隊が盾を構え、オットーの弓兵たちが矢を射る。
空中からの襲撃に対し、矢の嵐が飛び交い、エルフ騎兵の何人かが墜落する。
だが、さすがは精鋭、簡単には崩れない。
それに、なんといっても数が多すぎる。
「魔法部隊、詠唱準備!」
俺はすぐさま命じる。
エルド軍の魔法部隊が後方から火炎弾や雷撃を撃ち上げ、エルフ騎兵の動きを封じた。
「うおおおおおおおおおお!」
地上戦が始まる。
エルフ軍の剣士たちが一斉に突撃してきた。
対する俺たちは、奴隷兵たちを中心に戦線を構築し、応戦する。
戦場は剣と魔法が交錯する混戦になった。
最初こそ、俺たちはうまく戦えていると思っていた。
だが……。
あるときから、俺たちの側の魔法攻撃が一切通らなくなったのだ。
魔術師のアカネ率いる魔法師団が魔法攻撃を放つも、エルフ軍の魔法障壁に阻まれてしまう。
なんて強度の魔法障壁なんだ……。
さすがは、そこはエルフといったところか。
魔力量も、質も、俺たち人間側の技術とはなにもかもが違う。
「あの魔法障壁……なんとか破れないのか……」
「それは、難しいです。あれはゼルヴァ自身が作り出している、最強の魔法障壁なのです……」
リーシュが俺にそう説明する。
どうやら向こうの魔法知識は凄まじいレベルのようだ。
他にも、なにやらわけのわからない魔道具などがたくさん使用されており、俺たちはわけもわからぬまま敗れていった。
兵士たちが傷つき、どんどんと逃げ帰ってくる。
俺はそれらをすぐさま回復して、送り出すのだが、焼け石に水だった。
魔王軍のときと同じく、ゾンビ作戦をしているのに、こちらの負傷者が増えるスピードのほうがはやい。
回復が、追いつかない。
「くそ…………」
戦線を下げざるを得ない状態が続いていた。
相手はいったい、どれだけの軍事力を持っているんだ……。
おそらくは、昨日今日で思いついた作戦ではないのだろう。
入念にこの日のために準備をしてきたような、そんな戦い方だ。
エルフ国め……。人間の国を本気で獲るつもりらしい。
「長年、エルフ国は人間とは不干渉を貫いてきました。それが純潔派の考えだったのです。血を守るためにも、人間とはなるべく距離をとるという……。しかし、混血派は違います。人間をすべてエルフとの混血にしてしまい、民族を消してしまい、侵略をしようとまで考えているのです……!」
「傲慢なやつらめ……」
リーシュは俺にそう説明した。
やばい、このままだと、打つ手がない……。
相手の強力な魔法攻撃が続く。
グラディオスやドミンゴが地上戦で頑張ってくれているが、物理攻撃ではどうしても限界がある。
それに、相手の騎兵は空を飛んでくる。
地上戦だけでは、相手に対抗することができない。
「くそっ……!」
俺は思わず舌打ちする。
戦場を包むのは、強力な魔法の嵐。
エルフ軍の魔法部隊は、精霊の加護を受けた魔術師たちだ。
火炎弾、雷撃、氷柱――無数の魔法が空を覆い、俺たちの軍勢を焼き、砕き、凍らせていく。
「ぎゃあああああ!!」
「くそっ、また魔法が……!」
俺の兵たちが次々と倒れていく。
回復魔法を使う間もなく、敵の魔法攻撃が絶え間なく降り注ぐ。
「ドミンゴ、オットー、これ以上魔法部隊に対抗できるか!?」
「無理です、エルド様! 数が多すぎます! 追いつきません!」
「矢を撃ち込んでも、精霊の加護で防がれてしまいます……!」
「くそ……!」
状況は最悪だった。
エルフ軍の魔法部隊は数も多く、個々の魔力量も桁違い。
俺たちは圧倒的な魔法の暴力の前に、押されに押されていた。
「エルド様、このままでは……!」
兵士の一人が俺のそばに駆け寄ってきた。
その顔には明らかな恐怖が浮かんでいる。
「くそ……!!」
俺は拳を握る。
このままでは戦線が崩壊し、全滅するのは時間の問題だ。
――援軍が来るまで、もたない……。
エルフ軍の陣形は崩れない。
魔法部隊は容赦なく攻撃を繰り出し、俺たちは防戦一方。
何人もの仲間が倒れ、俺の回復魔法も追いつかない。
「……くそ、どうすれば……!」
俺は思わず膝をつきかけた。
そのとき――
「エルド様ぁあああああ!!!」
どこからか聞こえた仲間の叫び。
目を向けると、仲間たちが倒れながらも、俺を信じて戦っている。
魔法の猛攻を浴びながらも、俺たちはまだ戦っている。
――そうだ、俺は……。
俺は、みんなを救うために、ここにいるんじゃないのか――?
「よし、こうなったら俺が出る……!」
「待ってくださいエルド様。エルド様にもしなにかあったら、アーデ様はどうなるのですか!?」
「大丈夫だ。俺は必ず戻る……! 回復のオーブなら十分な数作ってある。俺が敵将をうちとってくる」
「エルド様……」
おかしなものだ。あれほど破滅フラグが怖かった俺が、今では自分の危険もかえりみずに、自ら戦場に立とうとしている。
今、俺はそれだけ守りたいものができてしまったのだ。
この国を、人間の国を、アルトたちの王国を、奴隷たち、仲間たちを、アーデを……俺は守りたい。
そのためなら、俺は……!
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