第4話 欠席した日のお見舞い

「今の歌……君が歌っていたの?陽菜」

「……」


陽菜が匠の方を向く。


「そうだよ?聞こえてた?」

「う、うん……」

「いつも部活が終わったらここで練習してるんだ」

「なんで屋上で練習してるの?」

「活動時間が決められてて部室が使えなくなるの。時間延ばしてほしいなぁ~」


陽菜が不満そうな顔をする。


「どうだった?私の歌」

「凄く上手だったよ。綺麗な声で、思わず見惚れてしまうような……」

「えっ?」

「な、何でもない!本当の歌手みたいだったよ!」

「えへへ……ありがとう!」


陽菜の笑顔に匠はドキッとする。


「匠君。一緒に帰ろう?」

「う、うん」



帰り道、匠と陽菜は部活について話していた。


「へぇ~!演劇部に入ることにしたんだ!」

「うん。先輩も皆優しくてさ。教えてくれてありがとう」

「私はただ演劇部が脚本家募集してるって言っただけだよ」

「陽菜は軽音楽部だよね?やっぱりボーカルなの?」

「うん!もうすぐ文化祭だから皆で練習してるの!」

「そうなんだ」

「絶対聞きに来てね!」

「うん!」

「演劇部も毎年体育館で舞台やってたはずだよ?今年もやるんじゃないかな?」

「今度部長に聞いてみる」


匠は左、陽菜は右に向かう。


「じゃあまた明日。今日はありがとう」

「これからよろしくね!またね!」


陽菜は笑顔で手を振り、走って行った。


(……やっぱり陽菜ってあの時に会った子なのか?)


匠は陽菜の後ろ姿を見えなくなるまで見つめていた。



「ただいま~!」


陽菜が元気よく家に入る。


「おかえりなさい」


母親の由紀子ゆきこが出迎える。


「お姉ちゃん体調大丈夫なの?」

「えぇ。さっき起きたところよ。明日は学校行けるんじゃないかしら?」

「そうなんだ」


リビングに行くと姉の夕香ゆうかが料理の手伝いをしていた。


「おかえり陽菜」

「ただいまお姉ちゃん!風邪治ったの?」

「えぇ。少し寝たら熱下がったわ」

「よかった」

「全く……部活を休んで私のお見舞いに行くなんて修也って本当バカなんだから」


それを聞き、陽菜はニヤニヤする。


「そう言って本当は嬉しかったんじゃないの?」

「……!そ、そんなわけないでしょ!」

「お姉ちゃん顔真っ赤だよ?図星だね?」

「~~~!早くご飯よそって!」

「あっ話そらした」


陽菜は炊飯器を開けて茶碗にご飯をよそう。


「ねぇ……お姉ちゃんって修也さんと付き合って幸せ?」

「急にどうしたのよ?」

「何となく。彼氏できたら幸せなのかな?って思っただけ」

「ふ~ん……はっきり言うとあんな修也バカと付き合っても大変なだけよ。私にいつも甘えてくるし、しつこいぐらい話しかけてくるし。

でも……なんだかんだ言って私のことを一番に考えてくれるし、楽しませてくれるし、大切にしてくれるし……だから二人でいる時とかは幸せ……かな」


夕香はお見舞いに来てくれた修也を思い出す。


―――「夕香大丈夫か?」

「あ、あんた部活は?」

「休んだ」

「なんで休むのよ!」

「夕香が心配だからに決まってるだろ!」

「あんた大会近いんだから練習しないとダメでしょ……」

「夕香が元気でいてくれないと心配で練習に集中できないからさ」


修也がニッコリと微笑む。


「早く元気になって学校に来てくれよな!」

「バカ……」


―――陽菜は夕香の自然な笑顔を見逃さなかった。


「お姉ちゃんって本当に修也さんのこと大好きだね」

「う、うるさい!」

「本当に素直じゃないね。でも修也さんはお姉ちゃんのそういうところも含めて好きなんだろうね」

「この話は終わり!早くご飯運んで!」

「は~い」



ご飯を食べ終わった後、陽菜は自分の部屋で宿題をしていた。


(やっと終わった~!)


陽菜は鞄に宿題を入れてスマホを触る。


(そういえば匠君と連絡先交換してなかったなぁ~明日交換しよっと)


しばらく触った後、電源を切り、ベッドに寝転がる。


(匠君……私を見ても何も反応しなかった……私のこと覚えてないのかな?)


陽菜は幼少期に桜の木の下で出会った少年を思い出していた。

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