第14話 初日

 ここナイロビ郊外からカメルーンのヤウンデまで直線距離約1800kmのレースが始まった。実際に走るのは5000kmぐらいになる。これを一ヶ月ぐらいかけて走る。「ぐらい」というのは、「先頭車到着の翌日に次のチェックポイントを発表しスタート」というこのレース独特のレギュレーションのせいで、日数を事前に確定できないからだ。


 一日平均160kmなんて楽勝と思うのは、勘違いだ。今回、バッテリー交換や外部電源や燃料電池が禁じられてるから、太陽光発電がほぼ必須。うちは違うけどね。

 前日にバッテリーを使い切っていると、車載の太陽光パネルでは、太陽が登ってからほぼ半日はまともに走り出せない。しかも今は雨季、雨だとその日は動けない。本当に根性の曲がった主催者のレースだわ。


 今日は、朝から雨だ。ソーラーカーにはきついコンディションだけれど、うちには関係ない。

 私、何故か2号車に乗せられてる。教授は本部詰めということで、私が2号車の魔法使い枠だ。1号車の魔法使いは、T社ラリーチーム唯一の魔法使いのナビさんその一だ。


 一つ目のチェックポイントが発表された。ヴィクトリア湖東岸のキシー、ここから約300km。制限時間無しだが、先頭到着から六時間でチェックポイントがクローズする。


 初日にバッテリーをゼロから充電してスタートではレースの見た目が締まらないので、今日だけはバッテリー満充電からのスタートだ。

 スタートの合図で背の低いソーラーカー達が飛び出して行った。みんな結構速い。

 うちはそれらの車を踏み潰さないように、後からゆっくりスタートした。どうせうちの勝負は二日目以降なので、ちょっと速めの自転車ぐらいの速度で走った。


 しばらくすると幹線道路なのに舗装が荒れてきた。穴ボコに引っかかったレースカーが壊れているのを見かけるようになった。ソーラーカーは軽量化しまくっているので、耐久性に弱点があるんだよ。うちのバスは違うけどね。

「ここアフリカだから、路面を信用してはいけない」

とは、ナビさんその二の言だ。

 ガソリン車レースの場合、速度が今回と桁違いなので穴ボコに引っかかると車が吹っ飛んで、ガラスや外装が粉々になることもあるそうだ。経験者は語るという奴だね。


 だらだら話しながらドライブし、途中車を停めて昼食も取った。このバス、トイレ付きだし、ほぼ観光旅行だわ。ドライバーさんもナビさんもこんな楽なレースしたことないと笑っていた。

 窓の外に時々、不正監視の主催者側ドローンが見えたので、手を振っておいた。

 

 初日、先頭から四時間遅れで、チェックポイントに着いた。車を軽く点検した後に保管所に停めたら、夕食をみんなで食べて、サポートカーの中でおやすみなさいだった。

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