うちのバイト先が、最近どーもおかしい

青銅正人

第1話 私のバイト先

 「恵梨奈えりなさん。家に引きこもって同じことばかりしていて飽きたでしょう。バイトをしませんか?」

という母方祖母の一声から働きだした私のバイト先は、O大学工学部新素材学科電気電子デバイス研究室だ。研究室のボスは、昔の韓流ドラマ「◯のソナタ」に出てたヨ◯様に似た優しげなイケオジだ。


 きょうも梅雨前でかなり暑い地下鉄の駅を降りた。駅に止めておいた自転車に乗って、広すぎるキャンパスをひたすら走って、研究室にたどり着いた。まったく無料巡回バスでも走らせればいいのに。


 8時半前、研究室のセミナー室の床に転がっている中身の入った寝袋を避けながら、机の上を片付けた。業務用コーヒーメーカーのコーヒーかすを捨てて、サーバーをざっと洗った。新しいコーヒーと水をセットしスイッチを入れておいた。

 これはやってもやらなくても良いのだけど、やった人はその日無料でコーヒーが飲めるから、私はやる。その日やらなかった人はコーヒー組合の集金箱に一杯ごとに50円を入れないといけない決まりだ。ケチだとか言うな。

 研究室の組合には、他にラーメン組合とカレー組合があるそうだが、私は利用していないので何か特典があるのかは知らない。


 始業時間になったのでセミナー室の自分の机に座って、教授からの飛び込みのリクエストが無いか、自分専用のPCを立ち上げてチェックする。今日は特にないみたいなので、ルーチンの仕事をこなすだけだな。

 院生やポスドクの発注書をチェックして、教員のチェックがあるものは、執行残高に余裕があることを確認し、学部の予算サーバーに購入依頼を予算ごとに打ち込んでいく。チェックが無いのは差し戻し。簡単なお仕事。

 研究室あてに送られてきたメールは、内容を読んで各教員に転送。夏休み前なので大学院入試のための研究室訪問のメールが多い。英語のもあるが気にしない。内容が分からないものは教授へ。転送、転送……。

 PCをロックし、台車を押して学部事務室へ。郵便物や宅配物やいまだに紙の配布物を研究室に持ち帰って、研究室内で配達。台車をセミナー室に戻すころには、床にあった寝袋は片付いている。中身はみんな学食に行ったんだろう。

 部屋を軽く掃除する。ここ私のメインの職場だからね。清潔にしないと。実験室は素人には危ないから、私は掃除出来ないと言うか、入室を禁じられてる。


 無料のコーヒーを自分のマグで飲んでると、いつも半開きにしてあるドアがノックされた。珍しいなノックする奴なんて、研究室メンバーにはいないぞ。この部屋は色々と使うので、ノックなしが決まりだからね。

「どうぞ、お入りください」

そう声をかけると、

「失礼します。院生の田中さんをお願いします。私、稲田光いなだひかりと言います」

制服女子高生だった。しかも結構美人。

 研究室に女子高生が名指しで訪ねてくるなんて! 田中! お前何したーー!

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