第30話 泳ぎ方を教えてやる

 尻に日焼け止めを塗りたくられる俺。

 一番いらない場所を念入りにされちまってる……。


 俺は顔を上げ、姉ちゃんたちに声をかけた。


「も、もういいんじゃねぇか? 十分な気がするぞ」

「そうだな。……スンスン」

「み、美雨姉みうねぇっ!?」


 なんと美雨姉は、俺の尻を揉みしだいた手を嗅いでいたのだ。

 俺が声を上げると、何ごともなかったかのように平然とした顔になる。


「日焼け止め塗るだけで結構時間経っちゃったね~」


 出雲いずもの言うように、プールを前にして欲望に負けてしまった。

 仕切り直して、ここからはいっぱい泳ぐぞ!


 ここにきて、ようやくプールに浸かる。

 俺は本日ニ度目だが、冷たくて気持ちいい……。

 深さはそうなく、一番背の低い出雲でも足がつくレベルだ。


 広いプールだと思っていたが、四人で入るとさすがに狭さを感じるな。

 まぁ……それがいいんだけど。


 俺はカエルみたいに泳ぎ、美雨姉はプールサイドに両腕を置いてモデルみたいな格好をしている。

 出雲は背泳ぎというかプカプカと浮いており、彩姉あやねぇは俺たちのことを微笑みながら見ていた。


 彩姉は泳がないのかと思い、俺はそちらのほうへ近づく。


「彩姉も泳いだらどうだ? すげぇ気持ちいいぞ」

「あ……うん」


 うつむきがちに、そう返事をする彩姉。

 これってもしや……。


 俺はさらに近づき、こっそりと聞いた。


「……もしかして、彩姉って泳げなかったのか?」

「そ、そう……」


 恥ずかしそうに答える彩姉。


「そっか。なら俺が手ぇ貸してやるから、それに掴まって練習してみるか?」

「……いいの?」

「おう!」


 水泳の授業っていうのは、たしかこうやって教えられたはずだ。

 俺が先生側に立てるなんて思ってもみなかったけどな。


 手を差し伸べ、そこに彩姉の手が触れる。

 冷たい水の中でも、はっきりとその温かさは伝わった。


「力、入ってるな。大丈夫だ、心配すんな。俺がついてる」

「う、うん……!」


 彩姉の手から力が少し抜け、ゆっくりと浮かび上がった。


「そうそう! いい感じだ、泳げてるぞ! その調子その調子!」


 そのまま数センチほど移動し、俺も達成感をおぼえた。


 すると、彩姉は勢いよく水中から出てくる。


「ぶはぁっ! はぁはぁ……泳げてた?」

「あぁ。見てみろよ、これだけ進んだんだぞ」


 彩姉は後ろを振り返り、そして俺を再び見てニッコリと笑う。


「本当だ……息継ぎできたら、もっと進めそうだね!」

「そうだな。彩姉ならすぐに覚えられそうだ!」


 そう親指を立ててやると、なんと彩姉は他の二人がいるのにもかかわらず、抱きついてきたのだ。


「あ、彩姉!? うおっ!? ちょっ!」


 薄い水着越しの柔らかい感触が、ありありと俺に伝わる。

 彼女の肌が俺の肌に吸い付き、熱を共有してきた。


 その様子に、出雲も美雨姉も目をまん丸にする。


「ありがとね、雪くん……」

「……いいや! 頑張ったのは彩姉だからな」

「それでも嬉しい……」

「ぬぉわっ!?」


 さらにギュッと抱きしめ、その跳ね上がる鼓動を教えてくれる。

 その速さは抱きしめられている長さに比例し、速まっていった。


 そうしていると、その光景を見ていた美雨姉が近くにやってくる。


「コホン! 実は私も泳ぎが苦手でな。もしお前が得意だというなら、教えてもらいたいんだが?」

「美雨姉は泳げるだろ? 教師してんだからさ」

「関係ないぞ。それに担当は体育ではなく数学だからな」

「本当かよ……」


 絶対に嘘な気がする。

 彩姉は水に入るときにちょっと怖がってそうな感じだったが、美雨姉はためらいなく入っていったからな……。


 そう疑いの目を向けていると、出雲もやってきた。


「ふーん、お兄ちゃんって泳ぐの得意なんだ? あたしにも教えてよ」

「いや、別に得意じゃねぇよ。たぶん人並み……だと思うけどな」

「まぁでもこの中だと一番泳げるんでしょ?」

「出雲のほうが泳げるだろ。お前、運動神経よかったろ」

「さぁ~?」


 出雲までとぼけてやがる。


 しょうがない、ここはまとめて相手してやるとすっか!


「わかった。美雨姉と出雲にも泳ぎを教えてやる」

「そうか、助かる」

「……自分で言っておいてなんだけど、あたし恥ずかしくなってきたかも」

「今さらやっぱナシは聞かねぇぞ」

「わかってるよ~」


 ほんのりと顔を赤くする二人に、俺は両手をそれぞれ出した。


「よし、美雨姉は俺の左手。出雲は俺の右手を掴んで泳いでくれ」

「いいだろう」

「右手ね、おっけー」


 それぞれの手が乗る。

 こうして触っていると、やっぱり二人の手って違うんだな。

 美雨姉の手は細くて長いが、出雲はさらに細くて短い。

 どっちも好きなタイプの手だ。

 もちろん彩姉の柔らかい手も好き。


 彩姉と明らかに違っていたのは、俺の手にかかる力だ。

 二人とも本当は泳げるからか、握る力は込められているが重さがない。


「そんじゃ、いくぞー」


 手を引き、それに追従して泳ぐ。

 うん、これは間違いなく泳げてるな!

 なんなら俺より上手いんじゃないのか……。


「よし、その調子だ。もうすぐ泳ぎ切るぞー」


 そしてフィニッシュ。

 二人は同時に水中から顔を出した。


「ふぅ。いい指導だったな、雪丸」

「いやいや……マジでなんもしてないぞ、俺」

「いいや、的確に手を動かして誘導してくれたのを感じた」

「そ、そうか?」


 もちろん、そんなことはしていない。

 完全に美雨姉の思い込みだ。


「ふぃー、いい感じだった?」

「おう、上手に泳げてたと思うぞ」

「そっか。ありがと、お兄ちゃ~ん」

「あぁ……」


 素直に褒められると、大したことをしてなくても恥ずかしくなってくる。

 その様子を見て、彩姉も優しく笑っていた。


 そう思っていると、美雨姉と出雲は互いに顔を見合わせる。

 そして機を見計らったのか、左右の腕にそれぞれ抱きついてきた。


「んのわぁっ!?」


 ボヨン、ぽよんっとおっぱいが腕に当たってくる。

 なんならその下の腹も手の甲に触れてしまっていた。


「……あ、彩晴あやはのマネをしてみた。これが礼になるんだろう? ……嫌じゃないか?」

「お、俺は全然……」

「あたしも彩姉ちゃんのマネってことで……へへっ」

「出雲……」


 いかん、幸せすぎる。

 大好きな姉と妹に左右から腕を絡められるなんて、冷静になって考えればとんでもないことだぞ。

 寝ている最中の夢でしか見られなかった光景が、今この手の中にある。

 あねさんに自慢の報告でもしてやりたいぐらいだ。


 そう惚気ていると、彩姉も近づいてきて――。


「えいっ」

「おぉっ!?」


 正面から抱きついてきたのだった。


 三方向から、温かくて柔らかいものが攻めてくる。

 冷たいプールの中にいるってのに、頭が沸騰しそうになってきた。


 そして三人は、俺のほうを見てこう言ってきた。


「雪丸」

「お兄ちゃん」

「雪くん……ありがとうっ」

「……あぁ! どういたしましてだ!」


 俺がそう礼を言って微笑むと、彼女らはさらにギュッと身を寄せてきたのだった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

【あとがき】

まだ☆評価されていない方は、ぜひこの機会にお願いします!

そうすることで、より多くの方に見ていただけますので!

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