第10話 霧矢中の百人殺し
休日。
俺は
配信活動で使っている名前はシノビマル、だ。
由来に関しちゃ説明不要だと思うが、我ながら格好のつく名前だと思っている。
それが成果に繋がらないのは別としてな。
現在の閲覧者数は2。
逆にこの2人はどこから来たんだと思う。
チーム形式のFPSで誰も聞いていなさそうな雑談をしながら、リアクションを取る。
「あ~、ハンバーグが食いてぇなぁ。最近食ってねぇし……あれ? おい、味方はどこ行ったんだ!? まさか俺だけか!? うわぁあ!!」
チームで戦っていたはずが、気づけば1人になっていた。
あっけなくやられるも、コメントはつかない。
むしろリアクションを取れば人が減ることのほうが多かった。
ただこんな状況でも、ゲーム配信をしていてよかったことがある。
それは
ちなみに姉ちゃんたちにはゲームをしながら喋っていると伝えている。
まぁ、当の姐さんは食って寝てばかりなんだが……。
負けちまったし、もう配信を閉じるか。
そう思い、挨拶をする。
「キリがいいし、終わりにすっか。そんじゃ、また次の配信でー」
アバターを左右にカクカクと揺らして挨拶をし、配信ツールを閉じようとした。
だが――。
「……ん? うわぁっ!?」
手がキーボードのどこかに当たってしまったのか、アバターが消える。
そして代わりにゲーム画面に映ったのは、俺の生の顔だった。
「やっべ!」
急いでウィンドウごと消す。
ドクンドクンと嫌な鼓動がこだました。
そのときに見えた閲覧者数は、最終的には1人減って1人だけになっていた。
たった1人に見られただけなら……まぁ大丈夫か。
椅子にもたれかかり、呼吸を整える。
すると、姐さんが起きてきて机の上に座った。
「どうしたのじゃ? 大声を出しよって」
「……配信で顔が映っちまったんだよ。この顔がな」
「ん? それの何がいけないんじゃ?」
「ネットに顔を出すのがよくねぇってのもあるが、眼がな……あんまり日本人にはいねぇんだよ。こういう青いの」
姐さんは自身の青い眼と合わせるように、俺を見る。
そして首を傾げた。
「お前さまの眼が特殊なのは知っておる。じゃが、それだけが理由なのか?」
「まぁ、眼にまつわることなんだが……昔、トラブルがあってな。ここに引っ越してくる前に」
「というと?」
「俺が中学のとき、この眼をからかわれたんだよ。よくあるガキのやり取りだ。俺だって言ってきた奴のことを罵ったしな、『なんだと、この角刈り野郎!』みたいにな」
俺のくだらない話に耳を傾ける姐さんは、どこか嬉しそうな顔を浮かべていた。
「そいつと言い合いになったとき、殴られたんだよ俺。それで……俺も殴り返しちまった。そしたら……一発で
「ほう、それでどうなったんじゃ?」
「したら、次はそいつ……仲間を引き連れてきやがった。そんで、そいつらも倒した。で……1人だった相手が3人、3人だった相手が10人……って具合にどんどん膨れ上がっちまったんだ」
「そやつらも倒したんじゃろう?」
「あぁ。最終的には……100人を相手にした。数えたわけじゃねぇ。あいつがそう言ってたんだよ」
使われていない工場みたいな場所に呼び出され、ぐるりと囲われた。
あのときの異様さは今でも覚えている。
「俺、バカで気づかなかったんだが……最初に喧嘩売ってきた角刈り。あいつは暴走族のリーダーだったらしい。今の時代に暴走族かよ、って思ったけどな。こことは違う、田舎だったからか。まだそういうのがあったんだよな」
「それで100人も集められたのじゃな」
「そう。それで、そいつらも全員倒した。このまま、また1000人とかになるかと思ったものの、そこで終わったんだ。限界はあったってわけだな。で……あの角刈り野郎、俺を兄貴分にしたいって言ってきたんだよ」
「ほほう、受けたのか?」
「断るに決まってんだろ。殴り合ってわかったが、別にあいつは悪い奴ってわけでもなかった。数に物言わせるのはいけ好かねぇがな。ただ……姉ちゃんたちにこれ以上、迷惑かけたくなかったんだ」
俺は喧嘩に明け暮れていたことを、秘密にしていたつもりだ。
だが……正直、バレていたと思う。
顔に怪我を作ってこなくても、手の骨を見ればわかるだろう。
そもそも嘘も下手、作り笑いも下手な俺が誤魔化せるわけがねぇ。
「そいつとは俺の身の回りの人間に手を出さねぇってことで手打ちにした」
「めでたしめでたしか?」
「いや、不名誉なあだ名がついたんだよ。俺のいた中学の名前から取って『
「ふふっ、大層な名前じゃのう」
「笑いごとじゃねぇよ。殺しなんてやってねぇのにさ。ま、それからここへ引っ越してからそう呼ぶ奴もいなくなったからよかったけど……」
「けど?」
「この眼はまたトラブルを起こしかねない。できれば家族以外には見せたくねぇんだ」
「なるほどのう……」
この眼をどうにしかしようと病院へ行き、コンタクトが合わずにグラサンをしたのもあの件からだ。
俺だけが厄介事に巻き込まれるなら、ひとりでけりをつければいい。
だが、姉ちゃんたちを悲しませたくない。
家族思いなみんなのことを考えれば、俺が傷つくことこそ、悲しませてしまうものだから。
俺は椅子にさらにもたれ、天井を眺める。
「あー、喧嘩とかいうクソの役にも立たねぇもんより……ゲーム実況の才能が欲しかったなぁ」
「与えられなかったものは、努力で補うしかなかろうて」
「だな……よいしょっと!」
PCのモニターに向かう。
しかし、ゲーム実況の努力って難しいな。
やっぱ喋りをうまくしないとダメか。
そう思っていると、姐さんが肩に飛び乗ってくる。
「そもそもな話、お前さまはどうして姉妹のことが好きなのじゃ?」
「んー……気づいたら好きになっちまってたな。……小さいときからずっと一緒にいて、世話してもらってたら……普通は好きになるもんじゃねぇのか?」
「人も動物も、血の近い者は避けるようにできておるはずじゃ。普通、とはこちらを指すのではないか?」
「そういう本能的なのが、俺には抜け落ちてたってことか。でもしょうがねぇよな、そういうふうに生まれちまったんだから!」
「ふふっ、そうじゃな」
姐さんは首を縦に振ってくれた。
我ながらこういう部分はプラス思考だと思う。
血の繋がった姉妹に好意を寄せること自体には、もう強く悩んでいない。
俺が考えるべきなのは、恋を実らせるためにどうすりゃいいかだ。
モニターをじっと見ていると、ドタドタと足音が近づいてくる。
そしてノックもせず、ドアが開けられた。
「お、お兄ちゃん!!」
「出雲? お前ノックぐらい――」
「配信で顔出したでしょ!? そのせいで、ほら!!」
出雲は動揺を顔に浮かべながら、スマホの画面を俺に見せる。
そこには俺の配信が動画化されており、大量のコメントが付いていたのだった。
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【あとがき】
読んでいただいてありがとうございます!
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