冷たい恋

@cheeeze

第1話 プロローグ

 蒸し暑い蝉の声。クーラーの効いていない教室で、蝉の声は嫌にうっとうしい。

そういえば、最近はミンミンゼミが少なくなっているらしい。現に今鳴いているのは、ジッジッと鳴くアブラゼミだ。

「おーい、星弥。聞いてんの?」

窓の外を見つめていると、つんつん肩をつつかれる。

「ああ、ごめん。聞いてなかった」

「しっかりしろよな」

口先をとがらせて拗ねる真似をする友人、明久だったが、すぐころっと表情を変えた。明久の、そういうとこは尊敬する。

「で、夏休みどこ行く?」

「あー、俺夏休み予定入ってる」

「はーーー!?」

明久は俺の肩をつかむと、ぐわんぐわん揺らしだした。

「お前!いつの間に彼女なんか、っく、俺に黙って!?」

「うざい。てか彼女じゃねーよ」

みんながみんな明久みたく恋愛に貪欲じゃねーんだよ。やれやれ。

「ばあちゃんちだよ」


________________

ばあちゃんが亡くなった。

高齢一人暮らしで、俺たち家族は心配だったけど、普段は柔軟なばあちゃんが

「家を空けるのは絶対に嫌」

というので、結局死に目に会うことはできなかった。

俺はあんまりばあちゃんちになじみ深いわけではないので、いったい何がばあちゃんをそこまでさせるのか不思議だった。ばあちゃんとは、10年前、俺が8歳の時あって以来だった。

「星弥。あんた、遺品整理してきなさい」

「え」

だから、母さんからのその言葉は、まさに青天の霹靂だった。

「夏休みの間だけ。ね、お願いよ」

「うーん」

「あんた、夏休み遊ぶような友達いないでしょ」

「う」

「あと、おこずかいもあげるから」

痛いところ突いてくる。

「わかったよ。母さんたちは?」

「いかないわよ。ま、頑張ってね」

なんとも無責任な親である。でも仕事があるからと言われると、無力な少年はただ雇われるがままになるしかないのだ。

「はい」

1万円札を3枚も握らされた俺は、静かにうなずいた。

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