「パンフレット」、「ハンカチ」、そして「教科書」

 今日の文芸部室には、いつも以上に紙が散乱していた。


「……何やってんだ、お前」


 入ってくるなり目に入ったのは、大量のパンフレットに埋もれる後輩の姿だった。


「せんぱい~~助けてください~~紙に飲まれて溺れそうですぅ~~」


「文芸部で溺れるってどういう状況だよ」


「これ、全部学校説明会用のパンフレットなんですよ……」


「なんでお前が持ってんだ」


「先生に『文芸部らしい紹介コメント書いて』って渡されました!」


「なんで文芸部らしい紹介を文芸部が書かされてんだよ……」


「文芸部が文芸して何が悪いんですか!」


「いや、悪くはないけど」


 後輩が机に並べていたパンフレットをチラ見すると、全体的に真面目なレイアウトに一文だけ浮いている。


 

「文芸部とは、すなわち精神の筋トレである。」


「……なんだこの謎キャッチコピー」


「かっこよくないですか!?」


「意味がわからん」


「じゃあ先輩も何か書いてくださいよ! ほら、知的な感じで!」


「知的……」


「例えば『文芸部では、教科書に載らない言葉の使い方を学びます』とか!」


「ちょっとそれっぽいな」


「でしょでしょ!」


「でもそれ、先生に怒られそうじゃね?」


「ですね」


「なんで自分で落とすんだよ」


「それより先輩、こんなに大量の紙、どうやって片付けましょう……」


「知らねえよ」


「文芸部らしい片付け方ってないんですか?」


「ないわ」


 とりあえず、俺たちはパンフレットを仕分けし始めたが——


「はあああ……暑い……」


「お前が床に全部広げるからだろ……」


「はあ~~~倒れそう……」


「はいはい、ハンカチ貸してやるよ」


「おおっ、先輩のハンカチ! これ、もしかして……」


「別に普通のだ」


「えー、もっとこう、レースとか刺繍とかついてるやつかと!」


「なんで俺がそんな乙女ハンカチ持ってんだよ」


「先輩、見た目はぶっきらぼうでも、内面は繊細な詩人だと思ってました……」


「その妄想力、教科書に載せようか」


「えへへ」


 パンフレットの片付けも終わり、ようやく一息。


「よし、じゃあ原稿書くか……」


「ちなみに、文芸部のパンフレットに使う写真ってどうします?」


「写真?」


「ほら、活動風景的なやつ」


「そんなの……特に無いよな」


「じゃあ、“真面目に教科書を読む風”にしておきましょう!」


「それ、完全にヤラセだろ」


「文芸部ですから! フィクションに強いんです!」


「それっぽいこと言うな」


 こうして、文芸部のパンフレットは完成(?)した。


タイトルは——


「精神の筋トレ、文芸部へようこそ」


 内容は……教科書を読んでるフリをした写真と、謎に哲学的なコピーと、汗を拭う後輩の写真が添えられていた。


「先輩、私の汗だく写真、使われますかね?」


「それだけはやめとけ」

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