15
ゆっくりと時間は進んでいく。あまりにもゆっくりで止まっているのではないかと錯覚するほどゆっくりに。それでも確かに変化しているらしい。
私にはあまりわからないけれど。
季節が冬に向かい、受験へと近づいていく。放課後には空き教室が自習室として開放された。
曜日によっては近くの大学の大学生が受験対策の勉強を見てくれる。教員免許取得を目指して少しでも経験を積むためにボランティアをしているらしい。
目標に向かって取り組むその姿は熱意に満ち溢れていた。
「遥稀、遥稀も行くよね?」
「あ、うん」
最近、なおとの距離感が縮まった。というより元に戻ったのかもしれない。さくらはなおに対しても嫌味を言い始めたらしい。
「塾のプリントを見せられても困るよね。私がやるわけにはいかないんだから」
自習室を利用しているのは主に塾に通っていない生徒。一部ではそんな生徒を見下すことがあり、さくらも例に漏れず、というわけらしい。
気にするだけ無駄だけど。
「お、2人共、今日は早いんだな」
「図書館、午後から休みだったから
「なるほどな、先生たち少し遅れるらしいぜ」
要は机を動かしながら言った。
私達もカバンを置いて手伝う。
「遥稀、そっち持ってくれ」
「承知」
「いや、私が持つよ!?」
大きなテーブルを動かす際、要は私に声を掛けた。いつものことだ。
そしてそれをなおが驚いた様子で止める。
「なおとオレじゃ息合わないじゃん。それに、遥稀は意外と力持ちだし」
「でも、」
なおは最近過保護になった気がする。重いものを運ぶ時も私より多く持とうとするし、階段とかも気を使われる。
しかし、今の状況だと要に分がある。手早く終わらせるには2人で移動させた方が早い。でも、なおは納得しないだろう。仕方がない。
「それじゃあ、なおがそっち持って。要、掛け声よろしく」
「えーまあ、いいけど」
この提案になおも一応納得したようだった。なお1人に片側を持たせるよりも私が多少なりともサポートに入った方が良い。要もなおが結構頑固なのを知っているから仕方ない、というようだった。
「そういや、蒼とサトさんは?」
「蒼は日直でサトさんは委員会。なんで?」
「だいたい一緒に来るじゃん」
「そうだっけ?」
「サトさんはともかく、蒼くんとはよく一緒に図書館に行ってから来たりしてるよね」
「そゆこと。ってか新刊どうだった?」
「面白かった。今は蒼に貸してる」
「その本、たしかさくらも読み始めたって言ってたような...」
「うお、まじか...散々バカにしてたのに?」
「恋する乙女は盲目ってやつかな?」
それにしても、今日はいつもよりも寒い気がする...。
「遥稀?どうしたの?」
「...ジャージ、忘れた」
「ああ、寒がりだもんね...今日体育なかったから私も持ってないや」
「学ラン借りるか?中着こんでるから平気だけど」
「女子に殺されたくないからいい」
「いや、なんだよ、それ」
これだから自覚のないイケメンは...。見つかったらまずさくらがめんどくさい。
それから、何人か要に好意を持っている女子はいたはず。うん...。借りない方が身のためだ。
たしか、カイロはあったはず。...。指先が冷えて上手くあかない...。
「...なお、あけて」
「わかったって、え、手、冷たすぎない...?」
「冷え性だから。なおは子ども体温」
「た、体温が奪われていく...。」
「そんなに冷たいのか?」
そう言って要は私に握手を求めた。私も挑むべくそれに応える」
「...。う、上には上がいた...氷だ、氷」
「え、オレの手、そんなに冷たい...?いや、でも手が冷たいのは心が温かい証拠だって.。」
「いや、それ根拠ないでしょ。はい、遥稀」
なおからカイロを受け取ってシャカシャカ振る。
早く温まってくれ...。振っている途中で蒼とサトさんもやって来た。
「おつかれーって、何してんの?」
「あ、おつかれ。遥稀、冷え性で寒がりだから必死に傍観しようとしてて今必死にカイロ振ってる」
「ジャージは?」
「忘れたみたい」
私が必死にカイロを振っているのを隣で要が笑っていた。
いや、笑うな、こっちは今生きるか死ぬかの戦いをしているんだ。あ、徐々に温かくなってきた。
小さな幸せだ...。
「遥稀、学ラン貸すから着とけよ」
「え。?」
蒼が考えるように言って肩に学ランをかけてきた。温かい...。
「さっき動き回ってたから今暑くてさ、誰かの体温で保温しててくれたらなって」
「つまり、気分は豊臣秀吉になれ、と」
「え?あ、まあ、うん。ほら、カイロもこっちの方が温かいだろ?」
「...神!?」
「大げさだなって、マジて手冷たい。氷みたいだな...」
「子ども体温その2だ。温かい...」
手をにぎにぎしながらそう呟く。
今日は何だか至れり尽くせりだ。ぽかぽかしてきたせいか眠気もやって来た...。
「始まる前に少し寝てたらどうだ?」
「うん...そう、する...」
私は眠気に身を任せて目を閉じた。
このまま目を覚ましたくない、そう思えるほど心地よかった...。
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