陽だまりの笑顔(奈穂)

「あ、いたいた。久しぶり」


 待ち合わせ場所にようやく待ち人がやって来た。とはいえ、私が少し早めに着いただけなんだけど。


「なお、久しぶり。あれ?美波は?」


「美波は日直でもう少しで来るよ。遥稀が迷子にならないように先に行っといてって言われたの」


「相変わらず子ども扱いしてくる...」


「人混みとか苦手だから心配してるんだよ。あ、美波学校出るって」



 数か月ぶりに私達は放課後に待ち合わせをした。


 学校の距離が近いとはいえ、遥稀と私達は別の学校に進学したため頻繁に会うことはなくなっていた。お互い部活にも所属しているしね。


 今日は互いに学校が早上がりかつ部活も休みだったため会うこととなったのだ。



「どう?部活は楽しい?」


「もう、お父さんみたいなこと聞いてくる。楽しいよ。後輩もかわいいし」


「お父さん?」


「うん。最近、というか高校生になってから毎日のように聞いている来るんだ。学校は楽しいか?とか部活は楽しいか?って」


「そっか...。」


 遥稀のご両親はきっと遥稀のことが心配でたまらないんだろう。


 楽しく学校で過ごせているのか、友達はきちんとできたのか、とか。


「なお?」


「ううん、何でもないよ。文芸部って今年も文集出すの?」


「うん、学園祭でね。文化祭は朗読会と展示をやるんだ。なおのとこは吹奏楽部だったよね?」


「うん、ステージで演奏するよ。それ以外はクラスと自由時間かな」


「なーんの話してんの?」


「わっ、美波。意外と早かったね?」


「校門からダッシュで来た。遥稀、久しぶりー」


「久しぶり。ぐえ、苦しい」


「ごめんごめん」


 美波は笑いながら遥稀の頭を撫でた。3人集合したので移動を開始する。


 今日はお昼を食べつつ近況報告をしながら買い物をする予定だ。



 ショッピングモールのフードコートでそれぞれ注文してから待ち時間にお互いの近況について話し始める。まずは、美波から。


「へ?彼氏?」


「そうそう、同じクラスの子と付き合い始めたんだよね?」


「うん、お昼とかたまに一緒に食べたりするよ。おかず交換とかしたり」


「美波、料理得意だからか...バレンタインも毎年美味しいし」


「いや、遥稀も得意でしょ。毎年ケーキ美味しいし」


「私、お菓子しか作れないよ。それで、様子はどんな感じなの?なお」


「いや、私もクラス違うから教室内の様子はわからないよ?あ、でも廊下で仲良く歩いてるのは見るかな。それと、放課後部活終わりに美波のことを迎えに行ってるのは見たかな」


「おお...!」


「いや、なんの感嘆よ。そういうなおこそこの前呼び出されてるの見たけど?」


「そうなの?」


 照れた美波から話題を振られた。そして、遥稀が好奇心に満ち溢れた目で見てくる。


「なお、モテるもんね。さすが、小動物」


「いや、遥稀に言われたくないから。お断りしたし」


「そうなの?結構カッコいい先輩だったよね?」


「タイプじゃなかったの。からかい半分だったし」


 それに、あの先輩別のクラスメイトに告白してるの見たんだよね。他校に彼女がいるって噂もあったし。うん。やっぱり推しが1番だよね。家に帰ったらライブDVDを見直そう。


「そういう遥稀はどうなの?」


「え、何もないよ。うちのクラス女子が多いから男子と関わる機会少ないし」


「ああ、特別進学クラスの文系だっけ?」


「うん。文系科目、特に英語が多い」


「数人はいるんでしょ?どうなの?」


「むしろ数人しかいないからないよ。ほとんど話さないし、荷物とか運んだり黒板消したりするのも女の子が手伝ってくれる」


「あーじゃあ、他のクラスとか...?」


 美波が遥稀の恋愛事情を聞き出そうと必死になっている。


「授業で関わることもないし、部活も男子1人だからないかな」


「こ、好みのタイプとかは?そういえば、遥稀とはそんな話したことなかったよね?」


「好み...?」



 確かに、遥稀とは推しの話しかしたことがなかった。主に漫画とかゲームのだけど。一時期男性アイドルも見ていたから男子を毛嫌いしているとか興味が1ミリもないというわけではないと思うけど。


「最近ハマっているのはローマ皇帝の、」


「日本人でお願いします」


「日本人...。源義経...?いや、最近は真田幸村とか...」


「いや、だからなんで歴史人物なの?」


「知略に優れてカッコいい。特にローマ皇帝のプロブス帝はね、」


 あ、スイッチが入ってしまった。こうなると気が済むまで止まらないだろうなぁ。


 心の中で美波に合掌しつつ料理を取りに行く。まあ、2人のも鳴りそうだしもう少しの辛抱だ。うん。



「ん?」


 料理を受け取って席に戻る途中、遥稀と同じ制服の子を見かけた。女子3人に囲まれてハーレムだなぁと思いつつ横を通り過ぎる。視線の先にいるのは、遥稀。


 もしかして知り合い?いや、知り合いなら普通に声くらいかけるか。


 となると、気のせいか、遥稀に恨みがあるか...とか?そう考えて思い浮かんだことをかき消す。さすがにそれはないだろう。


 だけど...。警戒はしておいて損はないのかもしれない。


「なお?」


「あ、ううん。美波も受け取りに行ったの?」


「うん。なおはパスタ?」


「うん。遥稀は、オムライス?」


「うん。カレーと迷ったけど辛かったら食べれないから」


「遥稀はおこちゃまだね」


「いや、美波は私以上に辛いの苦手じゃん。カレー屋さんで甘みを足すくらいだし」


「最高レベルの甘さまでいったよ。美味しかった」


 そういう美波はドリアを注文したみたいだ。


 料理もそろったので手を合わせて挨拶をしてから食べ始める。うん、安定したおいしさ。



「この後どこから見て回る?行きたいところとかある?」


「私は雑貨屋さんかな。ものづくり用のパーツとか欲しいし」


「さすが手芸部。遥稀は?」


「本屋とCDショップ」


「オッケー私もCDショップは寄りたいかも。あとは、」


「あ、」


「ん?遥稀どうした?って、頬っぺたに付いてるでしょ」


「んぐ、ありがとうママ」


「誰がママじゃ。で?どうした?」


「2人にプレゼント選ぶの手伝ってほしい」


「プレゼント?」


 私と美波は2人して疑問符を浮かべる。私達の誕生日はだいぶ先。遥稀の家族の誕生日も終わっていたりまだ先だと言っていた気がする。


 となると、高校の友達?いや、でも今まで頼まれたことがない。ということはいったい誰の?



「もしかして、彼氏?」


「いないってば」


 美波の反応は早かった。そしてすぐに否定された。


「まいに渡すプレゼント」


「まい?まいって、中学の清水舞依さん?」


「そうだけど、なんでフルネームでさん付け?」


「え、いや、だって、え?」


「美波、動揺しすぎだよ。まいちゃんの誕生日プレゼント?」


「誕生日、うん、そんな感じ」


「仲がいいのは知ってたけど連絡取り合ってたの?」


「たまに...この前部活の練習で来てたみたいでその時に偶然会った。今度テスト前に会う約束してて...は、」


「今度はどうしたの?」


「まいに渡すってことは蒼にも何か考えた方が良い?」


「いや、何で蒼くんまで?」


「テスト前に会う約束した。勉強教えてもらう」


「な、なるほど?」



 あの2人、遥稀と仲良かったからなぁ...。特にまいちゃんの遥稀に対する過保護っぷりは凄かった。


 中学時代、放課後の教室で遥稀を抱きしめて頭を撫でていたのを見たことがある。遥稀も安心したようにまいちゃんに身を預けていた。


 そして、私は1度まいちゃんに怒られたことがある。「どうして友達なのに遥稀のことをきちんと見ていなかったの」、と


 言われた瞬間意味が分からなかった。だって、遥稀のことを無視したつもりも除け者にしたつもりもなかったから。


 でも、その日からまいちゃんの言っていた意味が段々とわかっていった。知っていたのに私はきっと見ないふりをしていたのだと思い知った。遥稀と最後に笑い合ったのは、移動教室に一緒に行ったのは、本の感想を語り合ったのはいつだったのか思いだせなくなっていた。


 心配して声を掛けても遥稀は口角を上げて「大丈夫」と言っていた。私は遥稀が「大丈夫」と言っていたから勝手に平気なのだと目を反らした。気を使っているのは明らかだったのに。


 そして、気がついた時には遥稀はあまり笑わなくなってて、遥稀の隣には蒼くんがいた。



「なお?」


「あ、ううん。何でもないよ。でも、プレゼントってどういうのが買いたいの?」


「女の子が喜びそうなもの?」


「フワフワしてるなぁ。まあ、雑貨屋で色々と見てみようか」


 美波がそう言うと遥稀は嬉しそうに頷いた。


 私はその表情に安堵する。


 当時は少しだけ悔しかった。遥稀と1番仲がよくて通じ合っていると思っていたのに結局遥稀のことを1番見ていたのは違うクラスのまいちゃんで遥稀が助けを求めたのはまいちゃんだった。そして、できる限りの範囲で守ろうとしたのは蒼くん。まあ、蒼くんはまいちゃんとは別の意味で特別な感情を持っていたのかもしれないけれど。


 それでも悔しかった。


 傷ついている友達に気を使わせて辛い思いをさせたことが。自分の視野の狭さが。いろんなことを教えてくれた遥稀に対して私は何も返せていなかったことが。嫌われても仕方ないのに遥稀はまた私に笑いかけてくれた。


「なお、なお、こんなのはどうかな?」


「いや、それ遥稀が欲しいものでしょ」


「た、確かに...なおはどういうの貰ったら嬉しい?」


「そうだなぁ...私なら...」



 雑貨屋でいくつかの候補を見繕って提案してみる。それを見て遥稀は嬉しそうに笑った。美波も楽しそうに笑った。


「それじゃあ、まいのはこれにする」


 これはまいちゃんへの恩返しであり宣戦布告だ。気づかせてくれたことのお礼と、1番仲がいいのは私と美波だという。


 まあ、まいちゃんが気づくことも気にすることもないと思うけど。私は陽だまりのような2人の笑顔を見ながらそう心でつぶやいた。


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