第11話 五月初旬の夜のこと⑤

「な、な、な、何が起きたー!」


 再起動したキャシーが雄叫びを上げた。


「手に入らないなら、この世にいらん」


「どういう理屈だーっ!」


 シャンデリアを押しのけてキャプテン・サンジェルマンが立ち上がる。


「あああああーっ!」


 言葉にならない声を上げ、グレーテルが氷の槍を飛ばしてくる。


 はて、二人の切れっぷりはどういうことだ?

 そんなにアレが欲しかったのか?


 とりあえず、やるべき事はやったので後は撤退あるのみ……だが、二人相手はちょっと面倒だな。


 あと、階段下から『レッドカラーズ』たちが回収したジャスミン嬢を、こっそり逃がす時間も必要かも。


 実はさっきの炎は、僕の『スキル』じゃない。

 印をつけたジャスミン嬢の立ち位置の周囲に、炎の柱が立つように仕掛けた装置による物だ。


 豪快な炎に見えて、ちゃんとジャスミン嬢を避けている。


 更に炎が立ち上がるタイミングで床が抜けて彼女は下に落ちているので安全なはず。


 しかもジャスミン嬢本人の『スキル』である『風』で体の周囲を守ったし、落下速度もコントロール出来ただろう。

 練習したしね。


 問題が無かったという連絡も、レッド・ワンから受けている。


 ただし、最後の爆発だけは僕の『スキル』で、仕掛けがバレないように階段ごと全部吹き飛ばしてしまった……というのが真相だ。


 そんな事を落ち着いて考えている僕を置いていくように、グレーテルとサンジェルマンが向かってくる。


「なんと!ジャスミン様諸共『乙女の涙』を葬り去ったカーマインに、グレーテルとキャプテン・サンジェルマンが襲いかかる!」


 キャシーの解説も復活だ。


「二人を突き動かすのは『乙女の涙』を焼失した怒りか?悲しみか?」


「よくもジャスミン様を!」


 グレーテルが叫びながら、氷の滑り台を作る。


「なんと、その怒りは宝石ではなく、令嬢の焼失のほうだ!」


「当たり前だ!」


 その滑り台にサンジェルマンが飛び乗り、猛スピードでやって来た。


「『突風』!」


 僕に向けられたサンジェルマンのスキルに対して、僕は軽くジャンプする。

 巻き起こる突風に、僕はグレーテルがいる方向へ飛ばされた。

 

 それはキャプテン・サンジェルマンによる計算。

 でも、僕の『計算』を上回ることはない。


 グレーテルはと言えば、氷の剣を構えて待ち構えている。


 二人は僕がなすすべも無く吹き飛ばされたと思ってるんだろうけど、僕の『計算』は甘くないよ。


 僕は、この会場に入るときに、最初に投げて空中に固定しておいたダガーを掴む。


 空中で突然止まったんだから、皆何が起きたかったわからないだろうね。

 なので、


「紅の魔術師の名は、伊達ではないのだよ」


 と、グレーテルに言う。


 ダガーの『固定』を解除すると、たまりに貯まった運動エネルギーが解放され、もの凄い勢いでダガーが突き進んだ。

 捕まっている僕諸共。


 いくつかは壁を破壊し、窓を割り、僕の行く手を切り開いた。


「カーマイン!!!」

 グレーテルの声が聞こえた。


 なんだか、何処かで聞いた声だな。

 なんて思いながら、僕は夜空を突き進んで行った。


 そして十数分後


 まあ、そうは言ってもダガーの力なんてたかがしれている物。

 あっという間に墜落したので、僕はスーツを真っ黒に変えて夜の闇に紛れた。


 その後は『レッドカラーズ』が用意した服に着替えながら、迎賓館にカムバック。


 トイレから帰った振りをして会場に戻ると、まー大変だった。


 室内はボロボロ。

 わめき散らす第三王子。

 侯爵夫妻は奥様がショックで倒れた(嘘・こっそりVサイン)ため、別室に移動していた。



 他にもご婦人方の数人が、焼き殺され(ていない)るジャスミン嬢の姿にショックを受けて、倒れたらしい。


キャプテン・サンジェルマン達の姿は無い。


 警備隊が動き回っているけど、あっさり逃がしたのかな?


ボケッとしていると、キャシーがやって来た。


「スミマセン!今回の事件について、コメントをいただけますでしょうか」


 と質問してきたので、僕は頭を掻きながら答えた。


「あの~、トイレに行ってたんですけど、何かありました?」


問。いやはや、これで一件落着だよね!

解。本気でそう思ってます?

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