バンディット・ナイト~抜け出せない賞金首バトル!~

猫之

第一章・令嬢大爆破!

第1話 六月下旬の朝のこと①

「空がたけーなー」


 首が痛くなるほど上を見れば、王都の空は青く、高く広がっていた。

 歩道の横に並ぶ建物は最大でも三階建て。

 そりゃ大都会東京に比べりゃ広いわな。


 ってかここは日本じゃないし、地球ですら無い。

 僕は高校生ではなく、成人した社会人だった筈だ。

 なんでこんなことになったのやら……。原因なんてサッパリだ。


 もしも元の世界で死んだなら、死因さえわからない。

 まあ、わからないってことは突然死……過労死あたりが妥当かと思う。


 前世の記憶が戻った?のは7歳の時。前触れもなく記憶の洪水が僕を襲った。


 頭痛と目眩でぶっ倒れてまる二日間。

 そこそこの男爵家の男子とはいえ、三男程度となると家族の対応も冷たく、放っておかれて自力で復活……まあ、病気じゃないんだから大丈夫だったんだけどね。


 それからはもう記憶の擦り合わせとか大変だったわ。

 もう全部過去だからいいけど。


 そして今は六月後半。領地を出て春から通っている王都のセラデゥーナ学園への通学路。

 ガラスに映った自分を見れば、学校指定の制服に包まれた冴えない薄い茶髪の男。

 その名もカイル・アルマンド。十五歳。


 転生したからって黒髪とはならんのだよな、これが。


 顔はまあ整ってると思うよ。

 嫌いじゃない。


 なお、制服は紺のブレザーとスラックスに白いシャツ。

 そろそろ衣替えになろうかと思うけど、東京ほどは暑くないからもう少し先かな。


 しばらく歩けば見えてくるポリスボックス。

 王都は何かと物騒だからね。けっこうあちこちにある。


 で、そのおかげで男爵の三男とはいえ、一応貴族の僕が徒歩通学しても安心というのもある。


 そして、ポリスボックスの外に貼られた人相書きの数々を前に足を止めた。


 ここは、生前プレイしていた『バンディット・ナイト』というゲームで描かれた世界。

 科学が発達した中世みたいな感じかな。

 スチームパンクとは違うけど、イメージは近いかも。


 未だに馬車も走っているけど、交通手段はかつての感覚ではクラシックカーだったり、テレビや電話もある。


 西洋風なんだけど、バスタブが普通にあったりするのは、日本のゲームが下地になってるからなのか?

 風呂好きだからいいけど。


 この『バンディット・ナイト』というゲームは、盗みを働いたり時折起こる強奪イベント等で競い合い、自分にかけられた懸賞金総額を上げていくというものだ。


 しかし、考えてみてほしい。

 そんな世界に転生したからって、わざわざ危険なことしてイベントに参加して賞金首にならなくても、平穏に暮らせばいいのでは?と。


 わざわざ自分から犯罪者になる必要は無いよね。


 それが僕の持論である。


 ゲームの世界に転生したということと、ゲームに参加しなくてはいけないということは、イコールではない筈だから。

 筈なんだよ!

 多分?


「だいたいなんだよ。この真っ赤っか野郎」

 と、現在懸賞金一位の男の人相書きを睨み見る。


 フード付きの真っ赤なコートに真っ赤なスラックス。

 真っ赤なブーツ。

 真っ赤な仮面。

 その全てを飾る黄色のライン。

 目立ちすぎにも程がある。

 しかも名前が『カーマイン』!


 赤が好きでもやり過ぎだ!

 おまけに懸賞金額二億五千万エーンもやり過ぎだ!

 断トツ過ぎるだろ!

 二位は三千二百万エーンだぞ!


 ちなみに通貨はエーンだ。

 一説では、被害者の悲鳴らしい……。


「しっかしコレ、強盗や悪事を働く格好じゃ無いだろう」


「でも、私は格好いいと思いますよ」


 という美しい声に振り返れば、そこにいたのは長い黒髪の美しい我が家のメイドさん。


 えっ、黒髪だから東の国の?なんて思われたお客さん。

 いやいやヨーロッパの白人さんにとっては、周りに結構黒髪の国があったように、ここでもそんなに珍しくはないんですよ。


 我が家は王都にタウンハウスを持たないため、僕はアパートを借りて暮らしているんだけど、男一人じゃ生活もままならないだろうと、領地から一緒にやって来たおばさんメイド……にご帰宅いただき、先月から新たに僕が雇ったのが、同い年のこの美少女である。


 決して邪な理由じゃないよ。

 むしろ押しつけられたと言っても過言ではない筈だ。

 多分……。


「あれ? どうしたのマリカ。今日は用事があるって言ってたよね」


 と訊ねれば、可愛いい両手で茶色い物体を差し出してきた。


「用事は済みましたので、追いかけて参りました。

 ついでに学園に行こうというのに、鞄を忘れたおっちょこちょいの旦那様にお届け物です」


「あ……。これはね、鞄はついでなんだ。

 でもあれ?なんで持ってなかったんだろ。……って旦那様じゃなくて、せいぜいご主人様だろーに」


「いえいえ、ほぼ確定的に旦那様です♪」


 キレイな蒼い瞳で僕を下からのぞくマリカ。


「……何なんだよ、ホント」


 ため息をつきながら笑顔のメイドから鞄を受けとると、僕は学園に向かって歩き出す。

 メイドはと言えば、隣にピタリとくっついていた。


 外堀が埋まるって、こういう感覚なんだね~と、他人事。


問。なんでこうなったんだろーね!

解。自業自得ですね。

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