2 サイトウの話

 これは私の友人から聞いた話です。


 その友人を仮にサイトウとしましょう。サイトウは転勤族の家に生まれたので、数年おきに転校を繰り返しており様々な土地に縁がありました。


 転勤族の子供は根無し草になって不安定だ、という話もありますが彼女はそうではありませんでした。引っ越したらその土地のことをよく知り学び、「これで全国に友達がたくさんいるんだから人より多く得をしている」という変わった哲学を語っていました。


 サイトウと私は中学2年生のとき、同級生でした。やたらと明るく、持ち前の器用さで彼女はとても人気がありました。いろんな土地を転々としているということで独特の方言で話すところも、彼女の魅力でした。


「じゃあうちからな。おひな様は埋めたらあかんねん」


 それは宿泊訓練の夜のことでした。誰かが「怖い話をしよう」と提案したところ、真っ先に彼女が語り始めました。


「これはうちのばあちゃんから聞いた話なんねんけどな、ばあちゃんのイトコの友達にサキちゃん言うかわいい女の子がおったんやと。でもサキちゃんは自分がかわいいのよくわかってるから、男にぶりっ子しいで女からは嫌われておったんやと」


 独特の彼女の語りに、皆が耳を澄ませました。


「ほんで、サキちゃんが小学校を卒業する直前に、サキちゃんのお母さんが蒸発してしもうたんや。なんや男作ってどっかに行ったって、みんなでひそひそしよるもんだからサキちゃん怒ってな、お母ちゃんからもらったもんなんか全部いらん、って庭に穴掘って思い出の品を埋めよったん」


「特にサキちゃんも大事にしていたおひな様なんか、首を折ってバキバキにしてから埋めたって言う話や。お父さんはろくに働かないで昼間っから酒ばっかり飲んでたから、嫁さんに逃げられてバチが当たったんやーなんて言われて、そこからサキちゃんは村でシカトされるようなったんやと」


「そんでサキちゃん、悪い仲間とつるむようになってな。家には帰らんし勉強もろくにせん。学校にも来ないようになった。でもだあれも気にせんかった。大人も子供もみーんなサキちゃんが嫌いやったんや。そしたらな、本当にサキちゃんがいなくなってもうた」


「さあ大変って流石に村中大騒ぎでサキちゃんを探しよった。でも出てこん。身を投げたかって川までさらっての大騒ぎや。それなのに出てこん。みんな諦めたとき、町の警察から『サキちゃんを殺した』いう犯人が自供したって連絡が入った」


「サキちゃんな、悪い連中に妊娠させられてん。そんで、赤ん坊を生むのが面倒くさい連中に『俺たちが堕ろしたるで』って随分酷いことされよってな。そんでサキちゃんが死んだからみんなで怖くなって山ん中に埋めたって」


「そんでな、流石に土の中は可哀想やからってすぐに掘り起こしてやったんやと。そうしたら首がポッキリ折れたサキちゃんが見つかったんやて。まるでサキちゃんが埋めたおひな様みたいやったって」


 身も凍るような話に皆が静まりかえっていると、サイトウは最後に付け足しました。


「せやからな、おひな様は埋めたらあかんねん。ちゃんと感謝して供養してから流すなり燃やすなりせんと、おひな様の怨念がその人に返ってくるねんってばあちゃんがおひな様見る度に語るもんやから、もう怖くて怖くて。うちおひな様見るの怖いねん……ほな、次の怖い話誰がするんや?」


 その後は「サイトウちゃんのが一番怖い話でいいよ」ということにして、私たちは就寝しました。後にサイトウは「うちが怖すぎて悪かったなあ、前の学校で聞いた花子さんとかにしとればよかった」と舌を出して反省していました。


 それからサイトウは中学を卒業する前にまた転校し、今はどうしているかはわかりません。それでも、私はこの話がずっと心に残っていました。


 おひな様は埋めたらいけない。


 これから先にはお話するのは、その迷信を検証した一部始終です。

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