スリムな彼女に花束を
藤堂こゆ
「貧乳で悪かったわね!」
「やっぱ胸はデカい方がいいよな」
親友の寛太が突然そう言った。
時は放課後。場所は教室。高校生の俺たちは何となく帰るのがだるくて、だらだらと二人でだべっている。
「は?」
俺は一瞬、こいつが何の話を始めたのかわからなかった。
ついさっきまで、俺たちは老害教師の陰口を叩きながら志望大学とカラオケの話をしていたはずだ。
そこからどうしたら「胸」になるんだ?
胸って、あの胸か?
「それって巨乳が好きってこと?」
とりあえず事実確認が必要だ。
「そう。お前もそう思わねえ?」
神妙に細めた目を向けてくる寛太。
「そりゃあ、まあ、……」
まずい。
ここで奴の意見に賛同すれば、俺は嘘をつくことになる。
実は俺は、むしろ慎ましやかな胸の方が好きなのだ。触ったことないけど。
「そうか、お前は貧乳派か」
速攻でバレた。
にやにや、いや、ニタニタと笑顔を浮かべる寛太。
もう逃げ道はない。
「『貧』って言うなよ」
ここは自然な流れで会話に持っていこう。どうせ幼馴染だ。隠し立てすることは何もない。そもそもあんな話やこんな話も今までにもうしているんだから、今さらだ。
「じゃ何て言うんだ?」
いいぞ、乗ってきた。
「うーん、『スリム』?」
「スリム?」
一瞬きょとんとしてから、からからと笑う寛太。
「何がおかしいんだよ」
俺は思わずむっとした声を出す。
と。
ドサッ
背後で何かが落ちる音がした。
まずい。
この会話を誰かに、特に女子に聞かれたら。
俺と向かい合うように座っている寛太は笑顔を貼りつけたまま俺越しにそれを見ている。
俺はそろそろと振り返る。
わなわなと手を震わせて立っていたのは、クラスメイトの篠宮だった。
話の流れのまま胸元に行きそうになる目を抑え込む。
「……いつから聞いてた?」
問う俺の声は掠れている。
「貧乳で悪かったわね!」
彼女は赤く染まった顔でそう叫ぶと、落とし物も拾わずに廊下へ駆け去ってしまった。
「あー」
寛太の視線は完全に俺に向けられている。
「お前タイプだろ」
「は?」
「だって篠宮貧にゅ」「それ以上言うな!」
はあぁーー…………。
「でもわざわざこのタイミングで入ってくるってことはさあ。少しは気があるってことじゃないか?」
「なんでそうなるんだ。そもそも篠宮はお前しか見てなかったぞ」
「だからこそだよ」
意味わかんねえ。こいつ恋愛コンサルタントか何かかよ。
「とりあえず追いかけてこい。『お嬢さんお待ちなさい、ちょっと落とし物』ってさ」
すっと篠宮の落とし物を指さす寛太。同時に俺の脳内には『森のくまさん』が流れ出す。どうしてくれるんだ。
見ると、落ちているのは体育着の袋だった。
おいおい……よりによって触りづらいやつじゃないか。
「お前は?」
ため息をつきながら寛太を振り向く。
しかしそこに寛太はいなかった。
「面倒だから帰る」
声だけが残っていて、教室の中に人の姿は見えない。
奴は風のように帰ってしまったらしい。ときどきこういうことがあるのだ。
俺はもう一つため息をつくと袋をそっと拾い上げ、教室の出口へ向かった。
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