第19話「新しい年」


クリスマスが過ぎ、冬休みも終わりに近づいていた。新年を迎え、三学期の始業式を明日に控えた一月の夕方。私は窓辺に座り、星奈からもらったブレスレットを手首で光らせていた。


冬休みは充実していた。クリスマスイブの両家への挨拶は緊張したものの、温かく受け入れてもらえた。星奈の両親は「ようやく公式になったね」と冗談めかして言い、私の両親も自然な笑顔で二人の関係を祝福してくれた。年末年始は一緒に初詣に行き、おせち料理を交換し合う家族ぐるみの付き合いも続いていた。


「陽花、明日から学校だね」


LINEに星奈からのメッセージが届いた。私たちは冬休み中もほぼ毎日連絡を取り合い、何度か会っていた。でも、学校という日常に戻ることは少し違う感覚だった。


「うん、楽しみ半分、憂鬱半分」


正直な気持ちを返信する。もう一度クラスメイトに会えるのは嬉しいけれど、休み明けの授業や、増える課題に少し気が重い。


「わかる!でも、また毎日会えるじゃん♪」


星奈らしい前向きな言葉に、自然と笑顔がこぼれる。確かに、また毎日会えるのは嬉しい。


「そうだね。それが一番嬉しい」


画面の向こうの星奈の笑顔が見えるようだった。


「ね、明日はいつもの時間に待ち合わせでいい?」


「うん、いつも通りで」


「楽しみにしてる!おやすみなさい☆」


「おやすみ」


スマホを置き、窓の外を見る。空はすっかり暗くなり、街の灯りが瞬いている。新しい年、新しい学期。私と星奈の関係も、また一歩進むのだろうか。


翌朝、いつもの待ち合わせ場所に行くと、星奈がすでに待っていた。冬服の制服に真っ赤なマフラーを巻いて、寒さに頬を赤らめている姿が愛らしい。


「星奈、おはよう」


「陽花!おはよう」


星奈は満面の笑顔で手を振った。私たちは並んで歩き始める。


「冬休み、あっという間だったね」星奈が言った。


「うん、本当に」


「でも、充実してた」彼女は少し照れながら続けた。「陽花と過ごせて、すごく幸せだった」


その言葉に、心が温かくなる。「私も」


学校への道すがら、私たちは冬休みの思い出や、新学期の抱負を話した。星奈は陸上部の目標について熱く語り、私は図書委員会の新しい企画について話す。お互いの夢や目標を共有することが、自然と日常になっていた。


校門が見えてくると、少し緊張する。冬休み前、私たちは付き合っていることをクラスの数人には話していたが、全員に公表はしていなかった。学校ではほとんど以前と変わらない態度を取ることに決めていた。


「そういえば」星奈が校門の前で立ち止まった。「三学期って、もう進路のことも考え始める時期だよね」


その言葉に、少し考え込む。確かに二年生の三学期は、進路選択が本格的に始まる時期だ。


「そうだね...」


「陽花はどんな進路考えてるの?」星奈が真剣な表情で聞いてきた。


「まだ具体的には決めてないけど...」言いながら考える。「やっぱり大学に行きたいかな。文学か教育系が良いと思ってる」


星奈は優しく微笑んだ。「陽花らしいね。私も大学志望だよ。できれば...」


彼女は少し言いよどんだ。


「できれば?」


「できれば、陽花と同じ大学に行けたらいいなって」星奈は真っ直ぐな眼差しで言った。「変かな?」


その言葉に、胸がきゅっと締め付けられる。同じ大学。まだ二年先の話だけど、星奈がそんな風に考えてくれていることが嬉しかった。


「全然変じゃないよ」心からそう思った。「私も...一緒にいられたら嬉しい」


星奈の顔が明るくなった。「そっか、よかった。じゃあ、一緒に頑張ろうね」


彼女が自然に私の手を握る。寒い朝だったが、その温もりが心まで温めてくれた。


「おはよう!佐倉さん、望月さん」


後ろから声がして振り返ると、田中さんが笑顔で近づいてきた。私たちは慌てて手を離す。


「おはよう、田中さん」


「おはよう!」


田中さんは二人の様子を見て、意味ありげに微笑んだ。「冬休み、楽しかった?」


「うん、とても」星奈が答えた。「田中さんは?」


「私も充実してたよ。茶道の稽古、頑張ってた」田中さんはそう言って、私たちに寄り添うように歩き始めた。「二人はクリスマス、どう過ごしたの?」


その質問に、思わず顔が熱くなる。田中さんは私たちの関係を知っている数少ないクラスメイトの一人だ。


「まあ...いろいろと」星奈が少し照れながら答えた。


「素敵ね」田中さんは嬉しそうに言った。「二人とも幸せそうで良かった」


田中さんの言葉に、心から感謝する。彼女の温かい理解と応援が、私たちの支えになっていた。


教室に入ると、クラスメイトたちが久しぶりの再会を喜び合っていた。冬休みの話で盛り上がる声や笑い声が響く中、私たちも自然と輪の中に入っていった。


「望月、冬休み何してた?」クラスメイトの質問に、星奈は陸上の練習や家族旅行のことを話し始めた。


「佐倉さんは?」別の子が私に聞いてきた。


「特に...本を読んだり、家族と過ごしたり」


全てを話すわけにはいかなかったが、嘘をついているわけでもない。ただ、最も大切な時間―星奈と過ごした時間―については、心の中にそっと仕舞っておいた。


始業式が始まり、校長先生の話や担任の挨拶が続いた。三学期の目標や、進路について考え始める大切な時期だという話。私は時々、前の席の星奈の後ろ姿を見ていた。彼女の背中が頼もしく、そして愛おしく感じられた。


放課後、私は図書委員会の初会議のために図書室へ向かった。星奈は陸上部の練習があるという。


「じゃあ、終わったら連絡するね」星奈が廊下で言った。「送るよ」


「ありがとう」


少し遠慮がちに別れを告げる。学校という場所では、まだどこか遠慮があった。


図書室では、森川先輩が優しく迎えてくれた。「佐倉さん、冬休みはどうだった?」


「はい、充実していました」


「そう」先輩は意味ありげに微笑んだ。「幸せそうな顔してるわね」


先輩の言葉に、少し恥ずかしくなる。そんなに分かりやすいのだろうか。


「実は...」少し勇気を出して言った。「クリスマスに、ちゃんと気持ちを伝えられたんです」


先輩は優しく頷いた。「それは素晴らしいわ。よかったね」


「先輩のアドバイスのおかげです」心から感謝を伝える。


「いいえ、佐倉さん自身の勇気よ」先輩は優しく微笑んだ。「大切にね、その関係」


「はい」


会議が始まり、三学期の図書室の企画について話し合った。私も積極的に意見を出す。以前より少し自信がついたように感じる。星奈との関係が、私自身も変えてくれているのかもしれない。


会議が終わり、校舎から出ると、空はすでに暗くなっていた。一月の日は短い。校門の近くに星奈の姿を見つけた。彼女は練習を終え、私を待っていたのだ。


「お疲れ様」星奈が手を振った。「寒くない?」


「うん、大丈夫」


並んで歩き始める二人。星奈は陸上部での出来事を楽しそうに話し、私は図書委員会の新企画について話した。日常の会話。でも、その一つ一つが特別に感じられた。


「ねえ、陽花」星奈が空を見上げた。「新しい年だね」


「うん」


「去年の今頃は、まだ言い出せなかった気持ちを抱えてたよね」彼女は少し感慨深げに言った。「それが今は...」


言葉は途切れたが、意味は伝わった。今は二人で歩いている。互いの気持ちを知り、共有している。


「不思議だね」私も言葉を続けた。「こんなにも変わるなんて」


「でも、変わってないこともあるよ」星奈はブレスレットに手を当てた。「ずっと一緒にいたいという願い」


その言葉に、心が温かくなる。確かに、願いは変わっていない。ただ、その形が少しずつ変わっているだけだ。


「そうだね」


人気の少ない道で、星奈がそっと私の手を握った。冷たい空気の中、その温もりがとても大切に感じられた。


「新しい年も、よろしくね」彼女が優しく言った。


「うん、こちらこそ」


手を握り合ったまま、私たちは静かに歩き続けた。新しい年、新しい学期。そして、これからも続いていく私たちの物語。

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