第17話「クリスマスの約束」
秋が深まり、いつの間にか十二月に入っていた。星奈と付き合い始めてから約二ヶ月。初デートの緊張や戸惑いを乗り越え、少しずつ恋人らしい関係を築いてきた。学校では以前とほとんど変わらない友達のように接しているが、放課後や休日には二人きりの時間を大切にしている。
「ねえ、陽花」
放課後の教室で、星奈が私の机に寄ってきた。周りのクラスメイトはすでに帰り支度を始めている。
「なに?」
「クリスマスの予定、考えた?」
その質問に、心臓が少し早く鼓動する。クリスマス。恋人同士にとって特別な日。正直なところ、私は何度も考えていたが、具体的な計画は立てられていなかった。
「まだ、具体的には...」
「そっか」星奈は少し残念そうな表情を見せたが、すぐに明るい声で続けた。「実は、私も考えてたんだ。もし陽花が予定ないなら、一緒に過ごしたいな」
「もちろん、予定ないよ」
すぐに答える私。星奈の表情が明るくなった。
「よかった!じゃあ、クリスマスイブ、空けておいてね」
「うん」
嬉しさと期待で胸がいっぱいになる。初めてのクリスマス。二人だけの特別な日。
下校時間、いつものように一緒に帰る道すがら、星奈はクリスマスのアイデアを楽しそうに話していた。イルミネーションの綺麗なスポット、人気のレストラン、プレゼント交換。
「でも、あんまり混んでるところは避けたいかな」星奈が言った。「二人でゆっくり過ごしたいし」
「そうだね」
星奈の気遣いに、胸が温かくなる。私も人混みは苦手だった。彼女は常に私のことを考えてくれる。
「あ、そうだ」星奈が突然立ち止まった。「クリスマスプレゼント、何がほしい?」
その質問に、少し困る。何かをねだるのは得意ではなかった。
「特に...何でも嬉しいよ」
「もう、それじゃ困るな」星奈は少し頬を膨らませた。「ヒントくらい欲しいよ」
「じゃあ...星奈が選んでくれたものなら、何でも」
素直な気持ちを伝える。星奈はそれを聞いて、少し赤くなった。
「わかった。考えとくね」彼女は少し照れながら言った。「私は、陽花からならなんでも嬉しいよ」
同じ言葉を返されて、思わず顔が熱くなる。こんな何気ない会話でも、心が躍る。恋をしている実感が、ここにあった。
その日の夜、私はクリスマスプレゼントについて真剣に考えていた。星奈にぴったりのもの。特別な日にふさわしいもの。予算内で買えるもの。様々な条件を考慮しながら、インターネットで検索する。
「何を調べてるの?」
背後から母の声がして、私は慌ててパソコンの画面を閉じた。
「あ、なんでもない」
「ふーん」母は意味ありげに微笑んだ。「クリスマスプレゼント探してるの?」
鋭い。顔が熱くなるのを感じる。
「まあね...」
「誰かに贈るの?」母の視線が意味深だった。「もしかして...星奈ちゃん?」
その名前に、さらに顔が赤くなる。私と星奈の関係は家族には言っていなかったが、母は何か気づいていたのだろうか。
「え、どうして...」
「最近、星奈ちゃんの話をする時の表情が違うのよ」母は優しく言った。「それに、休日に出かける回数も増えたし」
観察力の鋭い母。隠し事をするのは難しい。
「そうだよ...星奈に」小さな声で認める私。
母は嬉しそうに微笑んだ。「そう。素敵なプレゼントを選ぶといいわね」
特に驚いた様子も、とがめる様子もない。ただ温かく受け止めてくれる母の態度に、ほっとする。
「ありがとう」
「もし相談に乗ってほしかったら、言ってね」
そう言って、母は部屋を出ていった。彼女の理解に、心から感謝する。
翌日の放課後、図書委員会の活動を終えて廊下を歩いていると、陸上部の練習を終えた星奈が駆け寄ってきた。
「陽花、待った?」
「ううん、今終わったところ」
「そっか、良かった」星奈は少し息を切らしていた。「あのさ、クリスマスの日、お家に挨拶に行ってもいい?」
その提案に、少し驚く。
「お家?」
「うん」星奈は真剣な表情で言った。「ちゃんと挨拶しておきたくて。『娘さんと付き合わせてください』って」
その言葉に、胸が熱くなる。星奈の真摯な姿勢。恋人として私を大切に思ってくれている証拠だ。
「でも、うちの両親、もう知ってると思うよ」正直に言う私。「特に母は」
「そうなんだ...」星奈は少し驚いたようだった。「怒ってない?」
「ううん、むしろ応援してくれてる感じ」
「よかった」星奈はほっとした様子で言った。「でも、やっぱり正式に挨拶したいな。私の気持ちとして」
「わかった」頷く私。「うちの両親も喜ぶと思う」
「それと...」星奈は少し恥ずかしそうに続けた。「私の家にも来てほしいんだ。両親に紹介したいって言ったら、すごく楽しみにしてるんだ」
星奈の家族は私のことをよく知っている。幼い頃から何度も遊びに行っていたから。でも、今回は違う。友達ではなく、星奈の恋人として。
「緊張するけど...行くよ」
「ありがとう」星奈は嬉しそうに微笑んだ。「じゃあ、クリスマスイブの予定はこれで決まりだね。午後から夜まで二人で過ごして、夜は私の家で夕食、その後であなたの家に行く」
具体的な計画に、現実味が増してくる。クリスマスイブ。星奈と過ごす特別な一日。両家への挨拶。全てが初めての経験だ。
「クリスマスプレゼント、何にするか決めた?」星奈が質問を変えた。
「まだ...考え中」
「私もまだなんだ」星奈は笑った。「でも、絶対に陽花が喜ぶものを見つけるよ」
「私も」
そう言いながらも、何を贈るべきか迷いは深まっていた。価値の問題ではなく、気持ちを形にしたい。この二ヶ月間の感謝と愛情を伝えられるもの。
週末、一人で街に出かけた私。クリスマスムードが漂う商店街を歩きながら、プレゼントを探す。どの店の前でも立ち止まり、「星奈が喜ぶだろうか」と考える。服、アクセサリー、本、雑貨...様々な選択肢の中で迷っていた。
小さなギャラリーの前で足を止めた。ウィンドウには繊細なガラス細工が飾られている。光を受けて虹色に輝く小さな星の置物。それを見た瞬間、「これだ」と思った。
星奈の名前の「星」。私がプレゼントしたペンダントの形。そして何より、彼女の明るく輝く性格を表すかのような美しさ。
迷わず店に入り、その星の置物を手に取る。手のひらサイズで、光の加減で七色に輝く。店員さんの説明によると、一つ一つ手作りだという。世界に一つだけのもの。それもまた、私の気持ちにぴったりだった。
「これを包んでください」
決断して、レジに向かう。価格は予算内だが、決して安くはない。でも、星奈のためなら惜しくなかった。
「大切な方へのプレゼントですか?」
店員さんが優しく尋ねた。
「はい」
照れながらも、素直に答える私。
「素敵なお品です。きっと喜ばれますよ」
丁寧に包装してもらい、小さな紙袋に入れてもらった。これで準備は整った。あとは当日を待つだけ。
家に帰る途中、空を見上げると、早くも夕暮れが始まっていた。十二月の日は短い。街のイルミネーションが少しずつ灯り始め、クリスマスの近さを実感させる。
スマホが鳴り、画面を見ると星奈からのメッセージだった。
『プレゼント、見つかった?私はまだ迷い中...でも必ず素敵なものを贈るね!』
その言葉に、心が温かくなる。
『見つかったよ。星奈が喜んでくれるといいな』
返信を送りながら、鞄の中のプレゼントを確認する。小さな紙袋の中に、私の気持ちが詰まっている。
クリスマスまであと一週間あまり。あのガラスの星が、星奈の手元で輝く日を想像すると、胸がときめいた。
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