田中佐藤

出井啓

ひなまつり編

 ここは、とある大学内の図書館裏のベンチ。二人の大学生が座っている。


「ひなまつりって不公平やと思うねん」


 右手にサンドウィッチを持っている男が話しかけた。いちごオ・レのパックを手にもっている男は冷静に返事をする。


「また急やな。ひなまつりが不公平ってなんなん?」


「一月一日は何の日や?」


「だからなんやねんそれ。急すぎるやろ」


「とりあえず言うてみいや。一月一日は?」


「……正月やろ」


「五月五日は?」


「こどもの日」


「七が――」


「七夕やろ。それがどうしてん」


「男の子のための日がないやん。不公平ちゃうか?」


「五月五日があるやん」


「五月五日はこどもの日や。男女関係なくこどもの日になってるやろ」


「ちゃうやん。端午の節句っていうやろ?」


「それは知ってんねん。でも、今こどもの日って言うたやろ」


「一緒やん」


「ちゃう、全然ちゃう。俺は調べてん。ひなまつりは女の子を祝う日やって決まってんのに、なんで五月五日はこどもの日やねんって」


「端午の節句でもあるけどな」


「知ってるか? こどもの日はな、こどもの人格を重んじ、こどもの幸福をはかるとともに母に感謝する日、なんやぞ。こどもと母。そもそも男の子要素なんてなかったんや」


「端午の節句でもあるけどな」


「何回言うねん。それも良くないで。端午の節句はひなまつりみたいに特別な名前もつけられてへんってことやん。しかも、こどもの日に上書きされて、その上に母まで登場してくるやん。男の子を祝う日はどこいってん。ひなまつりがあるんやったら将軍まつりがあるべきやろ」


「なんで将軍やねん」


「殿でも元帥でもなんでもええねん。名前からしてないがしろにされてるんや。しかも、ご飯のレベルまでちゃうんやぞ。ひなまつりに食べるもんめっちゃあるやん」


「そんなにあるか? まぁちらし寿司と蛤のお吸い物は定番やろな。あとは菱餅?」


「雛あられも甘酒も桜餅も定番やろ」


「桜餅は後から付け足されただけちゃうか?」


「それでもスーパーに行ったらひなまつりの定番ですって顔してるやん。しかも最近は苺まで入り込もうとしてるんやで。なんやねんそれ。五月五日はちまきと柏餅だけやぞ」


「タケノコもあんで」


「だから何やねん。タケノコにこのパワーバランスを崩す力あるわけないやろ。主食に汁物、酒に豊富なデザートまである強敵やぞ」


「敵ではないやろ」


「ここまできたら敵や。こんだけ格差があるんやで。苺まで入ったらもう完全に無理や。ぐーんていかれてまうわ」


「苺そんなに強いか?」


「めっちゃ強いに決まってるやろ。苺やぞ。こんなん不公平すぎるわ」


「まぁでも、結局五月五日は男の子を祝ってるやん」


「こどもの日やから女の子も祝ってるやろ」


「じゃあ、こどもの日って何で祝ってる?」


「だから、ちまきと柏餅やん」


「それ、端午の節句の祝いやで。こどもの日のお祝いは?」


「それは……なんやろ」


「思い付かんやろ? 母親に感謝はしてるか?」


「それはまぁ……知らんかったし」


「ほら。結局こどもの日のことは何もしてへんやん。五月五日はこどもの日の皮をかぶった端午の節句や。でも、こどもの日が重なってくることで祝日になんねんで。絶対に休みや。ひなまつりはちゃうやろ?」


「そうやな……祝日は強すぎるやん」


「不公平ちゃうか?」


「祝日が不公平やって言われたらまぁ……わかった。正式にひなまつり定番メニューへの苺加入を認めるわ。これでどうや」


「お前が決めることちゃうし苺強すぎやろ。いちごオレ飲むか?」


「マジで? ありがと!」

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