チョコの実
音羽 みゆき
第1話 チョコ
「ねぇ、チョコを持ってる人生ってやっぱり、ほかの奴らよりロマンというか、格別のびっくりが毎日、溢れてるワケなの?」
白地に水色のしましま模様をわずかに反らせてスワンネックにしようとしながら、歯ブラシの超極細毛ちゃんは『ふつう』に、聞いてきた。
「えぇっと〜、どーだろ?とりあえず私は可愛い物好きやから・・・ あの子、正直者過ぎるのに気にしいな、可憐な
それから、マザーグースの歌をバイオリンで弾いてる猫のしおりくん(えっさかほいさ!って講談社の電子書籍の配信をターンしながら、即興で謳ってる)や、first aidと記された、ちびの傷テープやん達が、私は大好きだよ(そんなに毎回切り傷をつくるわけじゃないんだけど、ペタっ!って貼るまねをして、なぐさめてくれるんだ。お菓子である私にもね)」
期待していた返事じゃあなかったようで、短い沈黙を持て余しながら、超極細ちゃんは思案している様子だった。言葉足らずだったのかな?私は続ける。
「つまり、なんていうか・・・ 、確かにチョコはちょっとだけあるんだけどもね」
私は、ミルフィーユ状になっている自分のお腹を、指をまるめて示しながら、つつと撫でた。気を付けないと、爪先でパリパリすると欠片が落ちて、
「それが格別かって言ったらまぁ格別なんだけどもさ、私のまわりの可愛いヒトたちが持ってきてくれるような偶然が一番かもね」
それがもし小さな事でもーー 。
例えば、私の頭上に昇る太陽の艶めきや、鍵編みの、お座りできない子犬の御守りのような色なき風、路上のパン屋さんで売られている食パンの耳たち(15円の安売り)、みんな全て。
その時、柔らかなうす橙色のカーテンの端から、村田さんがこちらを見ていて、目が合った。
「あ、ごめんね。バーム・テスト?終わったから・・・ 歯磨いて来ても大丈夫?」
これだから人間は。話の腰を折って歯磨きするんだから。
「何テストしてたって?」極細ちゃんが、村田さんの上の歯を丹念に磨きながら、尋ねた。パンの欠片が奥歯に挟まっている。
「はの、ひをはく・・・えほっ」言葉を噛んでしまい、慌ててうがいをする。だれかが洗面所にやって来たのが鏡に映る。
(木を描く、テ、ス、ト)変に思われないように、小声で言う村田さん。精神状態を調べるのだそうだ。
ジップロックって透明なうえにロゴマークあるから、何処にでもチョコ菓子が付いていけて便利だなぁ。村田さんはいつも2個のジップロックを抱えて、食堂でおやつの食べもの、パクパク食べたりしてるんだけど。
水が透明ってだけで、『Flower wall』想い出すのは、美味しいものも分け合える嬉しさ、知ってしまったからかなぁ?あなたがチョコにこだわるのも、お互いに足りない何かがあるから、異国で獲れた果実の食べものに、足りない何かを求めてしまうのかな。first aidを手渡す村田さんを横目で見ながら考える。
だとしたら、私はどうして村田さんなんだろ?私に無くて、あなたにある物・・・ 。
思いながら、私はジップロックのなかでみじろぎをする。誰かの持ちものが誰かのものである事。そんな当たり前のことを私はスルー出来ないんだ。私の持ち主は、なぜ世界で1人の、半人前に見える女性の、頼りないこころを持つ(木を描くテストで鳩を描いていた)、村田さんなんだろうか?
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