九条家の襲撃

この後22時にもう1話投稿します。


 ――――――――――――――<前書き>―――――――――――――――


 ──響の息が詰まるような感覚を覚えたのは、アメリアが微笑みながら「お風呂に入りましょう」と言った瞬間だった。


 まるで、何もなかったかのように、いつも通りに振る舞おうとするアメリア。

 だが、その言葉を遮るように、響は低く告げた。


「九条家が本気で狙っている」


 その言葉を聞いた途端、アメリアの目が細められる。

 それは微笑みでも、怒りでもなかった。

 ただ、響の言葉の真意を探るような、鋭い光。


 しかし、次の瞬間だった。


 ──城門が破られる。


 多数の足音。

 戦士たちの気配。


 ──九条家の精鋭部隊。

 その数、十を優に超えていた。


 そして、彼らの中央にいたのは──隼人


 「お前の後を付けさせてもらった、響。おかげでアメリアの以上の場所が分かった」


 隼人が冷たく言い放つ。

 その視線は、もはや妹に向けられるものではなかった。

 ただの化け物を見る目。


「私が、連れてきた……?」


 響の指先が震える。

 私のせいで、アメリアが──。


 ──銃声。


 それが、響の迷いを断ち切る。



 アメリアのドレスは、魔力の装甲。

 並の武器では傷ひとつつけられない。


 ──だが、アメリアは避けた。


 その瞬間、銃弾がドレスの端を貫いた。

 驚愕。


「……あら?」


 隼人が口元を歪める。


 「ただの銃じゃない」


 そう言って、彼は冷たく説明を始める。


 「これは高位の魔の魔力装甲を貫ける特殊弾だ。衝撃を受ければ、魔の体内で破裂し毒を与える。一発で、サラリーマンの月収を軽く超える代物だ」


 そして、それをこの場の全員が装備している。

 アメリアは目を細めた。


「ふぅん、随分と奮発したのね」


 その余裕の声には、確かな警戒心が含まれていた。


 ──アメリアは、黒い壁を作る。

 濃密な魔力が瞬時に広がり、戦場が黒で塗りつぶされる。


 「構うな! 貫通できる!」


 隼人が叫ぶ。

 銃弾が、一斉に壁へと向けられる。


 ──だが、その壁はただの目くらましだった。


 アメリアは、すでに宙へと舞い上がっていた。

 九条家の精鋭の背後へと、静かに降り立つ。


 ──刹那。


 首が、一つ、宙を舞う。


 「なっ──!?」


 驚愕する隊員。

 だが、その間にも──二人目、三人目と、次々に血が飛び散る。

 銃弾が放たれる。

 しかし、アメリアの動きはすでにそれを上回っていた。


 次々と戦士たちが倒れていく。


 ──しかし、その戦闘の中で


 ──恐怖した一人の拳銃は、あらぬ方向を向いていた。


 発砲。

 弾丸は、響へと向かう。



 「響!」


 アメリアが、弾道を見た瞬間。

 ──迷わず、体を投げ出した。


 「っ──」


 銃弾が、アメリアの腹部を貫き──鮮血が飛ぶ。

 響の目の前で、アメリアの身体が傾ぐ。

 そして──口から、大量の血を吐いた。


 「アメリア……?」

 その名を呼ぶ響の声が、震えていた。


「今だ、撃て!」


 隼人の怒声が戦場に響いた。

 次の瞬間、精鋭たちが一斉に引き金を引く。

 轟音と共に、特殊弾が弾丸の雨となり、アメリアの身体を貫いた。


 「やめろ……!」


 響は絶叫し、駆け出そうとする。

 ──しかし、アメリアの手が、それを許さなかった。

 まるで、「響を庇う」ことが、彼女の最後の意思であるかのように。


 「アメリア……っ!!」


 銃弾は、一発も避けられることなく、アメリアの身体を撃ち抜いていく。

 ──腕を、足を、腹を、胸を。


 圧倒的な魔力を誇る壊血の魔女も、

 九条家の精鋭による殺意の弾丸には、抗うことができなかった。


 ──そして。

 アメリアは、地面に崩れ落ちた。



 響の世界が、凍りついた。

 目の前の魔女が、沈黙する。

 鮮血が、絶え間なく流れ続ける。


 ──そんなはずがない。


 「アメリア……アメリア……!」


 響は、その名を呼び続けた。

 ──だが、返答はなかった。

 ただ、冷たい血の感触が、響の指先を染めるだけだった。


 ──その瞬間だった。


 響の背後から、強烈な痛みが走る。


 ──刀が、彼女の背を貫いた。


 「……っ……!」


 吐き出す血の味が、口の中に広がる。


 「銃弾はもったいないからな」


 嗤う声。

 ──隼人だった。

 貫かれた刀が、無造作に抜かれる。

 血が飛び散る。


 響の膝から力が抜ける。

 ──そのまま、アメリアの上に倒れ込んだ。


 「……いいんですか?」


 一人の精鋭が、隼人に問いかける。


 「いいんだよ」


 隼人は、淡々とした声で答えた。


 「父上からは、響も一緒に始末して来いと命令されている。それに、この反応……どう見ても、あっち側だろ?」


 「……そうですね」


 精鋭は、何の感情もなく頷いた。

 蹴り飛ばされる響の身体。

 アメリアの上に倒れ込んだままだった響を、無造作に足で払いのける。

 精鋭たちは、地に伏したアメリアの遺体を見下ろす。


 「こりゃあ、間違いなく死んでるな」


 隼人は、つまらなさそうに呟く。


 「どうします? 皓月は?」


「いずれ死ぬ。放っておけ」




 撤収命令。

 精鋭たちは、仲間の遺体からタグと装備だけを回収し、何事もなかったかのようにその場を去っていった。


 響の世界には、静寂だけが残った。

 精鋭たちの足音が遠ざかる。耳鳴りのような残響。

 そして、血の海の中。


 ──響の指先が、ゆっくりと動く。


 床を這う音だけが、虚ろな空間に響いた。

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