第3話
ウィンザード魔法学校への旅立ち
そして迎えた入学の日。
僕は、指定された駅で待っていた。
「入学生は、○○駅の改札前に集合」
それが学校からの指示だった。
しかし、集合時間になっても、誰もそれらしい集団が見当たらない。
周りを見渡してみる。
駅のホームにいるのは、普通の高校生、普通の会社員、普通の……
あれ?
「あ、もしかして——」
僕は、妙に不安そうにしている数人の姿を見つけた。
——スーツケースを持ち、どことなく不安げな表情。
——そして、手には「どう見ても適当に削っただけの木の杖」。
間違いない、こいつら全員ウィンザード魔法学校の新入生だ。
ということは、だ。
「この中の誰かが、本当に魔法を使える可能性は……?」
答えは、限りなくゼロに近い。
もしかして、全員、僕と同じく「魔法が使えないまま魔法学校に入学する羽目になった」連中なのでは?
しかし、誰もそんなことを言い出さない。
僕も言い出せない。
なぜなら、もし僕が「いやいや、みんな魔法なんて使えないでしょ?」と言った瞬間、「えっ、君だけじゃないの?」 という目で見られる可能性があるからだ。
恐ろしい。
この空気、恐ろしすぎる。
——このまま、魔法が使えるフリをしながら生きていくしかないのか……?
そんな考えが脳裏をよぎる中、ようやく学校のスタッフらしき人間が現れた。
「皆さん、ウィンザード魔法学校へようこそ! では、これから学校へ向かいます!」
一瞬、ハリポタ的な魔法列車とか、異世界転送の儀式とかが始まるのかと思ったが——
「では、このバスに乗ってください!」
——普通に貸切バスだった。
ウィンザード魔法学校、到着
バスに揺られること約一時間。
着いたのは、湖のほとりにある——めちゃくちゃ立派な洋館。
「うお、すごい……!」
これは確かに魔法学校っぽい!
古めかしい建物、重厚な門構え。
本当に城を改装したみたいな雰囲気だ。
「これなら、本当に魔法学校かもしれない——!」
そんな期待を一瞬抱いたが、門の前に立つ教師らしき人物がこう言った。
「では皆さん、杖を取り出してください」
ザワッ……!
空気が変わる。
新入生たちは、自分の杖をゆっくりと取り出した。
——つまり、適当に拾ってきた木の枝である。
僕も、木工店で適当に選んだ杖(棒)を握る。
「……」
「……」
「さあ、入学式の前に、この門を開く呪文を唱えましょう!」
教師が堂々とした声でそう言った。
「開門の呪文は——『ルーメン・オープナス』!」
「「「ルーメン・オープナス!!!」」」
全員が叫ぶ。
その瞬間、門が——
普通に自動で開いた。
「おお……!」
教師:「素晴らしい!皆さん、見事な魔力の流れでした!」
——いやいやいやいやいや。
普通に電動ゲートのモーター音が聞こえたんだけど!?
そして、門が完全に開くと、教師はにこやかに言った。
「皆さんの魔力が門を開いたのです! さあ、中へ!」
——いや、リモコンで開けただけだろ!?
しかし、誰もツッコまない。
ここまで来て、この学校のルールを理解した。
「魔法ではないことを指摘してはいけない」
「すべてを魔法ということにして受け入れる」
それが、この世界のルールなのだ。
入学式の違和感
講堂に集められた新入生たち。
壇上には、いかにも大魔法使いっぽいローブをまとった校長先生が立っている。
——本当にただのローブ。
——しかもよく見ると、刺繍の柄が「おそらく通販で売ってるやつ」。
しかし、そんな些細なことは問題ではなかった。
僕が気になったのは、新入生たちの顔つきだった。
「……」
「……」
明らかに、みんな緊張している。
それも、魔法学校に入ったワクワクではない。
「魔法が使えないことがバレるのでは?」 という種類の緊張だ。
「間違いない……」
——こいつら、全員魔法が使えない。
でも、お互いに「自分だけが使えないのでは?」と疑心暗鬼になっている。
だからこそ、誰もそれを言い出せない。
「魔法が使えません」と言った瞬間、「えっ、お前だけじゃないの?」 という目で見られかねない。
恐ろしい空間だ。
一歩間違えば、最初にボロを出した奴が社会的に死ぬ。
——つまり、俺は慎重に立ち回らなければならない。
校長のスピーチ
そんな新入生たちの不安をよそに、校長が堂々と口を開いた。
「新入生諸君、ようこそウィンザード魔法学校へ!」
「本校は、日本唯一の魔法の英才教育機関として、数多の魔法使いを輩出してきた」
……。
数多の魔法使い……?
どこに????
しかし、校長は自信満々に続ける。
「皆さんは、ここで真の魔法を学ぶことになります」
「杖の扱い、魔法薬学、召喚術、飛行術……!」
「これからの三年間、存分に魔法を極め、立派な魔法使いとして成長してください!」
「それでは、教員代表による『魔法の実演』を行います!」
おっ!?
ついに本物の魔法が!?
教師が壇上に立つ。
「では皆さん、ご覧ください!」
彼は杖を掲げ——
「ルーメン・イルミナス!」
パッ!!
——ただの照明が点灯した。
「おお……!」
新入生たちは、拍手するしかなかった。
僕は悟った
この学校では、
「魔法が使えない」という事実を指摘することは許されない。
すべてを魔法だと言い張ることで成立しているのだ。
……ヤバい学校に来てしまった。
しかし、ここで生きていくしかない。
「……ワクワクしてきたぜ」
——ウィンザード魔法学校での、魔法のない魔法生活が、今始まる。
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