23 第三回ハーレムキャンセルされた人たちのその後

 サラの意識が戻ったときには、ミーリもヘラも起きていた。


「ねぇ、勝ったの?」

 いつもの話し方である。


「ううん。一撃で負けた」

「あたしも」

 冒険者ギルドの医務室で、三人はため息をついた。


 そもそもは、『女性の優秀な冒険者を集めたパーティを作って仕事を依頼したい』とかいう酔狂な貴族の依頼に応募してしまったことから始まる。

 サラもミーリもヘラも、みんなそこで出会った。


 かなりしっかりした面接が三回もあり、これならちゃんとした考えがあっての募集だろうと思った。

 そして、三人が集められて契約を結んでからパーティへの依頼を聞いた。


 これに関しては、ちょっと馬鹿だったと思う。


 なぜ、契約内容を聞いてからサインをしなかったのか。

 ミーリは若いからともかく、サラとヘラは良い大人なのに、契約金に目がくらんで先にサインしてしまった。

 内容を聞いていれば、少なくともサラは断っただろう。



 依頼は、勇者とパーティを組んで魔物を倒して回ること。

 そして最後に貴族の後押しがあったと明かせばその貴族は名誉と権力を得られ、サラたちは破格の報酬を得る。

 ついでに、個別にも依頼を受けた。


 その個別の依頼が全員同じだったとわかったのは、三人がある程度打ち解けてからのことだ。


 三人で何体もの魔物を倒して報告し、貴族の後押しを得てパーティとしてA級になった打ち上げの食事会で判明した。

 まさか、全員に勇者を篭絡しろと依頼していたとは。


 面接で人となりを掘り下げるような質問が多く、しかも何度も確認されたのは、どうやらタイプの違う女性を集めたかったかららしい。

 何人もいれば、誰かしらに勇者をぐらつかせる要素があると考えたのだろう。


 サラたちは依頼主の依頼を引き受けると契約してしまった手前、断ることもできない。


 攻め手は多い方がきっといいだろう、ということで、勇者に出会ったら三人でまとめて誘惑することに決めたのだ。

 キャラ設定もそのときに詰めた。


 貴族からの情報によって勇者の行き先を知った三人は、冒険者が多いその村にやってきて、待つ間に魔物を討伐していった。

 女性三人ということで声をかけてくる男性冒険者もいたが、そのあたりは慣れていることもあって軽くスルーした。


 追加の情報として、勇者には同行している冒険者の女がいると聞いた。

 見目の良い女なので、勇者が侍らせている低級のやつだろう、とも。


 それならサラたちも参加しやすいのではないか、という考えは二人に声をかけてすぐに崩された。



 早々に断られ、あれよあれよという間に勇者のパーティメンバーだという女性と一対多数で対戦することになった。

 サラの意識は試合が始まってすぐになくなったし、ミーリとヘラも、一撃を入れるどころかいつ彼女に剣を向けられたのかも分からなかったという。


 これは、相手の契約違反である。


 契約書には、『依頼者が必要な情報を精査して渡し、サラたちがそれをもとに依頼者の希望を叶えるために働く』とあった。


 勇者のパーティメンバーが本物の実力を持つA級冒険者だというのはとても重要な情報だ。

 もし知っていたなら、サラたちだってやり方を変えた。

 つまり、渡した情報が間違っていたために失敗した、と言えるのである。


 話し合った三人は、その旨をきちんと書き記し、ギルドの契約関係担当者にも確認を取ったうえで依頼主の責任による契約不履行の通知書を送った。


 正直に言えば、もうあの貴族とは関わりたくない。


 三人は、名前を変えて新たに冒険者として登録し、王都からは離れた土地でやり直すことにした。

 貴族からの報復を恐れたため、違約金すら受け取らなかった。

 前金だけでもそれなりだったので、勉強代だと思うことにしたのだ。




「それにしても、よくバレずにいたわね」

 双剣を腰に下げたヘラ改めエレナは、元ミーリに言った。

 それぞれに髪型や防具など見た目も少し変えたが、一番変わったのは元ミーリだろう。


「や、最初は自分が誤解してたって気づいたんだよ?でも、怖くて言い出せなくて。そしたらなんか、合格しちゃってもうどうしようもなくて」

 元ミーリは、長い髪をバッサリ切っていた。


「最近は背も伸びてきたけど、小さかったものね、仕方ないわ」

 サラ改めアンナは、元ミーリに微笑んだ。


「募集文をろくに読みもせずに応募しちゃうくらいには幼かったよ。アイドル的な扱いをされて、適当に笑顔を振りまきながら魔物を倒してお金をもらう仕事だって思い込んでたんだ。だからいけると思って。まさか勇者パーティに参加するとか、誘惑するとか、孕むとか……絶対無理だし。下手に勇者と組むようなことにならなくてほんとによかった」


「ゲレオンは、男の子だものね」

 アンナは微笑んだ。


 アンナもエレナも、パーティを組んですぐに気がついたのだ。

 貴族との契約破棄は恐ろしい賠償金を請求されるらしいと聞いていたので、三人で結託してばれないように立ちまわっていた。


「何で誰も女装だって気づかなかったのかしら。確かに、ゲレオンは綺麗な顔をしてるけどね」

 ミーリ改めゲレオンは、ひょいと肩をすくめた。


「節穴だったんじゃない?それより、明日はもっと南へ行くんだよね?そろそろ休もう」

「ええ」

「そうね」




 女性二人の弟のような扱いになったゲレオンが、年の差を乗り越えてアンナを口説き落としたり、三人がたどり着いた辺境の村でヘレナが村の青年に口説かれて結局三人ともその村に落ち着くことになったり、そこが勇者の出身地だと知って驚愕したり、数年後勇者と再会して謝ったりと色々あるのだが、彼らはおおむね辺境の村で平和に魔物を倒して過ごすことになった。

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