第16話 とある諜報員の報告

 『もふもふ王国』から無事(?)帰還したシャルダン。彼は魔王城に到着するとすぐに魔王ゴルゴンゾーラの下へと足を運んだ。


「シャルダン、ただいま戻りました!」

「ご苦労であった。それで、首尾の方はどうだ?」

「はっ、やはり『もふもふ王国』は我が国への侵略を行うために作られた国で間違いありません」


 彼の言葉に、魔王だけではなく隣に控えている宰相カマンベールも目を見開く。予想できない結果ではなかったとはいえ、魔王たちの希望としては本格的に侵攻されるのは避けたいことだったからだ。


「ヤツらの使う『もふもふ』というのは侵略を意味する符牒。すなわち『もふもふ王国』とは我が国を侵略するための国という意味でございます」

「なるほど、符牒を使えば気付かれぬとでも思ったか。ここまでハッキリと侵略する意思を示してくるとは……」

「そればかりではございません。我々が対抗する準備を進めていることも気付いているようです。私自身、ヤツらに『もふもふしないのか?』と尋ねられました」


 魔王は眉を顰める。魔国に攻める意思があることを把握していることを口実に、『もふもふ王国』側から攻め込むこともありうるということ。シャイニール王国は敵国ゆえに、普段から兵士を配置してはいるものの、大規模侵攻となれば話は別だ。


「ふざけた連中め。魔王様、ここは相手に先んじて攻め滅ぼすべきかと」

「まあ待て、カマンベール。シャルダンよ、ヤツらの戦力はどの程度となりそうか?」

「はっ、敵は兵士の数は多くない模様。しかし、多数の魔獣を使役して攻めてくる可能性が高いと思われます」

「「魔獣だと?!」」


 二人が揃って驚愕の声を上げる。無理もない、なぜなら魔獣を従えて戦力にする戦い方は魔族が得意とするもの。それと同じことを人間がやろうとしているなど俄かに信じられるはずもない。


「だが、人間に従うような魔獣など大したことはあるまい?」


 冷静さを取り戻した宰相が、強い口調でシャルダンに問い詰める。しかし、シャルダンは顔を伏せたまま上擦った声で答える。


「大半は宰相閣下の言葉の通りでございます。しかし、『もふもふ王国』はアイシクルタイガーを従えているようです」

「なんだと、ホワイトタイガーの間違いではないのか?」

「ヤツらはホワイトタイガーだと言い張っておりましたが、人間の言葉を解する上、私の結界をたやすく打ち破りました。明らかに、上位種のアイシクルタイガーで間違いありません」


 シャルダンの報告を聞いた魔王は怪訝そうな表情を浮かべる。彼の報告に不可解な点がある故であるが、魔王はことさら慎重に言葉を選んでシャルダンに問いかける。


「ふむ、だが、アイシクルタイガーも人間の言葉は扱えぬはずではあるが……」

「ヤツらは特殊個体と言っておりましたが……」

「まさか……、コキュートスタイガーではあるまいな?」

「ありえませぬ、それは伝説上の魔獣ではございませぬか。人間ごときに手懐けられるはずはありませぬ」

「私も同感でございます。結界はたやすく破られましたが、死ぬほどではありませんでした。もし、コキュートスタイガーであれば、結界を張ったとしても生きていないでしょう」


 魔王がありえないはずの可能性を口にすると、宰相が声を大にして否定する。それを援護するようにシャルダンも自らの推理を述べる。魔王自身、口にしておきながら、否定されたことに安堵された表情を浮かべて、居住まいをただした。


「ふむ、アイシクルタイガーであれば、強敵ではあるが、勝てぬほどではない。他にも強力な魔獣がいる可能性はあるか?」

「聞いた話では、アイシクルタイガーが最強とのことでした。ただ、弱い魔獣を多数使役しており、それは脅威となりうるでしょう。また、『もふもふ王国』の王は現在の辺境伯の娘。辺境伯が動くと思われます」


 シャルダンの報告に、魔王は腕を組んで考え込む。現状把握している戦力であれば、大きな損害は出るものの、全軍投入すれば勝てないほどではない。懸念点があるとすれば、辺境伯の増援だろう。それに――


「まずは、こちら側に引き込めないか交渉をすべきだろうな」

「魔王様、そのような甘いことを……」

「落ち着け、カマンベール。シャルダンよ、『もふもふ王国』の王が辺境伯の娘というのは間違いないのだな?」

「はっ、なぜか侍女の服を着て出迎えておりましたが、間違いありません」

「侍女の服? 何故に統治者がそのような格好を……だが、そやつが本当に辺境伯の娘だと言うのなら勝算はある」


 勝算という言葉に宰相とシャルダンは俄かに信じられないと言いたげな目を向けるが、魔王は気にせず話を続ける。


「その者は、先日まで第一王子の婚約者だったそうだ。婚約破棄したらしいがな。その際にひと悶着あって、王家と辺境伯家の関係は悪化していると聞いておる」

「な、なんと。ならば、『もふもふ王国』は……」

「そうだ、辺境伯家が独断で作ったものだろう。我々と事を起こせば、王家と挟み撃ちになる。そこに付け入る隙があるはずだ」


 魔王の言葉に得心した宰相の表情がぱあっと明るくなる。謀略めいた笑みを浮かべながら、魔王の方を見て大きくうなずいた。


「さ、さすが魔王様。敵の敵である我々と『もふもふ王国』が手を結ぶことで、シャイニール王国に対抗しようということですな」

「そうだ、さすがはカマンベールだな。察しが早い」

「であれば、すぐに使者を送りましょう。シャイニール王国も同じことを考えている可能性がありますからな」


 宰相はシャルダンの方に向き直る。使者とは言いつつも、より綿密な敵情視察と調略をしろということだろう。それを察したシャルダンは顔を上げて相応しい部下を選び出す。


「モツァレラと、ゴーダ、それからチェダー。この三名を中心とした使者団を送りましょう」

「頼むぞ、シャルダンよ」

「はっ、かしこまりました」


 魔王の前から下がったシャルダンは、すぐに使者を送るための準備を始めるのだった。

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