アイドルの幼馴染くん
蒼林 海斗
ちーちゃんの幼馴染の場合
幼馴染の定義って何だろう。
【幼稚園から高校までずっと同じ学校の二人】
なるほど、端から見れば幼馴染という関係に当て嵌めても問題がないように感じる。
けれど実際のところは、人生の半分以上同じ時、同じ場所で過ごしていたとしても、それほど関わりがない相手などいくらでもいるわけで。彼女もその内の一人だった。
「ちーちゃん」
「あ、ようちゃん」
俺に気づきこちらに駆けてくる千紗――ちーちゃんは、俺の隣に並ぶと友達に向かってバイバイと手を振った。友達もちーちゃんに応えて手を振る。
「幼馴染くんもまたねー」
ついでにと俺にも声が掛かったので、俺は無言で小さく会釈した。
ちーちゃんの幼馴染くん、それがこの大学での俺のポジションだ。
幼稚園から高校まで同じ学校だったと言ったら、いつの間にかそう話が広がっていたのである。当人同士はそんな意識なかったにも関わらず。だが、わざわざ否定するのも違う気がして、結局『幼馴染くん』という称号をいただいているのである。
尚、『ようちゃんの幼馴染ちゃん』と言われることはないらしい。然もありなん。
「おい、さっきのってアイドルの――」
「うわっ、マジだ。初めて見た……やっぱかわいいなー」
道すがらすれ違った男子学生たちがちーちゃんを見てひそひそと話す。
彼女は最近人気急上昇中のアイドルなのだ。そんな人物が同じ大学に通っているともなれば浮き立つ者もいるだろう。が、そんな彼らはちーちゃんの隣を歩く俺と目が合うと、ぎょっとして目を逸らした。
小柄な彼女がちまちまと歩く姿は、保護欲を誘うかわいらしいものだ。大柄な自分が隣にいればなおさら彼女の小ささは際立つだろう。……その内通報されんじゃないかと考えたのは、一度や二度ではない。
明るいブラウンに染めた髪を揺らしながら、彼女は俺を仰ぎ見て言った。
「ね、駅前のカフェ寄って行ってもいい?」
「仕事はないのか?」
「ないよ。今日は一日お休み!」
期間限定パフェが今日までなんだーと溢す彼女の足取りは軽く、妖精の羽でも生えているかのようである。
「なら、俺とじゃなく友達と行けばよかっただろ」
「えっ」
ちーちゃんはその考えはなかったとばかりに目を丸くした。
「でも、前ようちゃんと約束したでしょ? また行こって」
「まあ、そうだけどさ」
付け焼き刃な幼馴染より同性の友達の方が気楽なのではないかとも思うのだが。律儀に約束を守ろうとするところが彼女らしいといえばらしかった。
「ふふっ、じゃあ決定ね!」
パンッと両の手を打った彼女と共に俺はカフェへ向かった。
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