ロボットひな人形

白座黒石

1

 2月下旬。


 去年生まれた娘のため、私は夫と相談して買うひな人形を選び、ネットで注文してもらった。それは男雛と女雛のセットで、凛とした顔のものだ。


 しかし、数日後に届いた荷物の中に入っていたのは、それとは全く似つかないものだった。


 和服を着たモデル体型のお雛様が、箱の中から私に向けてピースサインをしている。その隣には、同じく和服を着てピースサインをする男雛が立っていた。しかも体は球体関節で、一見した感じはロボットのように見える。


 とりあえず、私はひな人形のセットを段ボール箱の中から取り出した。物音を聞きつけたのか、娘を抱いた夫が部屋に入ってくる。


 夫は、部屋に入ってくるなりひな人形を見て言った。


「おー、やっと届いたか! よくできてるな、この服とか」

 それに対して私は、そこはまず注文した商品と違う点に反応を示すべきでは?、と頭の中で突っ込みを入れる。


 私は、夫に言った。


「いや、そんなこと言ってる場合じゃないでしょ。全然注文したのと違うじゃん、これ。メーカーに言ったほうがいいよ」

「でもなあ・・・・・・」


 と、そこで夫はお雛様に目を落とした。私もつられて視線を底に向ける。


 床の上では、娘がお雛様で遊んでいた。相当気に入ったのか、離す気配がない。私が娘の持っている目びなに手を伸ばすと、娘は私からそれを遠ざけて取られないようにしている。


「こんなに気に入っちゃったら、しょうがないかもね。返品はやめとこうか」

「そうだな。」


 と言って夫もうなずく。


「そうと決まったなら、小物類も全部飾り付けちゃおうか。ぼんぼりとか」


 そう言いながら、夫が箱をいくつか開けて、中身を取り出した。その小道具類もひな人形と同じように近未来的で、私は目を見開く。


 ぼんぼりは、ちょっとおしゃれな電灯ランプ。桃の花と橘の木が植わっているのは、和柄模様の植木鉢。まともなのは三色の菱餅ぐらいだろうか。


 植木鉢に和柄が入っているところは、何と川の雰囲気を出そうとするのが感じられる。と言っても結局のところ、これは伝統的な雛飾りというより未来から来たお雛様セットだ。私はあきれてため息をつく。


 と、そこで私の耳に、ウイーンという音が入ってきた。私は音がする方向を向く。視線の先では、男雛と女雛がゆっくりと動き出していた。


 ピースサインから、直立不動のポーズになり、そこで停止する。


 家族みんながじっと見ている中、しばらくして人形から音声が発せられた。


「ハジメマシテ!ワタシは女雛のメビです。きがるにメビちゃんと呼んでくだサイ」


 しゃ、しゃべったー!!もうこれはひな人形というより完全にロボットである。

 そこで、もう一方の男雛も話し出す。


「コンニチハ!ボクは男雛のオビ。これからよろしくネ。?』とか言われなくてよかったヨ」


 ……ん? 最後の文はなんだ?


 そこで私は気づく。

 これは駄洒落なのだ。じこしょうかいじ、こしょうかい。

 まさか、このロボットは駄洒落をかましてくる性格なのだろうか。


 私たちの娘は、まさか駄洒落が分かるわけではあるまいが、かなりはしゃいでいる。けっこう癖の強いロボットだが、娘が喜んでいるのだからまあ良しとしよう。


 こうして、二体のひな人形がうちで飾られることとなったのである。






数日後。ついにひな祭りの日がやってきた。


私たちは娘の初ひな祭りのために部屋を飾り付け、たくさんの料理を準備する。部屋の端っこにはひな人形も置いてある。自分のために用意された部屋を見た娘はご満悦だ。


私と夫、娘の三人全員がイスに座り、手を合わせる。


「いただきま……」


 そこで、私の耳に機械の駆動音が聞こえた。ウイーンという、モーターが回転する音。


これは―――。


「皆さんコンニチハ!今日は楽しい楽しいひな祭りでスネ!」


 と言いながら、メビちゃんがセットの中から飛び出してきた。そしてもう一人。


「やあ。オビも来たヨ。初めてのひな祭り、オメデトウ! エ!」


うわ、また駄洒落が来ました。とりあえず娘は手を叩いて喜んでいるけど。

メビちゃんが、私たち三人に向けて言う。


「えー、では、私たちからのお祝いとして、お歌を歌いたいと思いマス!曲は、『うれしいひな祭り』」


 メビちゃんがそう言い終わると同時に、どこからか♪チャチャッチャ~というメロディーが流れてくる。音の発信源を見ると、鼻歌でオビちゃんがメロディーを奏でていた。


しばらくオビちゃんの前奏が流れた後、歌が始まる。


「♪明かりをつけましょぼんぼりに~。お花を挙げましょ桃の花―――」


メビちゃんの口から流れ出したのは、クリアな美しい歌声だった。ロボットなのかと思うほどの豊かな表現力で、メビちゃんは歌い踊っている。私たちも娘も、静かにメビちゃんの声に聞き入っていた。


「♪着物を着かえて帯締めて~。今日は私も晴れ姿―――」


そろそろ歌も佳境に入ってきたころ。不意に、上から落ちてきた小さな紙が、私の頭に乗っかった。私は思わず上を見上げる。


その視線の先に会ったのは、大量の紙吹雪だ。その紙吹雪はどこから出ているのかと言えば、オビちゃんのパカっと開いたおなか部分からである。なぜか足を2メートルほど長く伸ばしたオビちゃんが、上から色とりどりの紙吹雪を降らせている。


 足があり得ない長さに伸びているところとか、おなかが開いて紙吹雪が勢いよく度得てきているところとか、ちょっと起毛な感じがしないでもない。まあ、このひな人形たちが変なのはいつも通りだと思う。娘も普通に喜んでいるし。



そういえば、うちの娘って多少のことには動じない子なのでは……?


などと思っていると、いつの間にか曲が終わっていた。私たちは、楽しいパフォーマンスをしてくれた歩たちに拍手をする。


「ありがとうございました!」


 メビちゃんとオビちゃんが、二人でそろってお辞儀をする。オビちゃんは、いつのまにかいつも通りの足の長さに戻っていた。


 二体の人形は、元の代の上に戻っていこうとする。それを、娘が捕まえて引き留めた

「もっとあしょぼ!」


 オビちゃんとメビちゃんは、目を細めて微笑む。


「いいですよ」

「もちろんいいとも!」


遊び始める一人と二体を見ながら、夫がつぶやく。


「よかったな。相当気に入ってるみたいだ。それに、あんなに明日伸びたり紙吹雪が出てきたりするなんて思ってなかったよ。あれならしっかり霜花そうかを守ってくれそうだな」


「守る……? それってどういうこと?」


 そう問いかける私に、夫がひな人形の入っていた箱を見せながら答える。箱の側面には、小さく『娘さんをしっかり守ります ロボットおひな様』と印字されていた。


「こんなことが書いてあるってことは、なんかいろいろできるんだと思うぞ。パンチしたり、回し蹴りをしたり」

「いや、さすがにそんなことまでできるわけないでしょ。てか、そうかちゃんが危険に遭わないのが一番じゃない」

「それもそうだな」


 私たちは、そこで改めて自分たちの娘に目を向ける。そこでは、戯れる我が子と二体のロボットがいた。楽しくに遊ぶようすに、私たちもつられて微笑んだ。

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