「好きって言うまで、壊してあげる」

絆川 熙瀾(赤と青の絆と未来を作る意味)

「光の先輩」

朝、理科室に漂う薬品の匂いと、淡い光が差し込む中で、ブリュンヒルデは一心に清掃をしていた。彼女はきちんとした態度で、誰にも気づかれず、黙々とその作業をこなしていた。しっかりとまとめられた髪、白いエプロン、きれいに並べられた器具たち——その一つ一つに彼女の慎重さと几帳面さが表れていた。


「きれいにしなくちゃ……」


ブリュンヒルデはそうつぶやき、机を拭き続ける。彼女にとって、すべてが完璧であるべきだった。その時、理科室の扉が開き、軽やかな足音が響く。


「おはようございます、先生。」


その声が、彼女の耳に届く。ブリュンヒルデは顔を上げ、見ると、ヤバイ先生が立っていた。少し緊張しながらも、挨拶を返す彼女に、先生は笑顔で答えた。


「おはよう、ブリュンヒルデ。」


ヤバイ先生は自信たっぷりに話しかけ、何やら手に持っている瓶を見せてきた。それは、鮮やかな色をしたジュースのようだ。ブリュンヒルデはその異常な色に一瞬驚いたが、すぐに無理して微笑み返す。


「今日は特別にジュースを作ったんだ。君が好きそうな味にしたんだよ、飲んでみて。」


その言葉には少し困惑の色が見え隠れしていた。だが、ブリュンヒルデはそんなヤバイ先生の気遣いに甘え、ジュースを受け取った。たとえどんな味でも、先生が気にかけてくれていることに感謝していたから。


「では、いただきます。」


彼女は一口、ジュースを飲んだ。その瞬間、甘くもあり、どこか不安な味が口の中に広がった。だが、それがどうして不安なものなのか、説明できなかった。


「ん…?」


一瞬だけ視界がぼやけ、体に違和感を覚えたが、すぐに気を取り直そうとした。だが、意識が次第にふわふわと遠のいていき、足元がぐらつき始めた。その瞬間、ブリュンヒルデはバランスを崩し、理科室の床に膝をついてしまう。


「あれ?」


意識が薄れ、体を支える力も弱くなっていく。頭の中で何かが叫ぶように、彼女はなんとかしてそれを振り払おうとした。だが、無情にも体は反応しない。


その時、ドアが開き、フロウ、ハヤテ、バーン、ロックが一斉に入ってきた。彼らの足音が響き、慌ただしい声が聞こえる。


「どうした!?」


「ブリュンヒルデ!?」


フロウが最初に駆け寄り、彼女の状態に気づく。彼女の異常にすぐに反応したフロウは、彼女を抱きかかえながら、他の仲間たちに指示を出した。


「俺が運ぶ。君たちはこっちで待ってろ。」


「フロウ、しっかりしろよ!」


彼らはフロウの言葉に従い、心配そうな表情を浮かべつつも、道を開けてくれた。フロウはためらうことなくブリュンヒルデをお姫様抱っこするように優しく抱き上げ、そのまま急いで理科室を後にした。


「大丈夫か、ブリュンヒルデ……?」


フロウの言葉は、彼女に届くことなく、空へと消えた。


理科室から保健室へ向かう途中、フロウはひたすらに走る。その顔には一切の迷いがなかった。仲間たちも心配そうに後ろからついてくる。ブリュンヒルデの小さな体を抱えたフロウは、周りの音や景色をまるで意識していないかのように、ただただ走り続けた。


ようやく保健室の扉が見え、フロウはそれを勢いよく開けた。保健室の中で、斉藤桜先生が待機していた。彼女は一瞬、フロウを見て驚いた顔をしたが、すぐに冷静さを取り戻し、ブリュンヒルデをベッドに寝かせるよう指示を出した。


「何があったんですか?」


「ジュース、です。先生が作ったんだ。」


フロウが急いで状況を説明するが、桜先生はそれを無言で聞きながら、ブリュンヒルデの様子を観察している。


「これは……ただのジュースではありませんね。」


桜先生は手際よくブリュンヒルデに処置を施しながら、言った。


「でも、どうして先生はこんなものを?」


フロウが尋ねると、桜先生はその問いに答えず、ただ冷静に指示を出している。ブリュンヒルデの顔色が徐々に戻り、少しずつ意識を取り戻し始める。


次回予告


次回、「ひかりの先輩」第三章:「新たなる計画」


ブリュンヒルデが意識を取り戻したとき、体にはさらなる異変が広がっていた。ジュースに隠された謎と、それを飲んだ理由。そして、ヤバイ先生の本当の目的が少しずつ明らかになる。仲間たちは、この新たな危機にどう立ち向かうのか?フロウたちの知らぬところで、計画は着々と進んでいる。果たして、その計画とは一体何なのか?次回、「新たなる計画」に注目。

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