第49話

「お気遣いと心配、ありがとうございます」


「でも、きっと太一とあなたとでは、パソコンに出るテロップが違うのよね」


「そうだと思います。堂々と私の名前が書いてありますし」


「じゃあ太一の時は、太一の名前が出たということでしょうか」


由香は時々ふらつくが、とても冷静だ。


「そこまでは分かりませんが、可能性はあります」


「どうやってあなたや太一、その他行方不明になった子たちの名前を探してパソコン上で日本人形とテロップなんか流せるのでしょう。しかもノイズ入り」


「弊社編集部でもちょっとだけそのことが話題になりましたが、誰もわかる人はおりませんでした。専門家に頼んでも、わかるかどうか……」


もしかしたら編集部が専門家に頼んでみてもらうべきではなかったのか。経費も会社から落ちるし。瞬時にそう思う。だが、もう玲奈も今日明日、どうなるかわからない。


だから、昨日怖い経験をした後すぐ家を回っている。なにもわかりませんでした、すみません、というよりよほどいい。内心でそうなることも恐れていたから、オカルトでも説明ができて、玲奈も安心している部分はある。


「わかりました。こちらでも主人と話して今後どうするか、少し考えてみます。でも生きている可能性も出てきました」


「そうですね。テロップには殺人を仄めかすようなことはなにも書かれていませんし、どこかで生きているのかもしれません。『深淵ちゃんねる』が本当にある世界であったとしても、殺すことはしないと思います」


非人道的なことをしているから、本音はなんとも言えないが、殺すとは一言も言っていないのだ。動画にも、犯罪者と六十歳以上の処刑以外、殺しを示唆するようなことは書かれていなかった。


「こちら、録画した動画のコピーとなります」


コピーしたSDカードを渡す。由香は丁重に受け取り、言った。


「あの、行方不明の子、あなたが調査している限りであと二人いるのですよね? 協力関係を頼めないでしょうか」


「電話してみましょうか? あ、でも一人、親を放棄しているかたがいるので、その人には連絡できません」


平助の親だ。


「放棄とは?」


ピンとこないようだったので簡単に説明した。


「なにそれ。そんな親がいるんですか」


びっくりしたように言う。


「いるんですよ。だから、本日先にお邪魔したかたにお電話してみますね」


「お願いします」


玲奈は会社支給の携帯から、葉子の家に電話をかけた。葉子が出ると事情を説明する。


そうして、葉子も協力関係を結びたいというので、電話を由香に貸した。由香は酔うこと話し始める。


軽く事情を話し、おそらく葉子からも事情を聞いて、メモを取り始めた。


日付と日時、電話番号を書いている。由香も自分の携帯電話の番号を教えていた。そうして、会う約束をしたようだ。電話を切る。


「すみません、長い間お借りしちゃって」


「いえ、構いません」


スマホは返された。


「では、斎藤さんと話し合いをしてみます」


「私ができることはここまでです。これ以上のことは、申し訳ございません」


「いいのよ、警察じゃないのだから。若いお嬢さんが力を尽くして下さって。ここまで進展があっただけでも私どもにとっては本当にありがたいです」


由香は言って微笑む。


「そう言って頂けると助かります」


深々とお辞儀をして、家を出ることにした。傘をさす。玄関先まで由香は見送ってくれた。


「あなたも気を付けてね。本当に」


「はい」


もう気を付けられないところまで来ている、と葉子の時も思ったが。気を付けて、と言われるのもありがたく思った。


傘をさす。雨は強くなっていて、傘に打ち付ける雨音が聞こえていた。


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